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「じゃ、私はこっちなんで」
さよならと、手を振り歩き出す私を宮下が呼びとめた
「.....ぁ、清水」
「あん?何?」
振り返ると、視線を少し下に落とした宮下が力無く言う
「今日はごめん。人前で、あんな言い方をするつもりはなかったんだ」
「ううん、私こそ。チョッと最近色々あってね、考え事が多くて。」私はゆっくりと歩きながら答える。
「悩み?」
「大した事無いから、大丈夫。仕事中は気をつけるから。」
話しながら歩いてコンビニの前まで来た
「私、ここ寄って行くから」
私がコンビニに入ると、何故か宮下も一緒に来た。
雑誌を立ち読みして、ビールとスナック菓子とサンドイッチを籠に入れる。
その間、宮下は着いてくる、仕事の話はしない、他愛のない話をしてくる。
「お前、その買い物はないだろう。まるで、彼氏の居ない寂しい1人暮らしの女の買い物だ」
「...そう?」
やばい、主婦の買い物っぽくなかったか。これは、不味ったか。
咄嗟に
「旦那は出張中なの。だから、今夜は気ままな1人暮らし」
今度こそ、さようならと手を振り、コンビニからは宮下と別れて歩く。
一美の姿が見えなくなるまで、宮下が店の前で心配そうに見送っていたのを知らずに一美は帰って行った。
外から見た、部屋の窓は闇色。
鍵をあける音が大きく響く。帰宅した暗い自宅は、気の所為かひんやりとしていた。
朝出勤してから時が止まっている部屋。
毎日、何かを期待してドアを開ける。
そして、その度に裏切られる。
リビングに入ると、急に疲労感に襲われ一美は床に座り込んでいた。
最後に夫の帰宅の形跡があってから、2週間たった。
いったい、何時までこの状態が続くのだろう。
そろそろ誰かに話して助けを求めた方がいいのかな?
その場合、誰に助けを求めるの?
夫の友達?
これは無い、だって夫の友達の連絡先なんて知らないし。
親?
これも駄目だよなぁ。余計な心配かけたくないし、それこそ大事になって、彼が帰って来づらくなってしまうし。
彼のお義姉さん?
お義姉さんは小さい子供がいて、何より妊娠中だよ。ここも駄目か。
自分の友達?
ここは.....人選だな。誰になら話せるかな?
香はぁ、軽すぎる。口が軽い、これは却下。
美樹は、救急外来に異動したばかりで何やら大変そうだし。ここは、私が美樹の話を聞いてあげて、ストレス発散をさせてあげる立場だろ。
朋子か琴世さんかだな。
....琴世さんかな?男女の事なら、琴世さんの方か。
あああ、でも夫が浮気だったと仮定すると、不味いかな?
私は夫を取のられた妻の立場で、琴世さんは浮気相手の立場になる訳か?
嫌、違うか?琴世さんの場合は、先生と琴世さんとの浮気が原因で別居したんじゃないし。
.いやいや...そこまで気を遣わなくても、いいかな?
でも、私は夫に帰って来て欲しいと思ってるのだから。もしかしたら、琴世さんのお相手の奥さんも離婚に応じないってことは、先生に本宅に帰って来て欲しいって思ってるんだよね、きっと。
....。やっぱり、琴世さんは無理か。
そうなると、他に相談できそうなのは、男性か。
男性に相談すると、違う方向からの意見がきけるかも。
町顕はどうかな?
私より年上だし、確かバツイチじゃなかったけ?
....何だか、離婚を推奨されそうな気がして怖いけど、宮下に相談するよりは良さそうだよね。
態々呼び出して相談するのは、チョッと...だから。
何時か、チャンスがあったらすることにしよう。
だから、何時相談するか分からないなぁ。
まあ.....また当分この状態が続くってことだ
ああ、何だか胃が痛いかも。
眠れそうにないけど、寝なくちゃ。
もう、ただ黙って待つのは。
1人で悩むのは。




