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続、小説・吸血鬼の村  作者: iris Gabe
第四部
18/20

18.水鳥の羽音(四日目、日中)

 すずめ色の長着を無造作に着流した猫谷が、縁側から差し込む朝日に向かって大きく背伸びをした。

行商人猫谷「どうやら無事に四日目の朝を迎えることができたようだな。どうでえ、なんて清々(すがすが)しい朝じゃねえか?」

令嬢琴音「ほんまよかったわ。うち、ひょっとしたらゲームが終わっとるかもしれんと思うたんよ」

小説家望月「昨日亡くなったのは、小間使いの葵子さんだけのようですね。夜間の犠牲者はなしと……」

子守り千恵子「猟師さまはGJの報告をしてください」

小説家望月「わたしは、昨晩は自分を護りました。GJはしておりません」

行商人猫谷「俺さまも自分の護衛だ。GJはなし。和弥くんを護衛したところで、どうせ今宵にローラーされちまうのが落ちだしな」

令嬢琴音「オリジナル鬼は何人残っているんやろね?」

書生和弥「間違いなく一人です! オリジナル鬼の数が健全な村人の数と同数になった時点で、吸血鬼側の勝利が確定するはずですが、まだ、決着はついておりません。

 そして、仮に二人いるオリジナル鬼が二人とも健在であれば、確実にゲームは終了しているはずであり、矛盾します!」

行商人猫谷「てえことは、オリジナル鬼の一人は葵子に決まりだな。なぜなら、おとといの晩に七竈の女将が失血死したから、そん時にはオリジナル鬼は二人とも生きていたことになる。そして、その後になって死んだ人物といえば、――葵子だけだ!」

令嬢琴音「疑念の余地なく、小間使いは恐ろしい吸血鬼やったということやね?」

書生和弥「その通りです、お嬢さま。そして、もうおわかりのように、この僕こそが真の天文家だということです!」

令嬢琴音「どうやら、そういうことらしいわね。そんでもって、小間使いがうちのことを鬼といったんも真っ赤な嘘やった、ってことね。

 ほんに、うちが鬼やなんて、阿呆あほくさいにもほどがあるわ!」

行商人猫谷「それじゃあ、天文家と称する和弥くんに、ご報告願おうじゃないか。昨晩のな――」

書生和弥「わかりました。僕は昨晩も無事に観測を行うことができました。したがって、少なくとも昨日の夕刻までは感染させられていない、ということにもなります」

 ここで、飯村和弥はもったいぶるように一瞬口を止めた。彼は、話を熱心に聞き入っている八つの瞳をゆっくりとたしなむように見回した。

書生和弥「――昨晩、僕が観測したのはですね……、琴音お嬢さまです。 

 そして――、皆さん、聞いてください。亡き村長が目に入れても痛くないであろう愛らしい一人娘梅小路琴音さまは……、

 昨晩、恐ろしい吸血鬼と化して漆黒の闇夜に飛び立って行ったのです!」


 和弥の驚愕の発言に狼狽した四人が、一斉にわめき始めた。

令嬢琴音「うそや、うそ、うそ! まさか、和弥さんまでが、なんてことを? うちが鬼やなんて!」

行商人猫谷「おい、おい、おい、書生さんよ。あんた、三日間の観測で三日とも鬼が飛び立つのを目撃した、といっていることになるんだぞ? それがどういう意味なのかわかっているんだろうな?」

子守り千恵子「ええと、書生のお兄ちゃんが鬼だと指摘したのは、初日の晩が召使いのお姉ちゃん。次の晩が物書きのおじちゃんで、昨日の晩が琴音お嬢さまなのよね」

小説家望月「いくらなんでも、無理がありませんか? 和弥くんの発言は……」

 皆を落ち着かせるように書生がおだやかな口調で語り出した。

書生和弥「皆さん、冷静に聞いてください。葵子さんが昨日、琴音さんのことを鬼だといいましたよね。僕は彼女の嘘を暴いてやろうと、昨晩、琴音さんの観測を行ったのです。

 結果は僕の予想外で、にわかには信じることができませんでした。でも、これが事実なのです!」

令嬢琴音「うちは、鬼やああせん! 絶対に――」

小説家望月「わたしも、わたしのことを鬼と指摘した和弥君には、同意しかねますな。わたしは猟師として、昨日も無事、護衛の仕事をこなしましたからな」

 とどめを刺すかのように、望月がいい放った。

子守り千恵子「鬼さんが三人もいるなんて、現実にはあり得るの?」

行商人猫谷「そいつは可能だよな。三人のうち一人が、感染鬼でありゃいいんだから。でも、そうするとだな……」

子守り千恵子「本当に召使いのお姉ちゃん、鬼だったのかなあ?」

 突然、猫谷がぼさぼさ髪を両の手でわさわさと掻きむしり始めた。やがて、普段は細くなっている瞳孔を真ん丸く広げると、ドンと目の前にあるテーブルを叩いた。

行商人猫谷「そうか、なるほど! だとすると……?」

令嬢琴音「なにをぶつくさいっとんの? 猫さん?」

行商人猫谷「ちょっと待ってくれ。いま、大事なことをひらめいたんだ! まさか、こんなことが……。おお――、天球は真っ二つに裂け、大地がぐるぐるとまわり出す!

 しかし、どう考えてもこれしかあり得ねえよな……。ふっ、やはり、そうだったのか。はっはっはっ。謎はすべて解けたぜ!」

書生和弥「また突拍子もない結末でもひらめかれたのですか?」

行商人猫谷「俺さまたちは、あやうく騙されるところだった。それほど、今回のゲームは古今稀にみる複雑怪奇な難事件だったということだ。

 加えて、このゲームの真犯人――、いや、鬼は――、信じられねえくれえ狡猾な人物ときてる」

令嬢琴音「なんか面白そうになって来たわね。誰なん? そのずる賢い鬼の正体は?」

行商人猫谷「ふふふ、実に意外な人物だ。まさに、この名探偵猫谷庄一郎さまでなければ、真相を見つけ出すことは不可能だったろうな」

令嬢琴音「もったいぶっとらんと、早くいいんよ」

子守り千恵子「うん、あたいも知りたい」

行商人猫谷「慌てなさんなってことよ。まずは、明確になった事実を一個一個整理していこうぜ。

 それじゃあ最初の確認事項だ。小間使い東野葵子は、本当に鬼だったのだろうか?」

令嬢琴音「そんなん、鬼に決まっとるやん!」

書生和弥「そうですよ。吸血鬼でなければ困ります!」

小説家望月「まさか、猫谷さん。あんた――、彼女が鬼ではなかったと主張されるのですか?」

行商人猫谷「うんにゃ、小間使いは紛れもなく――、鬼にゃ」

 一言も聞き漏らすまいと耳を傾けていた一同は、のっけからものの見事に肩透かしを食らった。

令嬢琴音「あんねえ、それのどこが意外な結末なのよ?」

行商人猫谷「だってさあ、考えてもみろよ。もし、小間使いが鬼じゃなければ、オリジナル鬼は何人生き残っていることになる?」

子守り千恵子「将校さまと女将さんが亡くなった時は、オリジナル鬼は確実に二人とも生きていて、その後で死んじゃったのは召使いのお姉ちゃんただ一人だから……」

令嬢琴音「もし小間使いが鬼でなければ、鬼は二人とも健在となるんね」

行商人猫谷「その通り! そして、オリジナル鬼が二人とも生きているとどうなる? 俺たち五人の中の二人がオリジナル鬼であり、さらに初日と三日目の晩に失血死は出ていなかったから、少なくとも二人は感染させられていることになる。つまり、感染吸血鬼が二人いるってことだ。五人から四人を除けば、残りは一人。健全な村人が一人しかいないことになり、すでに決着が着いていなければならない。しかし、ゲームは四日目の昼に入っている。つまり、決着が着いていないことが、すなわち、小間使いがオリジナル鬼の片割れだったことを証明しているのさ」

令嬢琴音「ふん。それって、さっきの和弥さんがした推理とそっくりそのまんまやない?」

行商人猫谷「あれれっ、そうだったっけな?」

 猫谷がポカンとしていると、小説家がこほんと咳を一つ入れて割り込んできた。

小説家望月「ちょっと、早合点し過ぎではありませんか? もし、初日と三日目に感染させられた人物が、すでにお亡くなりになっていたらどうなるんですか?」

行商人猫谷「それでも、小間使いが鬼であることは揺らがねえ。

まず、三日目の夜である昨晩に感染させられた人物が、いま現在の時点で死んでいることは、絶対にあり得ねえよな。

 そして、仮に死んじまった蝋燭屋や将校のどちらかが初日に感染させられていたとしても、生き残った五人の中に感染吸血鬼は依然一人いるのだから、オリジナル鬼二人とも健在ならば、健全な村人は二人ってことになる。

 つまり、オリジナル吸血鬼と健全な村人の数が同数で、やはり、吸血鬼側の勝利でゲームが終了していなければならねえ」

 行商人はきっぱりといい切った。

子守り千恵子「それじゃあ、どう考えても召使いのお姉ちゃんはオリジナル鬼だった、ということなのね」

行商人猫谷「どう考えても、そういうこと」

小説家望月「なるほど、その事実は認めざるを得ませんな」

 小説家がやれやれという表情で引き下がった。

行商人猫谷「そして、葵子が鬼であるとすれば、まず第一に、和弥君が鬼ではない、ということが断言できる。

 なぜかって? いったい、どこの鬼が互いに天文家を名乗りあって、互いをけなし合うんだい? ありえねーじゃねえか?

 そして第二に、葵子が鬼と断言した琴音お嬢さんも同じ理由で鬼ではあり得ない」

令嬢琴音「当然や。これで、うちが黒でないことがはっきりしたわけや」

 令嬢が声高らかに宣言した。すると、猫谷がにんまりとしていった。

行商人猫谷「ところがだ。そのお嬢さまのことを、こともあろうに鬼だと断言した不届きものが、この中にいる!」

 皆の視線がさっと書生に向けられた。

書生和弥「それは僕のことですね。でも、僕の観測によれば、昨日の夜には、琴音さんは間違いなく鬼でしたよ」

 書生は冷静に返答した。

子守り千恵子「それなら、きっとお嬢さまは感染させられていたのよ」

行商人猫谷「んじゃ訊くが、感染させられたとして、それはいつのことだ?」

子守り千恵子「そうねえ。初日の晩しかないのね。二日目は、将校さまが殺されているし、昨夜の襲撃で感染させられても、同じ晩に鬼であると観測されることはないものね」

行商人猫谷「その通り。そして、初日の晩の襲撃による感染だとすれば、不可解なことが出てくる。お嬢さまが、初日に襲われる理由が全く見当たらないのさ。

 失血死狙いならまだしも、感染狙いだぜ――。いってえどこの馬鹿鬼が、片想いの将校がご健在なのに、わざわざ女を選んで感染させようとするんだ? どう考えても、おかしいじゃねえか?」

書生和弥「それは確かに矛盾した行為ともいえますが、事実を説明しようとすれば、それしか考えられないじゃないですか?」

行商人猫谷「いや、もっと単純な説明があるぜ。少なくとも鬼たちの合理的な行動を説明するな……。

 つまり、和弥くん――。あんたが偽の天文家だってことさ!」

書生和弥「まさか。なにをいっているのですか? 僕が天文家でなければ、いったい誰が天文家だというのです?」

行商人猫谷「ふふふっ、まったく意外だよな。想像の範疇はんちゅうを遥かに超えちまっている。

 今回のゲームの天文家は――、いの一番に吊るされた、高椿の坊ちゃんだったのさ!」


 行商人猫谷庄一郎の衝撃発言に、一同は困惑の色を隠せなかった。

小説家望月「そんな……、支離滅裂だ!」

行商人猫谷「猟師がいて天文家がいるゲーム。当然、ゲームの指導権を取ろうと鬼側がたくらめば、天文家を騙る奴が出てくる。そして、吸血鬼と使徒は連絡が取れないから、黒側では複数の人物が天文家と名乗り出ちまってもちっともおかしくはねえ。

 子爵の坊ちゃんは、天文家の騙りがきっと出てくるだろうと期待して、自らの正体をぎりぎりまで伏せておくつもりだったのさ。そして、まんまと二人の人物が天文家を名乗り出た。小間使い葵子と書生和弥だ。

 天文家である子爵は、その時なにを思っただろう? やつは自信家だ。それも相当のな。やっこさんはその気になればいつでも自分のことを天文家だと村人側に信じてもらえると確信していた。だからあえて偽天文家の二人を自由に泳がせる手段を選んだ。二日目の昼に騙るだけ騙らせてから、自らの正体を後出し公開するつもりだったんだ。

 しかし、勝手が狂って初日に吊るされちまった。まさか、根暗の菊川より自分が先に投票されるなんて、自信家のお坊ちゃんには想像すらできなかったんだろうぜ。

 そして、小間使いが吸血鬼であることに間違いはねえが、和弥くんは小間使いが味方であることに気付けなかった、ということも事実だ。そして、もし和弥くんが吸血鬼ならば、小間使いの正体を知らぬわけがない。

 もうわかっただろう。和弥くんの正体は使徒に決まりだ! そして、小間使いは吸血鬼Qに確定。Kであれば使徒の和弥くんが対抗するわけねえしな。

 どうでい、書生さんよ。なんか言い分でもあるかな?」

書生和弥「あまりにとんちんかんな推測で、反駁はんばくする気にもなりませんね」

小説家望月「しかし、これまでなされた推測の中では、最も無理のない説明になっている……。よろしい。こうなったら、わたしは正体を明かしましょう!

 わたしは猟師ではありません。嘘を騙っていました。申し訳ありません。ただの村人です。おそらく、猫谷氏は正真正銘の猟師であると確信いたします。わたしが嘘を吐いた理由は、単に生き残りたかっただけです。

 いや、皆さんのお怒りはごもっともです。わたしにはなにも言い訳できません。こんなわたしがここに来てこんな発言をしてもどなたも信用していただけないでしょうが、ちょっと考えてみてください。

 ここでわたしを吊し上げれば、村人の人数が減ってしまい、鬼がすんなりと勝利を収めてしまうことでしょうね――」

 とってかえしたような望月の発言を聞いて猫谷が悪態を吐いた。

行商人猫谷「つくづくこすい野郎だな。ここで村人宣言をしてしまえば、吊し上げられっこねえ、って寸法か……」

令嬢琴音「ほんに、そうやねえ。いまさらとがめる気も起きへんけど……」

子守り千恵子「大事なことは、あたいたち五人の中に、確実に一人のオリジナル鬼がいるということよね。今日、そいつを吊し上げれば村人の勝ちで、吊るせなければ負けが決まっちゃう」

令嬢琴音「じゃあ、いったい、誰を吊るせばええんよ?」

行商人猫谷「まさに仰せの通り! さあ、最後を飾る究極の質問だ。俺たちはいったい誰を吊るせばいいのだろうか?」

令嬢琴音「まさか、猫さん。あんた、吸血鬼Kの正体を知っているとでもいうん?」

行商人猫谷「ふふふ、この事件の黒幕、世にも狡猾な吸血鬼Kの正体を俺さまは知っていますよ。おそらく皆さんにとって最も意外な人物となるでしょうね」

小説家望月「誰なんです? 恐るべき吸血鬼Kの正体は?」

行商人猫谷「とんでもねえ食わせ者だったぜ。それじゃあ、まずはヒントだ。吊しちゃいけねえ人物を順番にあげるぞ。

 まずは俺さま。紛れもなく正真正銘の猟師さまだからな。次は書生和弥。やつは使徒だ。それから、琴音お嬢さま。吸血鬼Qの葵子が鬼だと断言したからには、絶対に鬼ではないことになる。

 さあ、残りは二人だな。物書きの旦那に……、あどけない少女を演じ続ける餓鬼が一人と」

令嬢琴音「まさか、猫さん。千恵子が鬼だっていうんじゃないやろね?」

行商人猫谷「ふふふっ、お嬢さん。そのまさかだよ。吸血鬼Kの忠実なるしもべである使徒の飯村和弥君は、吸血鬼Kさまのご正体をご存じのはずなのさ。その和弥くんが、ここまでになにを主張しましたかね?」

令嬢琴音「ええと、小間使いが空を飛んで行ったって……」

行商人猫谷「お嬢さま。ここはボケをかますところじゃないでしょう。和弥くんは小間使いが吸血鬼Qであるとは知らずに、味方を責めまくってしまったのですよ。

 その後の発言なんです。大事なのは――」

令嬢琴音「わかっとるわ。ちょっとからかってみただけなんよ。いちいち反応してくれてありがとね。

 和弥さんは、二日目の夜に望月さんが鬼であることを確認して、三日目にうちが鬼であると確認した、とはっきりというたわ」

行商人猫谷「そして、和弥くんは大嘘つきだ!」

小説家望月「つまり、その逆が真なりという意味ですか?」

行商人猫谷「冷静沈着が売りの和弥君にしては、ちと調子に乗りすぎたみたいだな。こともあろうに琴音お嬢さまを鬼と断言したのはな……」

令嬢琴音「裏返せば……、吸血鬼Kの正体は――?」

行商人猫谷「望月は、当人の勝手な言い分を信じて、村人と決定だ。同じく琴音お嬢さまもただの村人。そして、恐ろしい吸血鬼の王は――、そいつだ! 逃がすな!」

 猫谷の掛け声に驚いた一人が背を向けて逃げ出そうとした瞬間、令嬢が獲物を狙う猫のごとく颯爽さっそうとそいつに飛び掛かった。力ずくで抑え込まれて悔しそうにキッと顔を上げたその人物は……、

 数奇な運命にもてあそばれた不幸な孤児みなしご――子守り千恵子であった!


 猫谷の説明を聞いていた飯村和弥が、頭を抱え込んで叫んだ。

書生和弥「おかしい。なにかが狂っている! 僕たちはとんでもない混沌カオスの中でもがいているんだ! もう一度冷静に考えなければならない。皆さん信じてください。僕は本当に天文家なのです!」

行商人猫谷「べらんめえ。いまさら往生際が悪いぜ。書生さんよ」

子守り知恵子「なんでこんなことになっちゃったんだろう? あたい、鬼なんかじゃないのに……」

行商人猫谷「問答無用にゃー! ったく、餓鬼がきの分際で、女々しいったらありゃしねえ……」

子守り千恵子「問答無用って……? ここは、平和的話し合いの場じゃないの?」

書生和弥「そうだぞ! やい、猫谷! あんたこそ白のふりをしているが、本当に猟師かどうかなんて、誰にも断言できないじゃないか?」

行商人猫谷「なっ、なっ、なにをいうにゃ! 俺さまは正真正銘の猟師なのにゃー。おにょれー、たかが使徒の分際で」

 動揺しかけている猫谷に代わって、小説家が代弁した。

小説家望月「和弥くんが天文家だと信じれば、小間使いとお嬢さまとこのわたしが鬼となってしまいますな。

 しかし、わたしこと望月浩然が吸血鬼Kであるとすれば、初日に琴音さんを感染させた鬼たちの行動は説明できますまい。

 琴音さまが吸血鬼Kだとすれば、Qである小間使いの発言に矛盾する。そして、琴音さまが感染させられたとしても、それは初日しかあり得ない。やはり、矛盾している!」

行商人猫谷「どうにゃ? 完全無欠のチェックメイト成立にゃ!

 どう考えたって、琴音お嬢さまは感染吸血鬼でもなけりゃ、オリジナル吸血鬼でもあり得ないのにゃー。

 嘘つき和弥よ――、いい加減に観念せんかい?」


 互いの歩み寄りが全く見られない状況下、夕刻を告げる鐘の音が広間に喧然けんぜんと鳴り響いた。

小説家望月「議論が白熱している最中ですが、どうやら刻限になってしまったようですな。さあ、投票に移りましょう」


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