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続、小説・吸血鬼の村  作者: iris Gabe
第一部
4/20

4.偽善者同士の腹の探り合い(初日、日中)

高椿子爵「では、GMゲーム・マスターから告げられた、初期指示の確認をいたします。

 このゲームの参加者は十名で、オリジナル吸血鬼が二人います。それから、使徒が一人、さらに、村人側の特殊能力者として、天文家が一人と、猟師が一人、そして片想いが一人います。それ以外の四人は村人ですが、四人のうち一人は片想いから慕われている『想われ先』ということになります。以上の事実は、我々が今後の推理を進める上で貴重な手掛かりとなりましょう」

小間使い葵子「ご主人さま、わたくしにできることがございましたら、なんなりとお申し付けくださいませ。吸血鬼たちが行動を起こす夜になる前に、なんとしても対抗策を講じなければなりません」

令嬢琴音「お父さまをこんなむごい目にわせた鬼たちをやっつけるためなら、うちなんでもする覚悟やからね」

女将志乃「あらまあ、村長さんって殺されたことになっているのね?」

行商人猫谷「それにしてもひでえな。あんな死に様は、まともな人間の仕業じゃねえ。ひょっとすると、古文書に記された鬼夜叉きやさ明神さまの祟りなんじゃねえのか?」

土方中尉「余はこれまで数多くの死体を目の当たりにしてきたが、あのように奇怪な遺体は初めてだ」

蝋燭職人菊川「祟りなど、この昭和の時代に残っているはずがない。これはれっきとした殺人事件なのだ。そうだ。きっと、そうに違いない!」

 包帯姿の職人が両手のひらをじっと見つめて声を震わせている。

書生和弥「おやおや、職人さん。早くもビビっていませんか? やれやれ、先が思いやられるな。もっと、気楽に行きましょうよ」

子守り千恵子「お兄ちゃん、包帯のおじちゃんをからかっちゃだめ。みんなで仲良くしなきゃ」と、すかさず千恵子がたしなめた。

小説家望月「どうやら、ここに居るわたしたちは生死を分ける窮地に立たされたようですな。これからの行動は冷静沈着に振る舞わなければ、鬼夜叉村はいとも容易たやすく魔の手に落ちてしまうことでしょう」

行商人猫谷「待ってくれよ。脅かしっこはなしだぜ」

女将志乃「そうはならないように、あたしから提案させていただくわ」

 七竈ななかまど亭の美人女将が、さっと手をあげると、さも自信ありげに語りはじめた。


女将志乃「GMの報告によれば、あたしたちが生き残るためには、あたしたち十人の中に潜んでいる二人の魔物を見つけ出して処刑しなければならないのよね。そして、その実現のためにあたしたちが真っ先に取り組まなければならないこと、それは――、天文家をまもることよ。 

 あたしたちにとって、天文家こそが鬼たちの正体を暴き出すことができる唯一の光なの。だから、今日行われる処刑では、どうしても間違って天文家を処刑することがあってはならないわ」

土方中尉「それでは女将どのには、余たちにもできるなんらかの妙案があるとでもいわれるのか?」

行商人猫谷「天文家が自ら名乗り出りゃ、そいつを間違って吊し上げることもなかろうが、そんなことをすりゃ、吸血鬼たちの格好のターゲットになっちまうしなあ」

子守り千恵子「にやにや顔のおじちゃん、吊し上げるってどういう意味?」

行商人猫谷「えっ、にやにや顔のおじちゃんって……、俺さまのことか? いちいち面倒くせえな。あのな、吊し上げるとは、投票を行ってそいつを処刑しちゃうことだよ。それからなあ、おじちゃんじゃなくて、お兄さまと呼べよな。こう見えても、俺さまはひとりもののご身分なんだから」

令嬢琴音「ほんなら、女将さんの意見を聞こうやないの?」

女将志乃「えへん、じゃあお嬢さまのお言葉に甘えて……。

単純な話よ。天文家が自分の正体を暴露すればいいのよ!」


 包帯男が食卓をどんと叩いて立ち上がった。

蝋燭職人菊川「これはなんと。女将は、気でも違われたのか? そんなことをすれば、告白した天文家は今夜にでも吸血鬼たちに襲われてしまうぞ!」

女将志乃「でも、天文家を誤って処刑するといううれいは無くなるわ」と女将は平然と反論した。

書生和弥「なるほどね。猟師の存在ですか……?」

令嬢琴音「えっ、和弥さん。どういうこと? うちにはさっぱりわからへんけど……」

書生和弥「つまり、志乃さんがいわれるのは、仮に天文家が名乗り出ても、猟師が夜間に天文家を護衛することができるから、鬼たちも迂闊うかつには天文家を襲えない、ということでしょう」

行商人猫谷「なあるほど。猟師が潜伏していさえすれば、天文家が名乗り出ても大丈夫だというわけだ!」

子守り千恵子「天文家が護衛されるって、どういうこと?」

 猫谷がまたかと顔をしかめたのを見て、ご主人さまが代わってご説明された。

高椿子爵「それはね、お嬢さん。猟師は、夜のあいだに一人の人物の護衛ができることはご存知かな? 猟師が名乗り出た天文家を護衛していれば、吸血鬼たちが何度襲ってこようと、彼らの攻撃を全て無に帰することができるのですよ。場合によっては、銀の弾丸を仕込んで、襲ってきた吸血鬼を逆に殺してしまうことだって可能です。だから、猟師さえ健全であれば、吸血鬼たちは天文家という美味しそうな獲物を、いくら襲いたくても襲えないというわけですよ。はっはっはっ……」

小説家望月「七竈の女将さんのおっしゃることはよく理解できますが、天文家の告白よりも前に、片想いを告白させるべきじゃないでしょうか? もし片想いの告白が一人しか出なければ、わたしたちはその人物を安心して白(村人側に属する人物)だと断言できますからな」

行商人猫谷「そいつは確かに道理だが、果たして片想いの野郎がすんなり告白するだろうか?」

蝋燭職人菊川「無理だな! 誰だって、むざむざ鬼のターゲットになるとわかっていながら自分の正体を暴露するなんて、できるはずがない!」

小間使い葵子「そうとも限りません。鬼の立場に立ってみれば、片想いの人物をゲームの序盤で襲うことは、得策とは思えません。片想いを襲っても、村人側の人物が一人減るだけ。その分、天文家や猟師への究明が遅れて、彼らに仕事をさせてしまいます。

 鬼がいち早く殺したいと考える人物は、片想いのお相手の『想われ先』であり、感染させたいと思う人物は、天文家と猟師のお二人ですから――」

土方中尉「ということは、もし片想いが正直に名乗り出ても、鬼たちはすぐに襲うことはないと……?」

小間使い葵子「その通りでございますわ。中尉さま」と、私はにっこり微笑んだ。

高椿子爵「どうやら流れは葵子のいう通りになりそうだね。それじゃあ、わたしから告白させていただきましょう。わたしは片想いではありません!」

 どうやらご主人さまがさらなる後押しをしてくれたようだ。

行商人猫谷「子爵の坊ちゃんよ? 天文家の告白のほうはどうするね?」

高椿子爵「まずは、片想いに限定して告白を回して行きませんか? 天文家の告白はその後で考えましょう」

行商人猫谷「そうかい。そういうことなら、仕事一筋の俺さまも、恋なんて悠長なことしている暇はねえのさ」

 小指の先で耳穴をほじくりながら、行商人もあっさりと片想いでないことを宣言した。


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