第21話:告白…からの告白?
「私観覧車って好きだな」
茗は手摺りに寄り掛かって、少しずつ高くなっていく景色を眺めながら言った。俺はこれといって観覧車を好きだと思ったことはなかったけれど、こうして二人で同じ景色を眺めていると観覧車も悪くないと思った。
「茗は結局高いところが好きなんだろ?」
「うん!…空に近ければ近いほど、自由で…どこにだっていけそうで、なんだってやれそうな気持ちになるから」
そういって目を細めて遠くを見つめるその横顔は、いつもより神秘的で、少しだけ近寄り難いような感じがする。
「羽稀っ」
「…えっ?あぁ、何?」
ついボーッとしてしまって、茗に声をかけられて初めて頂上付近に差し掛かっているのだと気づいた。
突然、観覧車が止まった。
「あれ?観覧車止まってる?」
「子供が騒いじゃったんだろ、すぐ動き出すよ」
観覧車に子供を乗せるのは意外と危険だ。ジェットコースターのように、年齢制限のようなものを設けてもいいと思う。でも今日だけは、その子供に感謝したい。茗を見てそう思った。
「…羽稀、私今日ここにこれて良かった」
「急にどうしたの?」
茗があまりにもらしくないことを言い出すので、俺は思わず笑ってしまった。
「ふふっ、なんとなく。今日みたいに楽しいのがずっと続けばいいなぁって」
「何言ってんの、当たり前だろ。また来よう、遊園地。んでまた観覧車乗ろうよ」
「…うん!約束ね?」
気づいたら観覧車はまた回り出していて、せっかくの頂上だったけど、俺達は景色を見ずに指切りをして、笑いあっていた。
俺は茗の柔らかな髪を少し撫でて、額に軽くキスをした。
「くすぐったいよ」
そう言って俺の身体を押してきたが、照れ隠しなのはお見通しだ。
観覧車は小さかったから、思っていた通り15分もしたら1周してしまった。
俺達は手を繋いで観覧車をおりた。
「まなみさん!は、初めて見た時から…す、す、好きでした!」
「…あら、そうだったの…」
まなみはさも驚いたというように口の前に手をおいて、「まぁ…」と声を漏らした。
「突然ですまない…」
静は耳まで真っ赤にしながらもなお、真っ直ぐにまなみを見ていた。
「静くん…ありがとう、嬉しいわ…。でも、どうして私なんかを…?」
「最初は…正直一目惚れだ。表情も、仕草も言動もすべてが美しい。しかし今はそれだけではない!君の本当の笑顔がみたいんだ!」
「え?」
一瞬、素にかえったようだった。まなみからはいつものような余裕や穏やかさや冷静さはない。今度は本当に驚いてるようだった。
「なんとなくわかるんだ!今のまなみさんは本当のまなみさんじゃないって!」
「…どうしてそう思うの?本当の私じゃないって」
「勘、だ!」
「ふふ…おかしな人ね。…私はきっとあなたが思っているような人ではないわ…。私なんてただのつまらない人間よ…」
「そんなこと言わないでくれ!」
それまで黙って話を聞いていた静が突然立ち上がった。
「きゃっ…、急に立ち上がったら危ないわ…。観覧車、止まっちゃったわね…」
実は、羽稀と茗が観覧車に乗るすぐ前に二人は観覧車に乗っていたのだ。
「あ…あぁ、すまない。だがまなみさんは、『つまらない人間』なんかじゃない!」
まなみはいつもの淡々とした無表情ではなかった。
「…ありがとう。私なんかを好きになってくれて。でも私はあなたの気持ちには答えられないわ…」
「…!…わかっている!だが、俺は諦めない!本当のまなみさんの笑顔が見れるまでは…」
「違うのよ…。ごめんなさいね。私、好きな人がいるのよ…」
「片思いなら別に構わな…」
まなみは静の言葉を遮るようにいい放った。
「私ね…女の子以外を好きになれないのよ…」
「へっ?」
静はそのまま唖然とした表情で固まったまま動かず、ほどなくして卒倒した。
「…あら。ほんのジョークのつもりだったのだけれど…」
まなみはあらあらと言いながらさほど困った様子でもなかったが、優しくにっこりと笑っていた。
「ふふふ…。今日は十分笑わせてもらったわ…」
固まったまま倒れた静とまなみを乗せた観覧車はゆっくりと地上に到着し、静はスタッフ二人に引きずられるようにして運ばれた。その間、まなみは終始笑顔であった。
「いやー!今日は楽しかったね!」
すっかり日も暮れて、バラバラになった6人はいつの間にやら再集結していた。
「ええ…楽しかったわ…」
「…部長、一体二人の時に何があったんですか?」
目は覚めたが未だ放心状態の静に羽稀はこっそり耳打ちをしたが、静はブツブツと「女の子…女の子…」を繰り返すだけであった。
「樋口くんが走っていってから大変だったんですよ。藤峰さんが完全に腰が抜けてしまって、しばらく身動きがとれませんでしたからね」
楓は先程の豹変ぶりが嘘のように、また丁寧で温厚な生徒会長に戻っていた。
「はは…、悪かったなー。藤峰も、ごめんな」
あの時の沙織の泣きそうな顔を思い出して、慌てて羽稀は沙織に声をかけたが、沙織は怒るわけでもなく力なく「え…あぁ、いいよ、別に」と、上の空だった。
俺はもっと気にするべきだったのだ。
本当に藤峰の異変に気づいたのは、それからずっと先の話だった。