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魔剣の品格  作者: 時雨煮
双剣乙女料理帖(仮)
33/33

弐、つかれることしかできません

 ぼんやりとした薄暗い喫茶店の中。眠気を誘う感じの音楽が小さく流れているけれど、今はそれどころじゃない。


 口を開こうとした私を制して、エーコ先輩は姿勢を戻した。

 手元のメニューをちらりと見て首を振った後、少し身を乗り出して、給仕の少年に向かって片手を上げる。


「アイスコーヒーふたつ、お願いできるかな」

「あ、はい。えー、承りました」


 注文されるなんて考えていなかったのか、彼は少し慌てたように返事をした。

 少年がわたわたとキッチンの方へと消えていくのを見届けてから、先輩はようやく私に視線を戻した。


「ところでアキ君は、立てるかい?」


 いきなり変わった話題に首をかしげつつも、それくらいならと足を動かそうとした瞬間。急に全身が言うことを聞かなくなってしまう。

 全身が砂に埋まってしまっているような、何かに押さえつけられている感じの息苦しさ。それは、私が立つのを諦めて姿勢を戻すまでずっと続いた。


「……動けないです」

「僕もさっきから色々と試してはいるんだけれど、席を離れよう、と考えると駄目なようだね」


 エーコ先輩はテーブルの端に置かれていた丸い容器を手元に引き寄せて、スプーンで白い砂糖を掬い上げてみせた。つまり、座っている限りは支障は無いんだろう。


「ええと。これって金縛りですか」

「あの少年の仕業だろうから、見えないところに追い払えば動けるんじゃないかと思ったんだが……うん、無理のようだね。対処は後で考えるとして、とりあえず話を戻そうか」


 エーコ先輩は頷いて、また顔を近づけてくる。

 そうだった思い出した。脱線していたけれど、そっちの話を進めないと。


「鎮めるなんて、どうやったらいいかさっぱりなんですけど」

「アキ君の霊媒体質なら、あの置物に宿っているモノとも同調できる。この空間を創り出して、中に何人も閉じ込めている理由を確かめて、説得するんだ」

「でも、取り憑かれてる間って、ほとんど意識無いですよ。記憶もいつも曖昧で」


 大抵の場合、気がついたら全部終わっていて、オリコが顔が目の前にあるのだし。そんな体たらくでは、とても説得なんて出来ないだろうと思う。

 それでも先輩は、自信たっぷりの様子で口を開く。


「高位の『魔剣』であるクロ君に身体を貸していても、支障は無いんだろう? 最近は頻繁に入れ替わっても平気なようだし、今のアキ君なら、あの置物に触ったくらいで気を失うなんてことは無いはずさ」

「ええと、それはクロちゃんが手加減とか配慮とかしてくれてるから、だと思うんですけど……」

「それにしたって、適正が無ければ不可能な芸当だよ。少なくとも僕には無理だ」


 振り返って、ネズミの置物を見る。薄暗い照明の中、相変わらず金色に光っている。給仕の少年はまだ戻ってきていない。

 先輩がそこまで言うならやってみるべきかと考えたりするものの、もうひとつ、心配なことがあった。


「あれって、その、とんでもない悪霊だったりしないんですか」

「その点は問題ない。今のところはね」


 何の準備も無しにまた呪われたりしたら大変だと思ったのだけど、先輩はちょっとだけ笑って否定する。


「今のところ、ですか?」

「こんな場所だけれど、(けが)れは全く感じられない。あの子供からも悪意は感じなかった」


 しかしね、と先輩は眉根を寄せて言葉を続けた。


「犠牲者が出れば、死の穢れによって間違いなく悪霊と化すだろう。そうなる前に説得できないようであれば、僕がきっちり対処する」


 その発言通り、私がやらなくてもエーコ先輩がなんとかしてくれるのは間違いない。けれど。


「ダメモトでやってみます」

「済まないね。ぶっつけ本番はさすがに避けたかったんだが」


 困ったような表情に、私を心配する視線。それでも、私が一歩前に進むために必要なものがここにあるから、わざわざ私に声をかけたんじゃないだろうか。だったら断るなんて、とてもできない。


「やり方、もうちょっと詳しく教えてもらえるんですよね」

「ああ、勿論だとも」


 これが上手くいったら、オリコのお荷物から卒業できたりするだろうか。


    ○


 私たちが相談を終えて、さらに長い時間待たされた後、ようやく給仕の少年がキッチンから姿を見せた。コーヒーの入った細長いコップを乗せたトレイを両手で持って、ゆっくりと私たちの席へと近づいてくる。

 慣れない手つきでコップをテーブルに置いて、少年は軽くお辞儀した。


「お待たせしました。アイスコーヒー、ふたつになります」

「どうも」


 エーコ先輩は頷くと、やっぱりねえ、と呟きながら手を伸ばした。コップが持ち上げられ、口を挟む間もなくひっくり返される。

 アイスコーヒーに見えていた液体は、コップを離れた瞬間に形を変え、バラバラになってテーブルの上に散らばった。景気良く音を立てて跳ね、転がったそれらは黒くて丸くて、よく見れば。


「コーヒー豆?」

「そうみたいだね。水気があれば僕も少しは楽できたんだが、残念」

「お、お客様」


 予想外の事態に戸惑う少年に対して、エーコ先輩の視線が向けられる。先輩は空になったコップを置いて、掛け声と共に両手を打ち鳴らした。

 少年を取り囲むように、静かに幾筋もの光が立ち上る。事前に先輩が撒き散らしていた白い砂糖が、少年の足元で輝いていた。


「はい、捕まえた」

「──っ」

「座ったまま陣を書くのは、少しばかり大変だったよ」


 少年から目を離さないように、エーコ先輩はゆっくりと立ち上がる。先輩が何をやったのか見当もつかないけれど、もう金縛りは解けているらしい。


「アキ君、長くは持ちそうにない。そっちは頼んだよ」

「あ、はい」


 私も急いで立ち上がり、何やら制止の声を上げる少年に背を向けて、レジの方へと近づいていく。

 給仕の少年と接触する方が楽なんじゃないだろうか、という私の案は「安定した繋がりを持つには、動かない本体を狙った方がいいだろう」とすげなく却下されてしまっている。


 私が数歩進んだところで、足元の床がいきなりぐにゃりと歪んだ。バランスを崩しそうになって、仕切りの壁に手をかけてしまう。ぐらついた仕切りを押し倒してしまわないように慌てて踏ん張って、結局は尻餅をつくことになった。


 じわじわと歪み続ける喫茶店に目眩を覚えながら見回していると、その中でまっすぐに立つエーコ先輩と目が合った。


「ただの幻だよ。気にせず目を(つむ)って進みたまえ」


 言われるままに目を閉じて、恐る恐る立ち上がる。床板をしっかり踏みしめる感触に安堵しつつゆっくり進んでいくと、焦れたような声が背後から飛んでくる。


「あと二歩、おっと、三歩前か。ちょっと右だ。いや、行き過ぎた」


 先輩もよく見えていないのだろう、要領を得ない指示を聞いて、スイカ割りを連想しながら手を伸ばす。

 何度か空を切った指先が、硬い何かに触れた。その瞬間、大量の「記憶」が流れ込み、私の意識は押し流されてしまった。


    ○


 ──まだ、「僕」ではなかった頃の記憶を観る。


    ○


 曇天の隙間から太陽が覗いて、一面の焼け野原が照らし出される。大規模な空爆を免れてなんとか原型を留めている建物も、火災によって大きな損害を被っている。煤けた外壁の窓はガラスがことごとく割れ落ち、溶け崩れていて──


 どうやら民家であったらしい残骸があった。錆びた鉄の棒を不器用に扱って、瓦礫の山を突っつき掘り返していた男が、やがてその手を止めて屈み込んだ。

 彼は左手で拾い上げた黒い塊を、服の袖に擦り付ける。汚れが拭き取られてみれば、金色の塊が鼠の置物であることがはっきり見て取れた。


 男は置物を優しく撫でてから、空いた手に杖を持ってゆっくりと立ち上がる。数日経ってもまだ(くすぶ)っているのか、あちこちから煙が立ち昇っているのを巡り見て、はあ、とため息をつく。


「商売繁盛のお守りじゃあ、空襲は防げんわな」

「おい、親父」


 背後からかけられた声に、男は振り返った。道路のど真ん中に仁王立ちしているのは、防災頭巾を被った少年だった。


「そろそろ行かんと。親父の足じゃ、これ以上長居したら日が暮れちまうがな」

「わかってるよ、宗太郎(そうたろう)


 もう一度ため息をついてから、男は片足を引きながら歩き始めた。その隣で歩調を合わせる少年が、ぼそりと呟く。


「戦争なんか、早いとこ終わらんかな」

「ああ。ほんでまた珈琲(コーヒー)飲めるようになると、いいんだけども」

「喫茶店でもやったらええがね。そしたら給仕くらいやってやるよ」


 何気ない会話を交わしつつ、ふたりは瓦礫の山を離れていく。


    ○


 彼が数年後に始めた小さな店は、少しずつ体裁を整えながら細々と続いていた。

 伝手(つて)を頼って仕入れた本物のコーヒーはそれなりに評判で、店の雰囲気も悪くは無かった。


 鼠の置物はといえば、店の入り口、レジスターの横に鎮座して、店の主と常連客の笑顔を見守っていた。


 そして、その日がやってきた。


    ○


 愛用の杖を左手に、壮年の男は喫茶店だった古い木造の建物を見上げていた。半壊した建物は、自然の振るった猛威の凶悪さを彼に見せつけている。

 男の足元は膝の下まで水が満ちており、泥沼と化した一帯に、木場の方から流れてきた木材が散乱していた。


「まったく、酷い台風だがね。宗太郎の方は大事無いといいけんども」


 数年前まで店の手伝いをしていた息子は、就職して上京してしまっている。東京の状況を確かめようにも、ラジオは店の中だった。たとえ見つかったとしても、この状況では電気が通じていないだろう、と彼は肩を落とした。


 男は店の中を覗き込む。瓦の飛んだ屋根の隙間から射し込む光が、小さな置物に反射した。慎重に足を踏み入れ、右手でそれを拾い上げる。


「こんだけわやになっても、お前さんだけは無事なんだから、商売続けろって言うんかい」


 呆れたようなぼやきの言葉が、ため息と共にこぼれ出る。

 それでも命があるだけマシな方かと気を取り直して、男は他に持ち出せる物が無いか目を凝らし始めた。


「だったら、次は焼けたり沈んだりせんように、見守っててくれんかね」


    ○


 その言葉を、「僕」ははっきりと覚えている。

 何てことは無い、言うだけ言ってみただけの「お願い」だったけれど、それでも彼の力になれればと思ったんだ。


 ──それから?


 それから。男の新しい喫茶店は、駅前にできた大きなビルの地下街に開店した。あまり良い立地ではなかったものの、店主の人柄の賜物か、それとも商売繁盛のご利益でもあったのか。順風満々とは行かないまでも、店の経営が傾くようなことはなかった。


    ○


「マスター、さっきの子はお孫さんかい」

「孫娘なら東京に住んでますけど。さっきの、と言いますと?」

「小学生くらいの子供に誘われてここに入ったんだがね。いや、気のせいだったかもしれん」


 すっかり髪の白くなった店主が、レジの前で客のひとりと話している。

 最初の頃は何もできなかった「僕」だけれど、何十年か経つうちに、客引きの真似事くらいはできるようになっていた。


「実際、何か居るんかもしれんですわ。同じような話、お客さんやバイトからも何度か聞いとりますし」

「それもしかして、座敷わらし……はちょっと違うか」


 千円札を店主に手渡しながら、客は少しだけ思案して。それから全然違う話題を口にした。


「ところでこの地下街、無くなっちゃうんだって?」

「ビルの立て替えが終われば再開するって話ですけど、私も年ですからねえ」


 そろそろ潮時かもしれませんわ、と店主は苦笑いで返し、釣り銭を手渡した。

 その声は、全部焼けてしまったあの日、全部流されてしまったあの日みたいに、少し寂しそうだった。


    ○


 だったら、今度こそ「僕」がこの場所を守らなければ。


    ○


 通行人をたくさん招き入れよう。会話の内容はよくわからなかったけれど、客さえ入れば店は続けられるはず。


「──それで、こんなことしちゃったわけ?」


 ようやく意識がはっきりしてきた「私」が、「僕」に問いかける。さすがにちょっと、呆れた口調になってしまった。


 白くぼんやりとした世界の中に、小さな鼠の置物が浮かんでいた。金色の置物を挟んで向き合うふたりの姿が、少しずつ明らかになってくる。


 眼鏡をかけたポニーテールの女子高生、少し猫背で眠そうな感じに見えるのが「私」、兼塚亜輝(かねづかあき)で、反対側に立つ給仕服の少年が「僕」、その姿は記憶の中で宗太郎と呼ばれていた少年とよく似ている。


「だって、知らなかったんだ」


 少年は、不貞腐れた様子で口を尖らせる。確かに彼は何も知らなかったんだろう。けれど、私と同調している今なら理解できるはず。


 通行人を何人も店の中に引き込んだ後、この子は彼らをずっと閉じ込めるだけだった。注文を聞いたり、それらしく振る舞ってはいるけど、現実には何もできていない。

 何にせよ、人が入ろうが入るまいがこの地下街は閉鎖されるし、上のビルは解体される。そして何年か後に、もっと大きな新しいビルが建って、新しい地下街が開業する。余程の事でも無い限り、その計画が見直されたりはしないだろう。


「エーコ先輩を巻き込まなかったら、この状況がもう何日か続いて、ちょっとしたニュースになったかもね」

「それでも店は続けられないんだな」


 私が頷くのを見て、少年はため息をついた。その仕草が記憶の中の店主と似ていて、ちょっとだけ頬が緩む。


「お店、五十年くらいやってたんでしょ? マスターもいい年じゃない」

「それも知らなかった」


 歳をとって、身体が追い付かなくなって、いつかは死ぬ。だって人間だもの、なんてことも、レジの横から覗ける世界がすべてだったこの子には新事実だった。言うなれば井の中の蛙、もとい鼠小僧、もちょっと違うか。それはそれとして。


「君のお店もひとまず閉店しないと、みんな困っちゃうから」

「うん」

「マスターは奥の調理場だよね」

「椅子に座って寝てる。弱っちゃってるかも、なんだよな」


 少年の記憶から判断して、二日くらい何も口にしてないようで、少年はかなり心配そうだった。いつか来る別れが、今やってきました、じゃ洒落にならない。


 そんなことを考えている間にも、金色の鼠の置物を中心にして、喫茶店の風景が戻りつつあった。


    ○


 喫茶店の中は、私が置物に触れる前とは違って、はっきりと見通すことができた。どうやら私たちは、現実世界でもきちんと店の中に入っていたらしい。今ならメニューもちゃんと読めるんじゃないかと振り返り、エーコ先輩の姿を発見した。


 音楽が消え、静寂に包まれている店内で、先輩が声をかけてくる。


「上手く同調できたようだね」

「はい、なんとか」

「何よりだ。不調があったら言ってくれたまえよ」


 取り憑かれた後に特有の身体のぎこちなさ、精神的な気だるさは感じるものの、重症ではないように思える。この調子なら、後でそんなに居眠りすることはないだろう。


 少年の姿は見当たらない。けれど、右手に握っていた鼠の置物を通して、彼の意思が伝わってくる。


「お客さんは七人。みんな眠ってるはずです。あと、お店のマスターがいるみたいなんで、キッチンの方を見てきます」

「わかった。僕は応援を呼ぶとしようか」


 エーコ先輩は頷いて、携帯電話を操作し始めた。レジの横から裏側に回り込んで、狭いキッチンスペースに入ってすぐ、奥の方に人影を見つけた。

 小さな椅子に腰掛けた老人は、杖を抱えて俯いている。肩がわずかに上下しているのを確かめて、ほっと一息つく。


「……大丈夫そうだね」


 水を用意しておこうかと食器棚を物色し始めてすぐに、老人が動く気配があった。そちらを向けば、ちょうど顔を上げた店主と目が会ってしまう。

 まだ意識がはっきりしていないのだろう、ぼんやりとした視線を前にして手が止まる。この状況をどう説明したものか考えあぐねていると、私の身体が勝手に動き始めた。


「わっ、と」


 同調していた「僕」の方が、どうやら居ても経ってもいられなくなったらしい。私はゆっくりと近づいていき、老人の前に屈み込んで恐る恐る見上げる。

 見つめ合うこと数秒。私の口から小さな声が漏れる。


「ごめん。上手くいかなくて」


 果たして、その言葉が正しく伝わったのかどうか。私の右手に握られている置物に視線を落とし、それからまた私の顔を見て、店主はゆっくりと頷いた。


「まあ、しゃあねえさ。これまでありがとうな」


 それだけ言って、老人はまた目を閉じた。

 わずかな表情の変化を感じ取ったのか、鼠の置物から伝わってくる緊張が薄れていった。


    ○


 少し待っていてくださいと小声で伝えて立ち上がる。エーコ先輩の指示を仰ぐべくキッチンから戻ると、先輩は携帯電話で絶賛会話中だった。


「もう人員を送ってる、なんて言ってるけれどね、そんな様子はさっぱり無かったよ。いったい誰に頼んだんだい」


 相手の返答を聞いて、先輩の表情がさらに厳しくなる。携帯電話から顔を離して「よりによって、ジオが」と呟いてから、会話を再開した。


「ともかく。もう問題は解消しているんだし、事後処理は任せたからね。手が足りないなら、彼にも頼むといい」


 反論を許さない勢いで一気に話を進めて、エーコ先輩は通話を終わらせる。戻ってきていることには気配で気付いていたらしく、すぐにこちらを振り返った。


「そっちも大事ないようだね」

「はい。大丈夫でしたけど……ええと、丸投げしちゃっていいんですか?」

「適材適所、だよ。被害者のアフターケアだの何だのは、専門のチームに出てきてもらった方が間違い無いしね。ひとりであれもこれも片付けるなんて、土台無理な話さ」


 エーコ先輩は肩をすくめて、厳しかった表情を緩めた。アベノ君にも知らせないとねえ、と手元に視線を落としたそのとき、喫茶店の入り口の方でドアが勢いよく開かれる音がした。


 もしかしてオリコだろうか、と根拠も無しに視線を向けたものの、そこに立っていたのは見知らぬ銀髪の青年だった。高校の夏服を崩したような服装に、右手に持った金属バットを肩に担いだ様子は、あまり係わり合いになりたくない雰囲気を漂わせている。

 銀髪の青年はぐるりと周囲を見回しながら、店内に歩み入ってくる。ドアが閉まってまた静かになったところで、彼は足を止めた。


「俺の獲物を横取りしたのは何処の誰……って、霙姫(みぞれひめ)?」

「遅かったですね、ジオ。後片付けに来たのならお任せしますよ」

「何だよ、久しぶりだってのに連れないな」


 外国人っぽい外見に似合わず、流暢な日本語を話す彼は、どうやら先輩の顔見知りのようだった。

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