第23話:おとーと
「ねぇ羽稀。最近藤峰さん元気ないと思わない?」
帰りの道中にそう切り出してきたのはなんと茗の方からだった。俺は茗のことをなんとなく鈍感なように思っていたから、茗も俺と同じように思っていた事に少なからず驚いた。などと言う事を告げたら、茗は心外だと言わんばかりに拗ねてみせたが、本心ではあまり気にしていない様子だった 。
「まぁ実のところ俺も気にはなってたんだ」
「私今度それとなく聞いてみようかなー」
「ぶっ、それとなく聞けるの?茗は素直過ぎるからそういうの苦手だろう」
「確かに・・・」
そう言って真剣に悩み出す茗を一頻り笑ってから、サラサラの髪の毛をわざとくしゃくしゃに撫でてやった。
「ま、俺に任せとけって。茗は演劇の準備やらなにやらで忙しいんだからさ」
茗は納得したようで「そうだね」と笑った。それからは部長が面倒臭いだとか配役がなかなか決まらないだとか衣装を作るのが大変だとか、他愛のない話をしながら帰った。
「うち寄ってく?」
茗はいつものように俺に有無を言わさないような口調でそう言って、文字通り俺の返事を待たずに腕を引っ張って行く。
最近は毎日のように遅くまで茗の家に寄っていくのが定例になっている。それと言うのもナツが「銅拳」と言うアクションゲームにはまってしまって、俺に勝負を挑んでくるのだ。中々勝てないのが余程悔しいのだろう。毎日懲りもせず様々な策を練って挑戦してくる。俺はそんなナツを面倒だと思う一方、兄弟がいないせいもあってか、弟のように思えてなんだかくすぐったくて嬉しかった。
「よく飽きないねぇ」
茗は感心と呆れが混ざったような表情で、俺たちがゲームをやっている様子を見ている。が、心なしか楽しそうというか幸せそうな感じだ。
「だって羽稀に勝てないんだもん!」
ナツは膨れっ面をしているが目はキラキラと輝いている。
そして、あんまり夢中だったので気が付かなかったが外は程よく暗闇に包まれていて、お腹も随分空いていた。夕飯を食べようと話していた矢先、携帯電話がなった。
「あ、私だ」
茗は鞄の中をまさぐって携帯を取り出したが、画面を見るや否や小声で「ごめん、ちょっと待っててね」と言って廊下に出ていった。
「親かな?」
俺は何気なくそう言ったが、ナツは何を言っているのか信じられないとでも言いたそうに口をあんぐりあけている。
「羽稀知らないの?」
「へっ?何が?」
ナツは一瞬躊躇ってから口を開きかけたが、再び口をつぐんだ。
「ナツは夕飯いらないのかな?」
気付けば電話を終えた茗が貼り付けたような笑顔でナツを見据えていた。
俺は一体何が何だか分からず終いだったが、茗が何かを知られたくないと思っているのなら無理に聞くべきではないと思ったし、俺の夕飯も抜きになりそうな勢いだったので大人しく夕飯作りを手伝うことにした。その間ナツは、ずっと浮かない顔をしていた。