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夫が家出しました  作者: 籠子
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「...ひぃ...!!」


あまりの恐怖のため、思わず手に持っていた紙から手を引いた。それはヒラヒラと床に落ちて行く。書いてある内容の大きさの割には、紙の動きは軽い。


謎の封筒に入っていたB5サイズの白い紙には、黒い文字で書かれていて所々に赤色のサインペンで線が引かれている。

衝撃的な一行目だった。

床に落ちた紙を拾い直し、大きく息を吸ってもう一度内容を確かめる。


読み進めて行くうちに、寒くも無いのに手が微かに震えて、全身に鳥肌が立つ。


『あなたの家は盗聴されています。』

その文字から目が離れない。動悸がして、息が苦しくなる。


 ――― 盗聴って..?なに...


今、自分がここに居る音も聴かれているのだろうか?

身体を動かして出る服の音で、部屋の中で何をしてるのかまで知られてしまいそうで、身体を動かすことすら出来なくなっていた。

自分が呼吸してる音や苦しい位大きく鳴る心臓の音も聞かれてしまいそうで、身体を動かすどころか、息をするのも躊躇われた。


思考以外の、全ての身体の動きが止まってしまう。


手紙には、盗聴を調べた業社の名前と連絡先が書いてある。他に注意事項として盗聴される恐れがあるので部屋の中からは電話をしない、業社と連絡をするときはファックスが家の外から電話をすることと書いてあり赤いラインが引かれていた。

おそらく連絡したら、この業者が部屋の中を調べ盗聴器を発見して処分してくれるのだろう。


動かなくなった身体を何とか、ゆっくりと部屋を見渡してみる。


 ――― この部屋の何処かに盗聴器がある....いったい、何処にある?


見て分かる場所に仕掛けられている筈も無いのだが、如何していいか分からなくて、そうっと音をさせないようにモノを動かして探す。

何処に仕掛けているのか、全く分からなかった。


全く見えない敵がここに居る。


自分には見えない。でも、確かにここに居て、私を監視している。



 ――― 怖い。ここには居られない。


身体の震えが、再び始まり、呼吸が浅く早くなり指先が冷たくなって来た。一美は、自分の身体の出すサインに気付き、落ち着くように言い聞かせる。


 ――― ここから出よう。


誰が何時、盗聴器を仕掛けたのか、また、業社は如何して一美の家に盗聴がある事が分かったのか?落ち着いて考えると出てきそうな疑問も、今の一美には全く考え付かなかった。

とにかく、ここから避難する事しか思いつかず、何処に逃げるのか誰に助けを求めたら良いのかも分からないまま、外に逃げ出す。


外の風に当たり雑踏の音が聞こえて来て、漸く落ち着きを取り戻してマンションを振り帰って見ると、バックも持たず、携帯と部屋の鍵だけを持って外に出て来てしまった事に気付く。


 ―――― これから如何したらいい...


部屋に誰かが居る訳でもないのに、怖くてバックを取りに戻る気にもなれず、途方に暮れていた。

先程は、夢中でマンションから逃げ出して来たが、冷静に考えると、独りで部屋に居て不審な行動や聴かれて不味い話の電話をしなければ、あの部屋に居ても大丈夫ではないだろうか。

それでも、盗聴器をそのままにしては置けないので、盗聴を知らせて来た業社に明日にでも連絡を入れてみようかと考えながら、手の中の携帯を眺める。


しかし、その業者が信用できるのかも心配になって来る。

 ――― お金のために自作自演ってことも....

ドラマや映画じゃあるまいし、平凡に暮らしているのに自分に、何故こんな事が起きてしまうのか...一美の脳はもう既に考える限界に近かった。


無意識なのか、一美は宮下に電話を掛けていた。

「でて。早く電話に出て!お願いだから、早く出て」

両手でしっかりと携帯を握りしめ耳に当てる。RRR…と鳴る呼び出し音が何時もより長く聞こえる。




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