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エブリデイ・コンバット  作者: 風増
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ヒミツガールズ・トップ・シークレット(2)

「国家正義、保安……協会……?」


 そのまま俺が声に出しながら読むと、


「藤波です。よろしく……真壁、周平くん」


「はい……え?あ、俺の名前……」


 不意に名前を呼ばれて、少し驚いてしまった。


「昨日、彼女の方から報告を受けてね」


 と、藤波さんは蕾香さんの方を見て言う。


「勝手な話で申し訳無いが、君のことを調べさせてもらったんだ。こちらの職務上必要なことでね。あまり気を悪くしないでもらえたら、ありがたい」


 一体、この人は何者なんだろうか。


 と言うよりも、一体彼女とはどういう関係なんだろうか。ちょっと内心穏やかでない。


「……分かりました」


 実際、あまり分かってはいないけれど。


「ありがとう。それでは……今から少し、僕たちのことについての話を聞いてほしいんだが……」


 そして、藤波さんは俺の顔を見据えて、


「突然だけど、君は、世の中の『悪い人たち』とは、誰が戦わなければいけないと思う?」


 そんなことを聞いてきた。本当に突然だな。


「え……?誰って……まあ、警察……ですかね」


 とりあえず、『悪い人』という言葉から連想したことを、何となく答えてみる。


「そうだね。悪と戦い、市民の治安を守っていくというのは警察の仕事だ。……では、その警察でも手に負えないような、『もっと悪い人たち』は、誰が相手をすればいい?例えばそれが、銃や兵器で武装したテロリストの集団…だとしたら」


 何だか物騒な話になってきたな。ややこしく考えても仕方がないので、


「……何か、自衛隊とか」


 そう答えた。短絡的な考えかもしれないが、もとよりそんな知識に豊富な訳でもない。映画や漫画の受け売りだ。


「なるほど、確かに自衛隊なら、戦う力という話で言えば、警察よりも『強い』ということになるね」


「……たぶん、そうなんじゃないかと」


「しかし、大きな力を持つ防衛部隊というのは、警察に比べるとフットワーク、というものが重くなってしまうものなんだ。行動に対する制限もそれだけ多くなる。もしも、その『もっと悪い人たち』が、君の家の近くにあるコンビニや、学校に突然現れたりしたら、その時はどうすればいいかな?」


 まだ続くのか。そんなこと言われてもな…。特に答えも出てこない。


「……分からないです」


 と、俺がギブアップすると、


「そういう場合のような、近い将来にも考えられる、警察機関の抑止力を超え、多様化するであろう局地的な凶悪犯罪を迅速に対処する、というのが僕たちの仕事なんだ」


「……はあ」


 話のスケールが随分大きくなってきたせいか、曖昧な返事になってしまった。


「国防省主導による特務警備機関、国家正義保安協会……。呼びやすいように、略して『正協』とか呼ばれているかな。分かりやすく言えば、その肩書きにもある通り、『正義』の味方というやつだね」


 普段使うことのないような単語をまとめて聞かされて、頭の中でもう一度復唱してみても、実感は湧いてこない。


 ただ、正協という名前の響きには、国家とか付く割に庶民的な感じだな、と何となく思った。


「そして、彼女たちは僕と同じく正協のメンバーであり、共に戦ってくれている仲間なんだ」


 藤波さんがそこまで言ったのを聞いて、


「ちょ、ちょっと待って下さい」


 俺は一旦話を切った。

 聞きたい事はすでに二桁を超えているが、まずは、このことを聞かなきゃいけない。


「あの、どうして……朱川さんなんですか?だって、ほら、まだ学生だし。それに……」


 とりあえず、そういう国家が正義を保安する協会があるのは百歩譲って理解したとする。


 …………はい、理解しました。


 でも、だからってなんで、蕾香さんがそこに所属しているのか。


 それに、


「女の子、じゃないですか」


 これは俺の主観だが。


 そしてそれは、蕾香さんだけじゃなく、そこに居る石沢にしても同じことだ。

 そんな『悪い人たち』を相手にするだとか、危なっかしそうなことに関わっても、あまり良い事はないんじゃないのか。


「そうだね。君の言う通り、もっともな話だ」


 すると、藤波さんは俺の疑問を予想していたかのように、鞄から何かのケースを取り出して俺の前に置き、開けた。


 その中身は一見すると、あまり馴染みの無さそうな金属で作られた、輪っか……というか、何というか。スイッチやボタンらしきものが付いているということは、機械の類なんだろうか。


「そこで、こいつの話になる」


 とりあえず、じっと見てみた。

 しかし、いまひとつその用途は想像できない。


「触っても、別に大丈夫だよ」


 蕾香さんにそう言われたので、その輪っかを慎重に手に取ってみる。

 感覚的には、思ったよりも軽かった。


「ええと、これは……?」


「今から五年程前に、ある科学者が開発した機械さ。そしてこれが、正協という組織の要となるもの……」


 藤波さんは残ったお茶を飲み干してから、


「『瞬間式増幅駆動機関』、通称、オーバードライバーという。早い話が、人をスーパーマンに変える機械だよ」


 冗談っぽさは無い真面目な顔でそう言われて、話の飛躍する速度がメーターを振り切った気がした。


 国家組織の正義の味方に、今度はスーパーマンだ。

 この流れでいけば、次はそろそろ巨大宇宙怪獣や異世界から来た能力者が出て来そうな気がする。


「直接、肌に触れるように装着して起動すると、そこから神経を介して脳がこいつとリンクする。そして、細胞の潜在的な部分を覚醒、活性化し、身体能力を飛躍的に向上させる特殊な電子信号が全身に流れることで、常人以上の、文字通り超人的な力を得ることができる。大体の仕組みはまあ……そんなところかな」


「はあ……」


 当然、というか現実味を感じられない。そもそも、脳と機械をリンクさせるとか、大丈夫なのか?


「身体に影響を与える、という点で危険なものだと思うかもしれないが、使用上の注意を十分に把握し、誤った使い方をしなければ大きな副作用はない。現代の科学においても、画期的な大発明さ」


「……だと、思います」


 確かにそんな機械があるなら、いろいろと世の中便利にもなるだろう。具体的な使用例がすぐには浮かばないが。


「ところがこれは、誰もが使えるという訳じゃない。適性というものがあってね。おまけにそれは、先天的な……つまり、生まれついてのものなんだ」


 藤波さんは続ける。


「人間の血液の中には、抗体というものが存在する。体内に侵入した細菌やウイルスから身を守ったりするのが主な役目だ。授業で習ったりしたことはないかな?」


「あ……はい、一応は」


「抗体は人それぞれに違うタイプのものを持っている。そしてその中には、稀に特殊な抗体を持って生まれて来る人がいるんだ。普段は本来の役割から外れて、何にも反応する様子がないことから、何も響かないという『Flat』の頭文字を取って、F抗体と呼ばれているんだが……しかし、オーバードライバーは、こいつから発信される電子信号が唯一そのF抗体を媒体として作用することで、初めて性能を発揮できるようになる。我々にとっては、非常に重要なものだと言えるね」


 あまり得意ではない科学的な説明をされて、なんとか理解しようとしてみる。

 このスーパーマンになれる機会は使える人が限られていて、それを……ん?


「あの、それは何で分かるんですか?その……適正、とかは」


 その辺はどうやって知ることが出来るんだろうか。全国中で抜き打ち検査みたいなことでもやるんだろうか。

 いや、それは素人的に考えても、効率が悪い。


「ああ、それは……『国民健康診断推進制度』、というのは君も知っていると思うんだが、どうかな?」


 と、藤波さんに返されたその言葉には一応、覚えがあった。

「ええ……あの、血を登録するってやつ……ですよね」


 小学生の時に、新しい医療のシステムがどうのこうのみたいなことを、大々的にテレビのニュースや新聞で流されていたのを思い出した。

 確か、とりあえず血液を登録したら何かと便利になりますみたいなことだったか。


「そう、国民一人一人の血液情報を全国規模でデータベースに登録し、医療行為や手続きをスムーズにしたり、統計学、その他の面からも医学の推進を図るという制度だ。今では全国でも七割以上の人間が登録していることになっているね」


 何となく、話の先が見えた気がした。要するに……、


「そのデータベースを使えば、個人が持つF抗体の有無も知ることができる。勿論、法に則った上で」


 ……ということか。便利そうな話だが、自分の知らないうちに自分の知らないことを事細やかに知られてそうで、何か不安だとも思った。


「もっとも、僕らのためにその制度が作られたわけじゃないがね。この組織が発足した時期と、制度の運用時期が、運良く重なったという話だよ」


 運良く、か。その辺の真偽がどうなのかは分からないところだが、それは今はひとまず置いておこう。


「……お代わり」


 間をとるように、石沢がまたお茶を煎れてくれた。全員の湯呑みにきっちりと急須の中身を注ぎ切ると、


「……これも」


 真ん中に置かれていた器の蓋を取って、中に入っているお茶菓子を推めてきた。


「あ、どうも。……じゃ、いただきます」


 小さいカステラみたいな洋菓子を一つ取り出して、口に運ぶ。

 二杯目のお茶を飲みながら、話をもう一度頭の中で整理していると、


「で、あたしたちはその適性がある人間なんだって」


 蕾香さんが、サラダ煎餅の包みを開けながら俺に言った。


「ある日ね、いかにも『大金持ちのお屋敷』みたいな所に呼び出されてさ、『正義に興味はありませんか?』って聞いてくるんだよ?漫画みたいじゃない?」


 と、笑う。確かに。自分がその立場だったらドッキリの可能性以外考えないだろう。


「その適性が判明して、こちらの選考基準に問題が無いと判断出来た人には、僕たち組織の人間が直接話をさせてもらうんだ。本人の意思を尊重するというのが第一原則だからね。勿論、その話を断ったとしても、何の罰則やリスクもない。そしてそれがクリアになれば、面接、検査、基礎訓練を経た上で、正協のメンバーとして所属してもらうことになる。新しいヒーローの誕生だよ」


 藤波さんが話すのを聞きながら、それとなく蕾香さんと石沢の方を見た。

 しかし、何と言うか、二人ともよくオーケーを出したもんだな。


 ……ん?


 あれ。何かが抜けているような。


「あの」


 そうだ。


「じゃあ、あいつは何者なんですか?あの、佐山……って人は」

 

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