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僕等 〜約束〜  作者:
8/28

第8話:空しい少年



「あれ樋口、部活終わったんじゃないの?何で外周してんの」

「お前のせいじゃ、どアホっ!」

羽稀は息を切らしながら、後ろから走ってついて来る紗織をどついた。

「いたっぁ。何、私のせいなの?」

「半分、な」

「・・・あと何週走るの?」

「5周走ったからあと15周だけど」

「そ。じゃあ、半分が私のせいなら10周だけ一緒に走ってやるよ」

紗織は羽稀の右隣につくと、出来るだけ羽稀のペースに合わせて走ってくれた。

「・・・俺、もっとペースあげようか?陸上部のお前からすると、このペースじゃ遅いだろ」

「そうでもないよ。私は短距離と高跳び専門だから持久力はあんまり自信ないんだ」

(それに・・・出来るだけ一緒に居たいし・・・ね)

いつもは憎まれ口の一つでも言い合える仲なのに、改めて二人っきりになると、二人とも言葉を交わせなくなってしまった。

「・・・そういやぁ、俺に用事あるっつってたよな、藤峰。何だよ」

無言で走るのに堪えられなくなった羽稀は、さも今思い出したかのようにそう言った。

「あぁ、そうだった。ホラ、来週テストがあるだろ?でも、今回全然勉強わかんなくてさ。勉強教えて貰おうかと思ったんだけど、ダメかな・・・?」

沙織は、頼み込むように手をパンッと合わせた。

「・・・ふーん、藤峰って成績は悪くねぇけど、頭は悪りぃのな・・・―」

(ゴン・・・ッ!)

ふざけてそう言う羽稀の後頭部を叩いて、沙織は素晴らしくいい音を出した。

「いて・・・っ!」

「だからこうやって頼んでるんだろ、余計なお世話だよっ。樋口は頭いいからいいよな!」

沙織は不機嫌そうに顔を歪めて毒づいた。

「・・・頼んでる態度とは思えないけど―」

「何か、言った・・・?」

「なんでも無いッス」

とか何とかやってるうちに、いつの間にか早足になっていたせいだろう。

あっという間に10周は走り終わった。

「はぁ・・・っ!疲れた・・・〜。樋口はあと5周残ってるんだっけ?」

「ふぅ・・・〜、まぁな。・・・一緒に帰るんだっけ?すぐ走ってくるからちょっと待ってろ」

羽稀はまだ息も落ち着かない状態ですぐまた走り出そうとしたが、沙織に腕をつかまれ、引っ張り戻された。

「も、いいんじゃない?十分走っただろ。もうすぐ暗くなっちゃうし帰ろうよ」

「ば・・・っ、何言って・・・」

「誰も見てないんだし、いいじゃんっ。さ、帰ろ!」

そのまま納得いかない様子の羽稀を、沙織は無理やり引きずってスタスタと歩いていった。

(だ、だったら最初から走らなくてもよかったじゃん・・・!)

何だか無償に虚しさを感じる少年が、ここに一人。


「でさぁ、勉強。教えてくれるの?教えてくれないの?」

腕を組みながらなんともでかい態度の沙織。

「だ、っから。その偉そうな態度は何なんだ・・・?!」

「・・・別に、嫌なら嫌って言ってくれれば・・・」

沙織はでかい態度から一変して、急に申し訳なさそうにうつむいた。

「な・・・っ、べ、別に嫌じゃねーよ・・・」

「・・・本当に?」

「あぁ、・・・俺は嘘は言わねぇ」

羽稀は沙織の表情を伺うように、静かに言い放った。

すると、たちまち沙織の表情はパァッと明るくなった。

「樋口、ホントだなっ?約束だぞ」

「お、まえ、・・・俺を騙したなっ」

「何とでもいいなっ、勉強教えてくれるんだよな?嘘は言わないんだよな?」

悪戯っぽく笑いながらそう言う沙織に、羽稀はグッと言葉を飲み込んだ。

(してやられた・・・っ!)

何だかとてつもなく空しく感じる少年が、ここに一人。



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