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今日は色々とあり過ぎた。居眠りは自己管理不足がまねいたこと。思い出すだけで嫌な汗が背中を落ちて行く。
宮下に見られたのは恥ずかしいが、夫を捕まえる事が出来て、話し合いに応じて貰える事になったこと。
残るは盗聴器だけ。
音を立てないように気遣いながら一美の部屋に入って行く。
何の変哲もない普通の部屋で、宮下には、今まで数度入っただけだが、その時と何ら変わりなく見えた。
先ずは、宮下がカバンから自分の家から持って来たドライバーを出して、リビングのコンセントを一つ開けてみる。
コンセントを開けて見たことなんて無いから、正直なとこ宮下にも中にあるもののどれが盗聴器か分かっていない。取りあえずは、それっぽい物が無いので蓋をして元に戻すことにしたが、中から出て来た物を押し込めようとしても入らなくなってしまった。
――― まずい。治せなくなったぞ。元々中に入ってた物だから入る筈なんだがな..
ぎゅうぎゅうと押し込んでいる様子を見ていた一美が、紙に『大丈夫?壊さないでね』と書いて宮下の肩をトントンとする。
それを見た宮下は
――― 大丈夫な訳無いだろう。俺は電池交換位しかやった事ないのに、コンセントの中なんて産まれて初めて見てるんだぞ。
一美から持っていたボールペンを取り『お前も探せ』と返事を書いた。
それを読んだ一美は、大きく頷いて見せた。
三か所程のコンセントを開けてみたが、どれも中から出て来るものは同じで、この三か所のコンセントには盗聴器は入って無いと判断をした。
宮下は暫く休憩を兼ねて作戦の変更を考える事にする。
盗聴器は電源を取れる処にセットされてるとは限らない。先ずは、目視出来る範囲を探してみようか。
頭をガシガシとかき首を回しながら見ると、テレビの後ろを探していた一美が何かを手にしていた。
それは、掌よりも少し大きい白い箱。差し込み口が6個ついた延長コードでテレビやDVDデッキ等が繋がっているその白い箱を、引き寄せられるように見ていた。
「何か見つけたか?」
「これ...何時からここにあったんだろ...」
テレビの後ろから引っ張り出した白い箱を、二人で頭を付き合わせて覗き込む。音も無く動く事も無い白い箱。ありふれた形の延長コードだったが何か気になる。何か嫌な予感がする箱だった。
「何時からって、清水か旦那が買って取り付けたんだろ?違うのか?」
「前は無かった...」
突然、一美の脳裏に『これだ!』と不思議な感覚が浮かんで来た。
この延長コードが何時からここにあったのか覚えていない、掃除をしていても気にもならなかった。
「見つけたかも!この中だ、きっと」
一美が箱を開けるのは意外に早かった。素早くドライバーを取り箱の蓋を開けると、中は思ったよりも空間が広く隙間があった。もっと、メカっぽい物がびっしりと詰まっている物だと想像していたのに、それは予想とは違っていた。
そして、予想とは違っていた異様な物もあった。
否、予想していた物が入っていたのだった。
箱の中央の空いた空間に、見るからに怪しい黒い小さなケース。その黒いケースから二本の細い線が延びていて延長コードの機械本体に繋がっている。素人が見ても明らかにそれは電源を取る為に接続されているのがわかる。丁寧にも箱の中で黒いケースが動かない様にクッション材で挟まれていた。
「もしかして、見つけたかも?この黒いヤツどう見ても不自然だよね、」
異質な黒いケースが入ったそれを宮下に向ける。
「俺も本物は見たこと無いけど、如何見ても怪しいよな」
――― 壊れたって構わない、怪しいと感じる者は全て外してやる。この小さな機械を通して、何を聴いていたのか、私の行動を調べてどうする気だったのか。こんなに小さな機械のくせに、なんて恐ろしい仕事をしてくれたんだろう。
憎い。この黒い機械が憎い。
憎いのは、この機械を通して私の行動を調べていた人の筈なのに。でも、今は目の前の小さな機械に感情をぶつけるしかない。
一美は迷わず黒いケースから伸びている線を引きぬき、固定されていたクッション材を止めていた両面テープを力づくで剥がして、延長コードの白い箱から勢いよく引っ張り出す。
終に黒いケースは生命線である電源を抜かれ只の黒い物体になったが、なんだか呆気なかった。
「...ホントにこれだよね?十分に怪しい雰囲気をだしてるから、これっぽいけど」
目の高さまで持ち上げて、向きを変えあらゆる方向から黒い物体を見る。
小さな黒いケース。でも、今となっては、ただの小さな動かなくなった機械。
「終わった...のかな?」
一美は宮下に問う。盗聴器を発見し、これで生活を脅かすものがなくなり大きく安堵した。
「清水…」
宮下は何か言いたげな顔をしている。
お月様へ、短編「覗かれた部屋――夫が家出しました15・5」を投稿しました。




