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「ねえ。あの二人、結婚するのかな?如何思う?」
「...」
「聴いてるの?一美」
一美と美樹は一緒に夕飯を食べていた。
美樹も今夜は夜勤明けで、昼近くに帰宅して夕方から寝てしまった為に夜中に目が覚めてしまったので、夜食を持参して一美の家に遊びに来ていた。
宮下が帰った後、簡単な家事をこなして、もう少し睡眠をとろうとしてベッドに横になったが眠る事が出来なかった。
「ねえ、ホントに今夜泊まってもいいの?ご主人は?」
「出張。それより結婚って?」
一美は、朋子と町顕の事を言っているのだろうと、思っていた。そう言えばあの日、美樹は居なかったが朋子が直接話したのかな?位にぼんやりと考えていた。
「本人から聞いたよ。先ずは退職して、そのうち...みたいに言ってたけど」
「ええ?!一美には話したの直接?仕事辞めるって?産休じゃなくて?退職?」
「....誰の話してるの?美樹」
ビールと美樹の手作りのタンドリーチキンの差入れを食べながら、二人のおしゃべりはやや酔いが回ってた。
「噂だよ。あくまでも噂だからね。琴世さん」
「琴世..さん?」
一美は先日の思い出したくない焼き肉屋での出来事を思い出した。
「私が聞いたのは、琴世さんが妊娠してるってこと」
「!!! 妊娠?!」
コップに残っていたビールを飲み干した美樹が、その先を続ける。
「例の昔の不倫がまだ続いてたらしいよ。で、妊娠。でも、相手の先生は離婚が成立してないんだって。」
美樹の話を聞きながら、先日の琴世の台詞を思い出していた
『先生夫婦の問題で、私には関係ない』
――― もう関係ないなんて言ってられないじゃない!
一美は、段々表情が険しくなってくる。琴世のやっている事が、妻の立場的には有り得なかったからだ。
幾ら仲の良い友達で学生時代の先輩でも、受け入れられる事とそうでない事がある。一美には琴世の選択が理解出来なかった。
「琴世さん...産む..ん..だよね?」
一美は恐る恐る美樹に訊いてみた。
――― 常識的に考えれば、産むと言う選択はどうかと思うが、女としては産みたいと考えるのは普通なのだろうか。でも、私は認めない。
もし、これが慶司だったら....。私は..。
美樹は人事の様に琴世の事について話し続けた
「この前、主任に....って話が琴世さんにあったらしいの。で、その席で同棲と妊娠打ち明けたんだって。」
「結婚って?じゃあ、事実婚ってやつ?」
「そう言うことかな?」
美樹は何処から情報を仕入れて来るのやら..と一美は驚いた。
しかし、自分も何時か突然に夫の彼女が表れて『慶司さんの子供が出来ました。離婚して下さい』なんて事にならないとも限らない。それが妄想で考え過ぎであって欲しいと願った.....
しかし
夫に彼女が居るかどうかは妄想でしかないが、妄想では無い事実が今日の昼間にこの部屋で起きてしまった。
夫が帰って来てくれる事を願い、今度は仲良く互いをより理解した夫婦生活を送りたいと切に思ってはいけない立場になってしまったのではないだろうかと考えた。
――― 私のやった事は、琴世を責められるものではない。
僅かな時間の沈黙だったが、それを美樹の予想しない言葉が破った
「ご主人ってメールも電話もして来ないの?」
「え?」
ビクリっと一美の身体が驚いた。
「普通、留守にしてる家を心配してメールや電話をして来るんじゃないの?一美の旦那はないの?」
「え...あ..?」
夫のことを考えていた時に、美樹に訊かれて咄嗟に上手い返事が出て来なかった。




