第26話:名探偵羽稀?
「上手くいき過ぎてるってどういうこと?」
ほんのり暗くなった帰り道、俺は茗に自分の考えている違和感についての話をした。
「いやさ、たまたま部長が早く帰ったことで、楓が鍵をかけなければいけなくなった。でもその楓がたまたま鍵を忘れて、顧問が鍵をかけるはずだったのに、たまたま忘れてしまった。偶然が多すぎるだろ?」
「まぁ……確かに」
「そんな風に都合よく鍵が開いている日が、あるかないかもわからない中で犯人は毎日遅くまで学校に残って部室の鍵が空いてるかどうか確かめるなんてちょっとリスクがでかすぎると思うんだよ。毎日そんなことをしてたら流石に目立つだろ」
「うん。でも、もしそれが本当だとしたら犯人は、最後まで学校に残っている事に違和感がない人ってことになるよね」
「その場合もなくはないんだけど、今は文化祭間近でどの部活も遅くまで準備をしていたりするから範囲が広すぎるんだよなー」
「八方塞がりだねぇ」
茗は困ったように頭を抱えた。茗は今回の件で困ってはいたけど、ちっとも怒ってはいなかった。そういえば茗の怒ったところなんて、泣いている姿以上に見たことがない。
茗の言い分としては「その人にはその人の事情があるから仕方ない」んだそうだ。心が広いというか脳天気というか。でも俺は、茗のそういう底無しの優しさが水無月茗そのものであると思うし、そこに惹かれてもいるのだからなんとも言えない。
そんな訳で俺達は、(帷原部長には申し訳ないが)探偵ごっこを純粋に楽しむことにした。
「そもそも犯行が行われたのは放課後じゃないんじゃないか?」
「どうしてそう思うの?」
「だって部室の窓は小さい窓が申し訳程度に付いているだけで、放課後人がいなくなるのを待つなら電気を点けざるを得ない。少しでも見つかるリスクを避けたいなら電気は使いたくないだろ」
「でも懐中電灯を使ったのかもしれないよ?」
「その可能性もあるけど、犯人はハサミを使って衣装を切ったんだ。懐中電灯を片手に衣装を持ってハサミを使うなんて面倒だろ?懐中電灯の明るさなんてたかがしれてるし、あんなに大道具やら何やらがあるところじゃ怪我だってしかねないし」
そこまで考えてまた違和感を感じた。
「ねぇ、羽稀。なんでわざわざハサミを使ったのかなぁ」
「え?なんでって……」
「犯人はなんでハサミを使ったんだろう。手作りの衣装だから手で力を加えれば簡単に糸はほつれてしまうのに。その方がハサミを使うよりずっと楽でしょう?」
ハサミ…そうか!
「茗!それだ!」
「へ?どれだ?」
「きっと犯人はみんなが登校する前に朝一番で部室に行って、ハサミを使って衣装を切った。なんでハサミを使ったのか、犯人は女子生徒だ。確かに力を加えれば糸は簡単にほつれるかもしれないけど、それじゃあ再起不能とまではいかない。よっぽど非力じゃない限り男子生徒だったら布ごと引き千切れると思うけど、女子じゃそうもいかないだろ?それに俺の感じてた違和感はそれだったんだよ」
「だからどれだったの?」
「切り口が綺麗すぎたんだ。きっと裁ちバサミを使ったんだ。裁ちバサミなんて男が所持してたらちょっと変だろ」
もう一つの違和感がほろほろと解けていく。思い出せ。あの時俺なんて言った?
「確かに……なるほど!羽稀ってば天才!で、犯人は?」
「犯人は……!」
「犯人は?」
「まだ秘密ー」
「えー!?なんでよ!わかったんなら教えてよ!」
茗は思いっきり頬を膨らませて肘で俺をつついてくるが、まだ俺の予想の範疇を超えないので茗には話せない。
「それより、当日の劇はなんとかなりそうなのか?」
「ふふー。もう、ばっちり!まっかせといて!」
茗はさっきまでの膨れっ面をすっかり直して、満面の微笑みだ。単純とはまさにこの事だ。と、俺は静かにほくそ笑む。
「楽しみにしてるよ」
そう、いろんな意味で。