兄と忘れてた人
「やあ。久しぶりだね、アルフレッド」
どうしてこうなったのか。少年アルフレッドは昨日の出来事で何がいけなかったかを必死に考えていた。
昨日は確かに浮かれていたのだ。旅に出てなかなか会えない幼馴染と久しぶりに再会し、普段照れ隠しで幼馴染の前ではクールぶっている自分も、昨日だけは嬉しさからきっと顔がにやけていたに違いない。昔から自分が好意を寄せるシェリー。今日こそは最高に素敵な夕日と花畑を見せて告白しようと意気込んだ。自分なりに最高にクールに約束を取り付けたと思った。だがしかし。何故天敵とも言える幼馴染の兄が目の前にいるのだろうか。アルフレッドはまた頭を抱え込んだ。
「いつまで何を悩んでるんだい?アルフレッド。 ずっと黙りじゃ流石に穏やか代表の俺でさえ、苛々しちゃうなあ」
穏やか代表なんてどの口がいうか!そう心の中でしか悪態が吐けないほど、アルフレッドは目の前のヴァイスを恐れていた。
昔からそうだった。この妹馬鹿な兄は自分が妹に会おうと約束をする度に何処からか現れて妹に聞こえないように暴言を、妹に見えないように制裁を加えるのだ。本当に恐ろしい人である。
この兄の異常なまでの妹への執着心は自分と兄本人しか分からないだろう。他の者は仲がいい兄妹だね位としか思っていない。ただのシスコンかと思ったら大間違いなのだ。この兄の中には途轍もない歪んだ感情が妹に向けられている。
「で。俺の可愛いシェリーに見せたいものってなんだい?はっ…まさか夕日とか綺麗な花畑とかそんなふざけた事は言わないだろ?そんなものを見せる為に俺の可愛いシェリーの時間を割くだなんて野暮な真似はしないと俺は信じているよアルフレッド。君はもっと賢い人間だったはずだ。俺と君の付き合いがどれほど長いかなんて周りの人も見たら分かるからね。だから君がそんな事を重々承知で、俺の可愛いシェリーを夕日や花畑に連れ出すなんてことはないと思うんだ。で?俺の可愛い可愛いシェリーに見せたかった物ってなんだい?」
「すみませんでした…」
嗚呼やはり俺はこの人にはいつまでたっても勝てないのだと恐ろしいほど綺麗な翡翠色の妹と瓜二つの目で睨まれて気づく。同じ目なのにこうも違うものかと頭の奥隅で考える。
広場にある大時計が三時の針を指し、噴水が出るのを何となしにぼうと見つめていると。兄さん、そんな声が何処からか聞こえた気がした。
瞬間、ヴァイスの瞳が柔らかくなる。
「ああ可愛いシェリー。今日は外に出てはいけないと行ったのに」
「それが意味わからないって。外側から鍵が掛かってたから窓から出たこっちの身にもなって欲しいんだけど」
「な、なんだって!?ま、窓から飛び降りたのかい!?シェリー!!」
瞬間彼女はしまったと顔をしたのがアルフレッドも分かった。何年も一緒なのになぜ学習しないんだと、他より少し抜けてる幼馴染に頭が痛くなる。これで幾度シェリーを守る羽目になったのか。その時にありがとうと笑顔で言われる事で許してしまう自分も自分だが。
一方兄の方は妹が窓から出たという話を聞き、自信を凄く責めつつ妹の体になんの傷もないか必要以上に触って確かめていた。
「ああ、もうシェリー、俺がドアなんか閉めるから、あああ」
「だ、大丈夫だ、から、ちょ、ひぅ…に、兄さん変なところ触らないで……!!」
「大丈夫だよ大丈夫。兄さんが全部見てあげるからな」
「な、なんか息荒い……ぁ…そ、は、ぁ…そそそこはだめぇ!!!」
瞬間ぼごっとした音がしヴァイスは地面に倒れた。顔を赤くはあはあと息切れをして仁王立ちをしているシェリーの勇姿をアルフレッドは忘れない。自分が何もできずにいたのともう少しシェリーの淫らな姿を見たいという己の欲望に寧ろ俺も殴ってくれとシェリーに頼んだが、案の定不思議な顔をされただけで罪悪感でいっぱいになった。しかし、アルフレッドが撃沈する極め付けはシェリーに言われたこの一言だった。
「あれ、アルいたの」
この日アルフレッドのマクラが濡れたのは言うまでもない。