第22話:文化祭
「えーと、では多数決の結果このクラスは模擬店をやるということで…」
文化祭を1ヶ月後に控え、学校では各クラスごとで出し物をきめるためのホームルームが行われていた。
各クラスで第三希望までを多数決などで決め、その後委員会で最終決定をする仕組みである。
もちろんクラスだけではなく、部活でも出し物をするのが恒例だ。
「羽稀!当日は演劇部ちゃんと見に来てね!」
「ん?えーとなんだっけ?ロミオとジュリエットだっけ?」
「違うよー!ロミエットとジュリオだよっ」
どうした?ウケ狙いか?
危うくツッコミそうになって、羽稀はなんとかその言葉を飲み込んだ。
しかし、不本意ながら少し内容が気になってしまうのが悔しいところだ。
「あ、そう。まぁいいんだけど……。どういう話なんだよ」
「ふふふー。それは見てからのお楽しみだよー」
茗は意地悪そうに笑って、教室を出てしまった。
あの一風変わった部長が演出する劇なのだからきっとろくでもない話なのだろうと思ったが、不思議と内容が気になってしまっていた。
「仕方ない、見に行ってやるか、なぁ、藤峰も行くだろ」
話を聞いていただろうと思い藤峰にも声をかけたが、藤峰は頬杖をついてぼーっとしていた。
「おーい、藤峰」
藤峰の目の前で手をひらひらさせてみたが、全く反応がない。
「わっ」
俺が耳元で大声を出すと、ようやく藤峰は我に返ったように体をびくっとさせた。
「な、なんだよ樋口。驚かせるなよ」
藤峰は耳を軽くさするようにしながら、怪訝そうに俺を見ている。
「いや、何回も呼んだんだけどあんまり反応がないからつい」
「あ、そう。……んで、何の用?」
「あぁ、文化祭の演劇藤峰も見に行くよな、って話だけど」
「はー?演劇ねぇ、別に嫌いじゃないけど。あたし、椅子に座って長時間待ってられないタイプなんだよね。ちなみに何やるの?」
確かにそんなタイプそうだ。
「えーと、『ロミエットとジュリオ』だよ」
「は?『何エット』だって?」
藤峰は自分の耳を疑うように、丁寧に俺に聞き返してきた。何エットて。
「ふーん……、まぁ、見に行ってやらなくもないけど」
やはり先ほどの俺のように、藤峰も内容が気になってしまっているようだ。
ところで、最近の藤峰は今のように頬杖をついて呆けていることが多くなった。授業中はもちろん休憩中も、ホームルームが終わった後ですら椅子に座ったままなことが多い。
最近というより、みんなで遊園地に行って以来かもしれない。俺は何か心配事があるのではないかと少なからず気にはしていたが、文化祭の準備や、部活動(主に部長の相手に労を費やしている)など、さらには家に帰れば毎日のように茗やナツが訪ねたり連れだしたりで、中々藤峰と話す機会がなくなんとなくおざなりになってしまっていた。
「藤峰さん」
気づくと目の前には楓が立っていた。
「な、なに」
「実は文化祭のことで話があるのですが、今お時間大丈夫ですか?」
「あ、あとにしてよ、あたし忙しいから」
「では、部活が終わりましたらそちらに出向きますのでよろしくお願いします」
楓は藤峰の毒舌も全く気にしていないようで、にこにこと笑いながら、「では後ほど」と教室を出て行った。
しかし、俺はこの時なんだが違和感を覚えた。藤峰は確かに普段から誰に対しても毒舌だが、藤峰の毒舌は素直じゃないってだけで、ああまで無愛想であっただろうか。
考える間もなく、藤峰はさっさとどこかに行ってしまったので俺の思考はまたおざなりになってしまっていた。