第6話:学校案内 by 生徒会長
「ここが音楽室で、この廊下を真っ直ぐいった所が美術室です」
生徒会長はよく通る声で茗にわかり易いように学校案内をしていた。
「へぇー、広い学校だね。場所とか覚えるのに時間かかりそう」
「田中さんとかと一緒に移動すればそのうち覚えると思いますけど」
「美沙梨?そうね、でも羽稀とか藤峰さんと一緒に行動するかも」
茗はそう言って嬉しそうに笑った。
「・・・樋口くんや藤峰さんとは知り合いなんですか?」
「んー、藤峰さんは知り合いって程じゃないんだけど、ね。羽稀とは仲良いんだよ」
生徒会長は「そうなんですか」と小さく呟くと、また学校案内を始めた。
「最後に、ここが第二体育館です」
「体育館が2個あるのね」
「はい。第一体育館では『演劇部』や『ダンス部』などの部活が主に使っていて、第二体育館では『バレー部』や『バスケット部』が主に使ってるんです」
茗は第二体育館を見上げるようにじっとみた。
第二体育館は最初に見た第一体育館よりも遥かに綺麗だった。
第二というだけあって、あとから作られたと考えれば当然といえば当然なのだが。
目を閉じて耳を澄ますと、微かにバレーともバスケットともわからぬ、ボールを突く音が聞こえた。
「今バスケ部もここで部活中?」
「え、はい。まぁ。バスケット部に興味があるんですか?」
「ううん。ちょっと聞いてみただけ。ところで生徒会長は部活、何やってるの?」
茗は表情をパァッと明るくして、生徒会長にたずねた。
「僕ですか?・・・演劇部ですよ」
「へぇ、ちょっと意外だなー」
「やっぱりそう思いますか?言われるとは思いましたけど」
「運動部かな、とも思ったんだけどね、演劇部だとは思わなかったから」
茗はにこにこと笑っていたが、生徒会長はどこか緊張気味で硬い笑いをこぼしていた。
「水無月さんは部活どこにはいるんですか?・・・演劇部に入って貰えると嬉しいんですが」
「演劇部も面白そうだよねぇ」
「だったらこれから演劇部に行ってみませんか?僕、案内しますけど。見学だけでもいいですよ」
生徒会長は結構乗り気で、茗を第一体育館に連れて行く気マンマンだったが、茗は少し困ったような顔をしていた。
「ごめんなさい、今日じゃなくて時間がある時でいい?」
「構いませんけど、今日は何か用事あるんですか?」
「ん、今日はバスケ部を見に行こうと思ってたの」
「え、どうしてですか?」
生徒会長は驚いたように少し目を見開いた。
「なんとなくだよ」
茗はわざとらしくそう言うと、第二体育館に小走りで向かった。
「案内ありがと、もう行くね。バイバイ!!」
生徒会長は陽気に手を振り駆けて行く茗に、思わず手を振り返してしまっていた。
第二体育館の扉を開けると、微かにしか聞こえなかった音達がよく響いて聞こえた。
茗は中に入り扉を閉めて階段を上り、ギャラリーへと行った。
上から見下ろすようにバスケ部の練習を見ていると、羽稀の姿が嫌でも目に入った。
羽稀は三年生の中でも一際大きな声を張り上げていて、シュート率もほぼ百発百中で、やっぱり一番かっこよかったからだ。
しばらく羽稀の姿を目で追うように見ていると、その視線に気づいたのか羽稀は茗のいるギャラリーに汗だくで上がってきた。
「・・・お前こんなところで何してんの?」
羽稀は暑そうに服をパタパタさせながら小さくたずねた。
「えっへへー。見学だよ」
「だから・・・何で見学に来てんのか聞いてるんだけど」
「私がバスケ部の見学に来ちゃいけない?ねぇ、私ここのマネージャーやりたいんだけどさー・・・」
「それ、ムリ」
羽稀は茗の言葉を遮って、バシッと言い放った。
「ちょ・・・っ、まだ言い終わってもいないのにぃー!何でムリなのっ?」
「それは・・・」
羽稀は口を開きかけたが、誰か明るい声に邪魔された。
「先パーイっ!」
下からジャージ姿の女の子―たぶん一年生―が来て羽稀にタオルを渡した。
「はい、どうぞっ」
「・・・ども」
「樋口先パイ、部長が呼んでますよ。『すぐにミーティングルームに来い』だそうです」
「あー・・・じゃあ、茗。ごめんちょっと行ってくるから待ってて」
「はいはい」
茗が女の子をチラッとみると、女の子はそれに気づいて茗に向かってニコッと笑った。
「・・・あなたここのマネージャー?」
「はいっ、バスケ部のマネージャーで一年の笹原やすみ、と言いますっ」
元気よくそう言うと、やすみはペコッと頭を下げた。
「えと、羽稀と同じクラスの水無月茗です」
「じゃあ、水無月先輩。部活中なので失礼します」
そう言うと、やすみはギャラリーを急いで降りていった。
しばらく待っていると、羽稀が小走りで戻ってきた。
「・・・意味わかった?」
「先客が居るってわけねっ!わかったわよ!マネージャーは一人しかなれないのねっ!」
「いや、そういうわけじゃないけど・・・」
羽稀は、予想以上に怒る茗を目の前に、口篭もりながら言った。
「じゃあ、なんで?」
「あいつ一人で今んとこ十分だし、茗が居ると逆に足手まといになりそう・・・―」
(ドスッ!!)
「・・・う゛っ」
茗は羽稀の言葉を全部聞かないうちに、羽稀のみぞおちに一発パンチを入れてやった。
「あーそうですか!!お呼びで無いってかっ!!羽稀の馬鹿っ、アホっ、おたんこなす!!」
茗が怒って体育館を出ていっても、羽稀はそれどころではない状態に陥っていた。
「みぞおち完璧入った・・・っ。まじ痛てぇ・・・―!」
羽稀はその場に膝をついた。
「おーい!!樋口っっ。いつまでサボってんだ!!バツとして、後で校庭10週だ!10週!!」
相変わらずの熱血漢、バスケ部部長の声をうっすらと感じながら、羽稀は小さく呟いた。
「そりゃ、キツイっすよ・・・。ぶちょぉ・・・っ―」