表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔剣の品格  作者: 時雨煮
双剣乙女料理帖(仮)
31/33

零、七尾駅前 ショッピングモールにて

 八月初頭の炎天下、停留所でバスを何十分も待っていられない、というのは拝島霙子(はいじまえいこ)の切実な願いだった。果たしてその願望は叶えられ、三人の女子高生は駅前の商業施設の中にあるドーナツ店で寛いでいる。

 小声でぶつぶつと滅びの言葉を呟いていた三年女子が、冷たい紅茶を口にして落ち着きを取り戻していく。頃合いを見計らって、一年女子の片割れである仁谷更紗(にたにさらさ)は停留所での会話を再開する。


「それで拝島先輩。伝奇同好会の合宿って、何をやるんですか」

「ああ、うん、そうだねえ……とりあえずは、水着持参で海かな」


 おおー、と腰を浮かせたのは、もうひとりの一年生、兼塚亜輝(かねづかあき)だった。海と聞いて俄然勢いづいたものの、うまい話はそうそうないのだ、と自身に言い聞かせ、気を落ち着かせて姿勢を戻す。


「えーと、日本海ですか? それとも太平洋?」

「太平洋だねえ。三重だから」

「よしっ!」


 小さなガッツポーズに揺れるポニーテール。それを横目に、仁谷更紗はドーナツを手に取りつつ、話の続きを催促する。


「ただ泳ぎに行くとかじゃないですよね。何か曰くつきの場所(スポット)があるとか?」

「まあね。ウチの男衆が何だかやる気になっているし、彼らには少しばかり職業体験してもらおうと思ってね」


 進路としてはお勧めしない仕事なんだけれどねえ、と続いた言葉に、兼塚亜輝は表情を曇らせる。小さく唸りながらライオンの(たてがみ)を八分の一ずつ食い千切り始めた彼女に対して、拝島霙子は困ったように弁明する。


「そんなに心配しなくても、今回はオリト君に危ない事をさせるつもりは無いよ。『封印』の年次更新に付き合って貰うだけだから」

「……今回は、ですよね」


 七月の騒動を思い出して、テンションはさらに低下する。伝奇同好会の会長は、さらに言葉を続けていく。


「彼が『魔剣』を所持している限り、平穏な生活は望むべくもないだろう。だとしたら、最低限の身の処し方、立ち回り方を教示するのが先達の務めだからね」


 幼馴染の同級生は高校を卒業するまでに準備を終えて、能登を離れていってしまうだろう、という予感が兼塚亜輝にはある。それに対する自身の釣り合わなさに、焦りを意識し始めたのは何時頃からだっただろうか。


「移動や宿については心配無用だ。細かいスケジュールはこれから詰めることになるけれど」

「部外者ですけど、ホントに私も行っていいんですか」

「もちろん構わないさ。先日のお詫びも兼ねてだからね……と、そろそろ時間かな」


 仁谷更紗の問いかけに頷いてから、拝島霙子は壁の時計を見上げて、冷えたコップから名残惜しそうに手を離した。

 席から立ち上がり、片付け始めた彼女に合わせて、一年生ふたりも手を動かしてトレイを運んでいく。


「エーコ先輩」

「何だい、アキ君」


 先輩が立ち止まって振り返る。


 三歩遅れて歩いていた私は、俯いていた顔を上げて、ゆっくりと口を開いた。


「私にも、何か役に立てることあったりとか、しますか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ