第7話:演劇部ぶちょ→
「私、演劇部に入ります!!」
『へ?』
茗は怒って羽稀を殴ってから体育館を出た後、茗は演劇部のいる第一体育館にやってきていた。
「頭きたー!!羽稀のバカァっ!!」
茗の叫び声はむろん体育館の中で響き渡り、おそらく第一体育館 ―防音効果バッチリ― の外にも聞こえたと思われるぐらいだった。
・・・補足として、たぶん羽稀もただならぬ気配を感じとったと思う―
「・・・声量は合格点ね」
声のする方を見ると、そこには無表情のまま親指をぐっと立てている、黒髪の綺麗な女が立っていた。
戸惑っている茗に構わず、彼女は言葉を足した。
「Weicome to 演劇部」
やっぱり無表情だ。
(この人言ってる事と、表情がかみ合ってないわ・・・)
「部長さん・・・ですか?」
「ええ。演劇部部長、帷原 真名美です」
とことん無表情だ。 いや・・・ちょっとだけはにかんでる気がする。
「帷原部長ですね。2年の水無月ですが、入部を希望したいんです」
「入部希望?へぇ・・・」
そう言うと、真名美は茗を見極めるように見回して、呟いた。
「いいわ、入部を許可します」
「ほんとですか?ありがとうございますっ!」
真名美とは対照的に、笑顔を惜しげも無く振り撒く茗の肩に誰かがポンッと手を置いた。
「水無月さんっ!演劇部に入ってくれたんですか?」
「あ、生徒会長」
「嬉しいなぁ、まさか水無月さんが演劇部に入ってくれるなんて・・・っ」
(・・・半分はやけだけどね)
苦笑する茗。嬉しさいっぱいで笑顔の楓(生徒会長)。無表情の真名美。
この三人の光景を眺めている他の部員達は、クスクスと笑い声を漏らしていた。
「そうだわ、楓くん?」
「はい、何ですか?部長」
「水無月さんも最初はいろいろとわからない事もあるだろうから、楓くんに水無月さんの指導係をまかせるわ。いいわね?」
「はい!もちろんですっ」
そう言うと真名美は、どこかへ行ってしまった。
「ねぇ、生徒会長。帷原部長も舞台に立つのよね・・・?」
(無表情なのに演技とか出来るのかなぁ・・・?)
「部長はシナリオを考えたり、監督専門で。舞台に立つ事はほとんどないんですよ」
「へぇ、そうなんだ」
(ちょっと安心したかも)
「演劇部の総員は6人、水無月さんを入れて7人。部長と僕と3年生の男子が2人、2年男子1人、1年女子。ちょっと人数は少ないですがよろしくお願いしますっ」
「うんっ!よろしくね」
二人はニコッと笑いあった。
「なぁ、樋口。あのこ演劇部に入ったって、知ってる?」
休憩時間に沙織が羽稀に話し掛けた。
「『あのこ』って茗の事?」
「それしかいないだろ。で、知ってる?」
「初めて聞いたけど」
羽稀はバスケットボールを持て余しながら、軽く返事を返した。
「ま、知らなくて当然なんだけどね。だってさっき入ったばっかりなんだ」
「じゃあ何で藤峰は知ってるんだっつーの・・・っ」
羽稀はそのまま綺麗なフォームでバスケットボールをリングへと吸い込ませた。
「ナイッシュっ!・・・でもさ、絶対にあのこバスケ部のマネージャーになると思ったんだけどなぁ」
(・・・鋭い。さっき来てたよ)
「・・・ふーん」
「興味なさそうだな」
「そういうわけじゃないけど・・・」
「でもさぁ、演劇部に入るったってこんな時期にそう簡単に入れないと思うんだけど」
「そうか?部活なんて入部届の申請さえすれば入れるだろ」
「知らないのか?樋口」
沙織は怪しげに笑いながら、そう言った。
「な、何をだよ」
そうな沙織に羽稀は妙な恐怖感を感じた。
「ここの高校の演劇部は特別枠なんだよ。申請するだけじゃ入れない。部長の許可が下りないと入れないのさ」
「なんじゃそりゃ、聞いたことねぇぞ」
「どうせ居眠りしてて聞いてなかったんだろ」
(・・・悪かったな)
「毎年部長の面接は厳しかったんだけど今年の部長は今までで一番厳しいって噂」
『ピーッ休憩終わりーっ!』
「噂かよ・・・。ほら、もういいだろ。休憩時間終わりだしお前も部活に戻れよ」
「私は今日の部活はもう終わりだもん。樋口もあと少しで終わるだろ?待ってるから一緒に帰ろ」
「何で俺が藤峰と帰らなきゃいけないだよ」
「まだ、話があるんだ。水無月の事心配してんのか?」
「アホ。そんなんじゃねーよ」
そう言いつつも少し考え込む羽稀。
(・・・でも茗は怒って出てっちゃったし今日は一緒に帰らなくてもいいかな。みぞおちを殴られた仕返しっつーことで・・・)
「な、いいだろ?」
「・・・あぁ。わかった」
羽稀がそう言うと、沙織は上機嫌で体育館を出て行った。
(ふぅ・・・)
「おーいっ!!樋口っっ。とっくに休憩時間は終わってるぞ!!」
「え・・・っ?!」
「バツとして後で校庭10周だ!10周!!さっきのも合わせて20周だぞーっ!」
「う゛っ。・・・・・・そんなぁーっ・・・」
(前回と同じ終わり方かよ〜・・・っ)