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続、小説・吸血鬼の村  作者: iris Gabe
第四部
17/20

17.ついに土壇場に追い込まれたか?(三日目、日中)

 うつむきながらしばらく沈黙していた猫谷が、大きくうなずいた。

行商人猫谷「なあるほど、こりゃあ面白れーや。天文家宣言をした和弥と葵子にローラーをかける。つまり、順番に吊し上げちまうのか!」

書生和弥「ちょっ、ちょっと待ってください! 天文家を殺してしまえば、今後の貴重な情報が途絶えてしまいますよ。それでもいいんですか?」

行商人猫谷「ふふん。そろそろ天文家なんてもんはな、感染させられていても不思議はねえ。これから後の天文家の発言なんて、信頼できねえのさ。それによお、そろそろ十分じゃねえのか? 天文家のくれる情報なんてよ……」

小説家望月「なるほど。それに、天文家を宣言した者の中に吸血鬼の片割れが紛れ込んでいる可能性は極めて高い! 鬼にしてみれば、天文家を名乗ることでゲームの主導権が取れますからな」

行商人猫谷「その通りだぜ。初めて意見が合ったな!」

 あれだけ泰然自若を売りにしていた飯村和弥の顔いろは、もはや完全に血の気が失せて蒼ざめていた。

書生和弥「だったら、今日の処刑は絶対に葵子さんにしてください。僕を殺してはなりません!」

令嬢琴音「そうねえ、和弥さんと小間使いちゃんのどっちを殺すのがええんか、みんなで仲良く話し合わんといかんねえ」

 そういう令嬢の口もとは、なまめかしく輝いていた。


 このタイミングで、私は琴音に目配せの合図を送った。もっとも、琴音が冷静に見てくれるのかどうかは、大いに不安であったが……。

 私の視線の先にある人物は――飯村和弥である!


行商人猫谷「とにかく、時間はねえ。結論を急ごうぜ。

 先ほどの子守りの意見は、餓鬼の分際にしては、なかなか鋭いものであった。もっとも、もう少し時間があれば、俺さまも同じ結論にたどり着いていたであろうことはいうまでもないことであるがな。

 天文家宣言したどちらかが鬼である可能性は極めて高いか……、まさにその通りだぜ。本日の処刑は小間使いか書生のどちらかに決まりってことに、皆の衆――、依存はねえよな?」

 猫谷は、私と書生を除いた、残りの三人に向けて同意をうながした。もはや多数決では勝ち目はなさそうである。

書生和弥「異議あり! あまりにも議論が突飛とっぴでめちゃくちゃです!」

行商人猫谷「ええい、黙れ、黙れ、黙れ! もひとつおまけに、黙れい! ふははっ――。

 昨日までの俺さまたちが受けていた苦しみと屈辱を、今度はてめえらが味わう番にゃんだよ! そうでしょう――、お嬢さみゃぁ?」と猫谷が甘え声で令嬢に同意を求めた。

令嬢琴音「そりゃ、そやけんど……。そやねえ――。天文家がいなくなるんも、少々問題ありかなって?」

行商人猫谷「あれれれ、お嬢さま。なにをいまさらおっしゃるんですか? 躊躇ちゅうちょしてはなりませんぞ。今日中に鬼のかたっぱしを殺さなければ、村人側の勝利はありっこねえんだから!」

令嬢琴音「そやねえ……、うーん、困っちゃったなあ」

 令嬢はまだいじいじと態度を決めかねている。それを見ていた千恵子が助け船を出した。

子守り千恵子「別に、鬼減らしのために吊るすのは、天文家宣言者に限ることはないよね。猟師宣言者でも、あたいはちっともかまわないけど……」

行商人猫谷「またまたあ。上げたり下げたりしないでくださいよ。こう見えても、俺さまはれっきとした小心者なんすからあ……。

 それじゃあ、なんです? 本日の処刑候補は、小間使いと書生の他に、物書きと俺さままでも含まれちゃうんすか? そいつはまた結構なこって、ごぜえますね……?」

 一人たじろぐ猫谷に代わって、小説家が憤然と反論した。

小説家望月「とんでもない! 我々二人と天文家宣言者のお二人では、鬼である確率はまるで違います。なにしろ、小間使いさんと書生さんは、初日から能力者宣言をしていますからね。鬼は初日から吊るされるわけにはまいりません。だから、間違いなく初日に騙りを入れるはずなのですよ!」

行商人猫谷「そうだよな。そりゃ、そうだぜ! 物書きさんよ、あんた、たまにはいいこといってくれるな。考えてみれば俺さまたちは、初日、二日目とも、生きるか死ぬかの瀬戸際を、ただ黙って我慢して耐え忍んできたんだ!

 それによ。もし、俺さまが鬼だったら、地味な猟師宣言などせずに、華々しく天文家を騙るに決まってるぜ! 違うかい? 

 やはり、今日吊るすのは、小間使いか書生だよにゃー」

 猫谷の両の目がいつもより横に長く伸びたような気がした。

令嬢琴音「ちょっと待ってん。ひょっとして、和弥さんも小間使いも両方とも鬼やない、という可能性はあらへんかしらねえ?」

行商人猫谷「みみっかすほどの可能性もねえな!」と猫谷はきっぱりと断言した。それを聞いた小説家が、満を見計らって、

小説家望月「では、わたしから最初に申し上げましょう。本日の処刑候補は、一番手が書生さんで、二番手が小間使いさんです!」と発言すれば、猫谷も間髪を入れずにそれに呼応した。

行商人猫谷「物書きが和弥君を一番手にした理由はよくわかるが、俺さまは一番手を小間使いにさせてもらう。

 前回のゲームでもそうだったが、この女、とんでもなく頭がいい。もし、小間使いが鬼だったら、なにをしでかすか知れたもんじゃねえからな。もっともああいった気の強い女は、俺さま好みではあるがにゃ……。

 にゃ? にゃにをいわせるんにゃ?

 ――二番手は無論、和弥君だ」

子守り千恵子「一番は小間使いのお姉ちゃん。二番は書生のお兄ちゃんね」と子守りの宣言はそっけなかった。

 ここで私は、おそらく最後となろう貴重な弁明の機会チャンスに、次のように発言した。

小間使い葵子「わたくしは吊るされるのは本望ではございません。ですから、一番手は和弥さまで、二番手は琴音お嬢さまとさせていただきます!」

 これにはさすがの令嬢も黙ってはいなかった。

令嬢琴音「なんやてー? あんた、まだうちの事を……。

 んもー、しゃあないわ。一番手はうちを鬼と勘違いしとるとちぐるった小間使いや。二番手は和弥さんやね」

 琴音の発言を確認した飯村和弥には、安堵した表情が浮かんでいた。

書生和弥「それでは、僕の意見を申し上げましょう。

 一番手は葵子さんです。彼女が吊るされれば、やがて皆さんの僕への疑いも晴れることでしょう。なんとしても、本日の処刑は葵子さんにしてください! 二番手ですか? そうですね。無難に、望月氏にしておきましょうかね」

 全員が候補者宣言を済ませたのを確認して、猫谷がしめの宣言をした。

行商人猫谷「このままいけば、小間使いが四票で書生が二票だな。さあ、どうなることやら……。へっへっへ」

 かくして、昼の会議が終了し、処刑投票が執行された。あらためていうまでもないことであるが、情勢は私にとって極めて苦しいものだ。やがて、本日の投票結果がGMから報告された……。


 三日目の処刑投票結果、

  書生和弥は、小間使い葵子に投票した。

  令嬢琴音は、小間使い葵子に投票した。

  小間使い葵子は、書生和弥に投票した。

  小説家望月は、書生和弥に投票した。

  子守り千恵子は、小間使い葵子に投票した。

  行商人猫谷は、小間使い葵子に投票した。

  

 小間使い葵子に四人、書生和弥に二人が投票しました。小間使い葵子の胸に聖なる杭が打ち込まれました。


 ついに私は殺されてしまった! まさに、取り返しのつかない大失態だったといえよう。

 ゲームは三日目の夜。そして、死人となってしまった私には、一切の発言権がはく奪される。私は事の成り行きを黙って見守ることしかできない。


 GMから吸血鬼たちに向けた報告が送られてきた。どうやら死人になってもこの報告は確認することができるみたいだ。もちろん、このメッセージが読めるのは私と吸血鬼Kである琴音のみだが、それは次のようなものであった。


 小間使い葵子は、書生和弥に目をつけました。

 令嬢琴音は、書生和弥を襲いました。

 吸血鬼は書生和弥を感染させました。

 生き残ったオリジナル吸血鬼の数は一人です。


 これで、生き残りは全部で五人。内訳は、オリジナル吸血鬼が梅小路琴音の一人、感染吸血鬼が書生和弥と小説家望月の二人、健康体である村人(使徒である可能性もある)が行商人猫谷と子守り千恵子の二人だ。さあ、いよいよ最終決戦の日を迎える。もっとも、私にできることはなにも残されていないのだけれど……。


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