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夫が家出しました  作者: 籠子
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宮下くんが何か言いたげな顔をしてるのにも、盗聴器が見つかっただけでは終わりじゃない事も、分かってる。だけど....見つかってスッキリしただけで満足しちゃいないかな?


暫くの間沈黙が続いたが、一美はこれで終わりにしたかったので、宮下の視線を気にしながらもそそくさと片付けに掛かっていた。


「おい!一個見つかっただけで安心する気かよ!」


一美の手が止まる。 ――― そうなのだ、盗聴器は一個とは限らないのだ。現在見つかったのはリビングの一個だけ、他に仕掛けるとしたら寝室か書斎として使ってる和室か...。しかし、盗聴器を仕掛けた人物は何機も取り付けてまで、私の行動を知りたかったのだろうか。



....そうよ、知りたかったのよ。あの人は私を疑っているの。


一美の視線は宮下の真剣な顔を捉えていた。

 ――― 疑いをもたれるような行動をしている自分が悪いのは明らかなんだから。


ここに二人きりで居るのが、盗聴器を仕掛けた人物を刺激している。何時から盗聴していたのか知らないが、これを使って何を聴いたんだろう。この下の駐車場の車の中で聴いていたとしたら、仕事が終わった夜か休みの日か....。


「あ...!」


 ――― 休日?日曜日とかに聴きに来ていた?!あの日も聴いていた...?駐車場で...ってことは見ていた...見られてたんだアレを。


 ――― あの日の私達を...聴いていた....?


恐ろしい物を見る様に肩越しにベランダを振り返りかえると、ひっ..と声にならない悲鳴をあげ全身が石のように硬くなった。


 ――― きっと、あの日の私と宮下くんを駐車場から見えてたんだ!


逃れようのない事実とこの先に立ちはだかる現実に、言い訳を探したが見つかるはずもなく身体が呼吸をするのを忘れるほどの衝撃で身体が熱くなる。慶司に対して言い逃れのできない事実を作ってしまった。


「宮下..私、かなりマズイかも。如何しよう...」


「どう云う事だ?マズイって、この黒いヤツの所為か?おい、教えろよ誰の仕業なんだよ?」


「..あ..ぁの.」


動悸と震える唇からやっと掠れた声を絞り出した一美に宮下は詰め寄るが、薄々は宮下も盗聴器を仕掛けた人物に心当たりはあった。今の一美の様子からしても、その人物で間違いないだろうと考えていた。だとしたら、一美が怯えてる原因の一端は自分にも関係してるのか...?言葉にはしなかったが宮下も近い先に、一美が怯えているそれに巻き込まれるのを考えた。

漸く一美が置かれている状況と自分との関係が繋がりかけた宮下だったが、はっきりと一美のその人物の名前が出たわけでもないので、下手に自分の口から言う事も出来なかった。


双方がそれぞれの思案に暮れ沈黙していたが、その思いの中にあった人物は同一。


 ――― どうしよう...下手な言い訳はしない方がいいのかも、現場を知られてる様だし...。もう…お終い…だぁ...


色々な言い訳や説明も考えた。宮下を直接巻込まない方向でも考えた。しかし如何考えても、この部屋から盗聴器が見つかって、夫の車が駐車場に停まっているのを見かけてもいて、宮下と関係を持った日もあって、如何したって正直に事実を認めざる負えなかった。


 ――― 軽率だった....


もう自分の行いを責めるしかなかった。全てが終わった感がした視線を、心配してるのか怒っているのか分からない表情をした宮下から外すと、慶司と一美の想い出がある住み慣れた部屋は冷たく、一美の眼には時間が止まった遠い昔の部屋に映って見えていた。何時の間にか、この部屋に居ることに違和感が無くなった宮下と、この家の主なのに存在が薄くなった夫。

幸せだと感じていた夫との生活や、夫が出ていってからの孤独な生活、宮下がくれた安らぎの時間...全てがまるで、スクリーンの向うに映る世界に見えていた。


その時、一美の自宅の電話が大きく呼出音をならした。はっ、と現実に戻される。電話のモニター表示には「慶司」と。

一応は覚悟を決めたものの、いざ本人と話すとなると手が震え動悸で苦しくなって来た。


「...もしもし?」


『まだ居たんだな...そこに』


一美は眼で宮下に何かを訴えると、宮下は全ての動きを止め存在を消し電話から漏れ聞こえて来る声に神経を集中した。


「..うん...」返す言葉が出て来ない一美は、慶司の出方を待った。


『ああ..俺...今週末にそこへ帰るからな』


「えっ?」


慶司の声は宮下にもはっきりと聞き取れた。おそらく、宮下が側に居る事を知ってて意図的に聞こえるように大きな声で言ったのだろう。電話口の向うの慶司が、何か企んでる様な口調にも聞こえた。


『お前は。どうする?』


「え?どうする...って...」


慶司の言った言葉の意味が分からなかった。一美の場合、週末でもシフトの関係で休みでないこともあるが、慶司の質問はそれとは違ってた。「どうする?」とは如何いった意味なのか。普通は、ここで待っているんじゃないのか?助けを求めるように宮下に視線を送るが、宮下は何か考えてるのか怒ったような表情をしている。


「....ぁ..土曜は深夜...明けで朝帰って来るけど..日

曜は休みだから...」


勤務状況を説明して慶司の反応をみようとすると、少し間をおいてから抑揚のない声で


「...ふぅぅん...俺と一緒にここに居るってことか」


一美は全身からジットリと汗が出てきそうで、夫婦で週末を過ごすことに、こんなにも緊張するものなのかという思いでいた。こんな事になるなら....。


電話はそれだけで終わった。受話器を置いた途端、緊張から解放され全身の力が抜ける。大きな声で話していた夫の話の内容は、宮下には説明はいらなかった。


「大丈夫よ。心配しないで」


笑ってみせるが、宮下の表情は硬いままだった。


「なぁ清水。お前達夫婦の事には、とやかくは言いたくないけど。俺は傍観してるだけでいいのかよ」


「....」


「俺には何の説明もなしか。ここまで来て、俺は...頼り無いかよ」


はらはらと涙が落ちて来る。

最初の切欠は夫が家を出て行ったことだが、夫を愛してるのは今も変わらない。だが、夫が居ない間に宮下と関係を持ってしまったのは、夫への最大の裏切りだ。一美は自分の愚かさが情けなかった。夫とやり直す自信はない、かといって、宮下を頼る気にもなれなかった。


 ――― 全て自分で解決する。慶司と私の問題だから。


「清水!おい、一美!」

肩を掴まれ大きな声で名前を呼ばれた。清水..一美と。


「盗聴器...旦那だろ?もしかして、俺が原因か?」


「違う..」


「お前が熱出した夜に、俺ここに来ただろ。あの時、スーツ着た男がこの部屋から出てくのを見たんだ、旦那だろ?俺、買い物に出たときカバンをここに置いて行ったから、お前に男がいると疑ったんじゃないか?」


肩を掴む宮下の手が痛かった。その痛みで、どれ程心配してくれてるのかが伝わって来る。この胸に縋って泣けたら、どれ程気持ちが楽になるだろう。でも、そんな事したら宮下は慶司の前へ出て行きそうだ。

そんな事をしたら....


やはり、宮下を巻き込む事は出来ない。

「そうよね、何となく想像は付くわよね。宮下君のそれは、当り。」


 ――― ついに言ってしまった。やっぱり、言うと楽になるし、決心がつく。


「でも、私は慶司とこの先どうしたいのか分からない。だから、二人で話し合うから、大丈夫だから」


 ――― ほら、作り笑顔ではなく笑えてるでしょ、私。




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