第20話:回る回る
「お前なぁ…」
俺は完全に呆れかえっていた。
「あはは…」
茗のものと思しき悲鳴を聞いて駆け付けたはずだったが、そこには白目を剥いて倒れているお化けと、「お化けさーん!」とゆさゆさとお化けを揺さぶる茗の姿があった。俺を見るなり茗は恥ずかしそうに照れ笑いをした。
話を聞くと、こういうわけだった。
「…つまり、期待していたよりもお化けが恐くなかったので、つい悪戯心に火がついて逆にお化けを驚かしてしまった、と」
「まぁ、そういうことかな!」
「アホか!」
俺が軽くこづくと茗は苦笑いをした。その困ったような表情が可愛くて、俺はつい許してしまう。
そうだ。いつだって俺は茗の笑顔に弱い。いや、というより茗に弱い。
お化けをズルズルと引きずりながら俺たちは出口に向かった。
「そういえば、生徒会長と藤峰さんは?」
「あー…、置いてきちまった。ま、二人一緒なら大丈夫だろ」
一瞬、藤峰の泣きそうな顔が頭をよぎってほんの少し後悔したが、気にしないことにした。
「ね、じゃあ二人でどっか行っちゃおうよ!」
「えっ、おい!」
そう言うと茗は俺の腕を引っ掴んでぐんぐんと歩き出した。
「私今日ね、決めてたんだ」
そう言って嬉しそうににこにこ笑ってるくせに、一体何を決めていたのかを聞いても茗はヒミツヒミツと言って教えてくれない。藤峰と楓を置いてきぼりにするのは多少なりとも気がひけたが、茗の手の温もりを感じているとどうでもよくなってしまう。
だがなんだろう?時折訪れるこの胸のざわつきは。まるで悪い事をして、怒られるのを恐れながら待っている子供のようだ。
良くない事が少しずつ進みだしている。そんな軋む音が頭の中で鳴り響いている気がした。
こういった嫌な予感はいつも大体当たってしまう。
ふいに茗の手が離れてしまうような感覚がした気がして俺は少し強めに手を握ってしまった。
「え?羽稀…どうかした?顔色が…、体調悪い?」
心配そうに俺の顔を覗きこむ茗の顔を見てハッと我にかえった。
「え…いや!ごめん、なんでもないよ!そのー、ほら、どこに行くのかなって」
「ふふ。着いたよ!こーこ!」
目の前にあったのは決して大きいとは言えないサイズの観覧車だった。
「ここ?」
「うん!」
一応俺の体調を心配してくれているのか、さっきよりも優しく俺の手をひっぱった。
1周が早いせいか、あまり人が並んでいなかったせいか、俺達の順番はすぐに回ってきた。