第5話:生徒会長
「あのガキ、ずっと置いておくつもり?」
茗と羽稀は、学校への道を並んで歩いている。
「そういうわけじゃないけど…、放っておけないじゃない」
「って言ってもなぁ…。理事長ってさぁ、そんなに怖い人?」
「怖い…っていうかぁ、逆らえないって感じ。秀才コースに入る上でいろんな援助も受けてるしねー…」
「ふーん…」
二人が歩いている道沿いに植えられた桜の花は、風に吹かれて激しく舞っていた。
「もー、春も終わりかぁ」
「そうだな」
茗は手の平を桜の木の下に伸ばした。
「桜も咲き終わりね」
「そうだな」
茗の伸ばした手の平に桜の花びらがヒラヒラと舞い降りた。
「桜の花って私みたい…」
「何で?」
茗は暫し考えてから、朗らかに笑った。
「桜の花ってピンクで可愛いでしょ?私にソックリっ」
「アホか」
そう言って羽稀は茗の頬を軽く摘まんだ。
「いたぁいっ。もうっ、ほんの冗談だったのにぃ」
茗はそう言いながら頬を擦った。
「あ、桜どっかに飛ばされちゃった…」
気づくと桜は手の平から消えていた。
「やぁ、樋口。おはよ」
「藤峰か、おッス」
「今朝は水無月と仲良く登校か?」
「見てたの?」
「見えたのっ。教室の窓から丸見えだったんだ」
「…あっそう」
羽稀が素っ気無く返事をすると、紗織は羽稀の隣の自分の席についた。
「教室に入ってくるのは一緒じゃないんだ?」
「職員室に行くのが先なんだってさ」
「じゃ、先生と一緒にHRの時に来るのか」
そんな事を言っていると…グットタイミング!!
先生が教室のドアを勢いよく開けて入ってきた。
「おーい、ホームルーム始めるぞー!席につけー!!」
(水無月の席はどこになるんだろ…)
「さ、今日は転入生がこのクラスに入ってくる」
(ザワッ)
「まじで!!先生、先生!!女の子?野郎?どっちッスか?」
「可愛い女の子カモ―ン!!」
「野郎はノーセンキューだぜぃ!!」
「転入生だって!!かっこいい男の子がいいよねーっ」
「どっちにしても羽稀様と紗織には敵わないって!!」
「言えてるーっ!」
『静かにしなさい!!じゃ、水無月さん。入って』
茗が教室のドアを開けると、男子も女子もシーンとなった。
静寂の中を茗はみんなの前まで余裕で歩いて行った。
「自己紹介して」
「皇雅学園から来た、水無月 茗といいますっ。仲良くしてネ!」
そう言って茗はにっこり笑った。
『か、可愛いー!!』
羽稀と紗織以外、クラスの全員の声がハモった。
「あの子すっげ、可愛くねぇ?!」
「紗織ちゃんとはまた違った良さがあるよな!」
「バカ!藤峰なんて目じゃねぇよ!!」
「いやーん、すごい可愛い女の子!!」
「男の子じゃないのはちょっと残念だけど、あんな可愛い子だったら全然OKじゃない?」
(みんなすごい反応…。水無月そんなにいいかぁ…?)
紗織はより、冷ややかな視線を茗に送った。
(…やっぱ、みんなから見ても茗って可愛いんだ。…ちょっと優越感)
紗織は改めて惚れ直している(?)羽稀を横目でチラリと見ると、思いっきり足を踏んづけてやった。
「い…っ〜…!」
(フンッ)
「何すんだよ、藤峰…っ!」
「何が?」
「……何でもないデス」
羽稀は、紗織の目力に負けた。
「っと、水無月の席は…。そうだな、樋口の後ろの席が開いてるな」
茗はそう言われると、周りの視線を大量に浴びながら嬉しそうに羽稀の後ろの席にストンと座った。
「よろしくネ、羽稀っ。それと、藤峰さんも」
紗織はチラッとだけ茗をみると「どーも」とだけ言ってまた前を向いた。
「藤峰さんったらスネちゃってぇ。可愛いー」
「…スネてなんかないっ!!」
紗織が茗に牙向けても、茗はニコニコするばかりであった。
「今日のホームルームは終わりっ!!あと、一時間目は国語だが自習になるからな」
先生が教室のドアを閉めた途端、咳を切ったようにみんなは騒ぎ始めた。
「水無月さぁん!!皇雅学園から来たんだよね?あそこってすごく頭いい人しか入学出来ないんでしょ?」
「うん、そうらしいね。理事長先生はそう言ってたけど」
「えーすっごぉい!と、いうかそんなにすごい学園からどうして白翼高校みたいな凡人高校にきたの??」
「凡人学校だなんて事ないと思うけど。んーと、理由はと聞かれれば『約束』したからかなぁ」
『約束?』
クラスの女子は口を揃えた。
そんな女子達を前に、茗はフフッと微笑んだ。
「水無月さん」
女子達の和気あいあいとした会話の中にいる茗に、一人の少年が控えめに話し掛けた。
「はいっ、何用ですか?」
「生徒会長の楓 宗介です。先生に学校案内をするよう頼まれているのですが、いつが都合いいですか?」
生徒会長と名乗るその少年は眼鏡のよく似合う、中々カッコいい感じに見てとれた。
「学校案内?う〜ん…放課後でいいかなぁ?」
「わかりました」
そう言うと生徒会長はその場から逃げるようにそそくさと男子達の輪に戻っていった。
「茗ちゃん。楓くんってああ見えて結構モテるんだよー」
「まぁ、それなりにカッコいいかなとは思ったけど。真面目くんじゃない?」
「あぁ〜、そう言われると真面目っぽいけど、運動できるし頭もいいしちょっと抜けてて可愛いとこもあるしねぇ」
「へぇ〜。…学年で一番モテるのは誰??」
茗は一つの答えが返って来るであろう事を予想した。
「学年一と言ったら絶対羽稀様!!茗ちゃんの前の席の彼ね。ちょっと難い感じはあるけどクールでいいのよぉっ!!」
茗はその言葉を聞いて、押さえきれず笑みが零れた。
「そう♪」
「なぁに?茗ちゃんってば嬉しそうじゃぁん」
「何でもないヨ」
そう言った茗の顔は、明らかにニコニコしていた。
「あ、そだ。私、田中 美沙梨って言うの!!美沙梨って呼んでね」
「うんっ、私の事も茗でいいよ。よろしくっ!」
美沙梨は少し長めの髪を軽く掻き揚げて、笑顔でそう言った。
茗もそれに必殺スマイルで返した。
「ホンッと、茗って可愛いねぇ♪妹に欲しいわぁ」
「やだ、美沙梨の方が可愛いよぉ。彼氏とかもちろんいるんでしょ?」
「それがこないだ別れちゃってフリーなの」
美沙梨は冗談っぽくそう言って肩をすくめた。
『よろしく!』
二人は手を軽くパンッと合わせた。