第2話:おかえり
「羽稀!!会いたかったっ!!」
「茗っ!!!!」
ラブシーンを思いっきり目の前で見せ付けられたうえ、存在を忘れられかけていた紗織は、茗を羽稀から引き剥がし問い詰めた。
「何なのアンタ?!誰だよ!」
「おいっ、藤峰!!初対面の人にその態度は失礼じゃ―」
茗は羽稀の言葉を遮った。
「そっちこそ誰?羽稀の友達?」
(呼び捨てにしてる…。私は『樋口』って呼んでるのに…!樋口も茗とかなんとか呼び捨てだったし…っ。何なの、この子…)
「私は藤峰 紗織。樋口のクラスメイトだよ」
「…女の子…だよね」
「どーいう意味だ」
「あ、気に障ったならごめんなさい。でも、言葉遣いが男の子っぽかったし、髪も短めだから男の子の可能性もあるかなぁーなんて」
(『気に障ったならごめんなさい』だって?!…これでも気にしてるのに…!)
「そりゃ悪かったなっ。あんたには関係ないだろ」
「それがそうでもないんだよね〜」
「どーいうこと…?」
「私は、水無月 茗。明日から羽稀と同じクラスに転入してきますっ」
「…あんた転入生だったの?…ふーん同じクラスねぇ」
「どーぞよろしくっ♪」
茗は小さくて白い華奢な手を、紗織に向かって出したが、紗織は茗の行動に答えなかった。
「悪いけど、部活中だからもう行くよ。じゃっ…」
紗織は茗を無視するように羽稀の方だけを見てそう言って、陸上部が集まっている所に走っていった。そして茗は紗織の行動に腹を立てたのか、その背中に向かって大声で叫んだ。
「言うの忘れてたけどー!私、羽稀の彼女だからー!そこんとこよろしく――!!!!」
紗織の耳には茗の言葉がしっかりと届いていたが、紗織は振り向こうとはしなかった。
「あーいう事大声で叫ぶなよ」
「だってぇ…。良いじゃん、別にっ」
「良くはねーよっ」
「そんな事より、言う事ない?」
「…えっと…う〜ん…おかえり」
羽稀は頬を赤らめて、恥ずかしそうにうつむきながら小さく言った。
「ただいまっ♪」
茗はそんな羽稀を見てにっこりと笑い掛けた。それにつられて羽稀も笑顔になる。
「ところで、なんで何の連絡も無しにこっちに来たわけ?おまけに同じ学校とか…」
「もちろん羽稀をドッキリ大作戦のためだよっ」
「…。」
「でね、本当はまだまだこっちに戻れない予定だったんだけど、無理して早くに来ちゃったんだ」
「え、じゃあ親とかいんの?」
「う〜ん」
「一人暮らしって事?」
「まぁ…そんなとこかなっ」
「…一人で平気なの?」
「一人じゃないじゃんっ。羽稀だっているもん、平気だよ」
茗はそう言って、もう一度軽く微笑んだ。
羽稀がずっと待ち望んでいた茗の笑顔は、今は羽稀の一番近くにある。三年前と変わらない笑顔は、何の前触れもなくあっさりと帰ってきてしまった。そんな事に羽稀は、妙な胸騒ぎを感じていた。
「さっ、もう行かなきゃ」
「どこに?」
「理事長?校長?分かんないけど」
「まだ行ってなかったんだ。普通は初めにそーいうとこに行くんだけど」
「早く羽稀に会いたかったんだもんっ。真っ先に探したよ、羽稀のこと」
「…ま、それは俺も、だけど」
茗はいつになく素直な羽稀に上機嫌だった。もともと茗のトレードマークは太陽みたいな笑顔だったけど、今の茗はより一層にこにこ顔で、三年前よりもグンと綺麗になったように感じられた。
「じゃ、いくね」
「あぁ。っと、ちょっと待って」
「んー?何?」
「俺もう部活終わったから、校門とこで待ってるから一緒に帰ろ」
「了解っ!」
そう言って茗は手を振りながら、急ぎ足で駆けて行った。
そんな二人のやりとりを、紗織は遠くから見つめていた。
(樋口…)
二人は、まだ明るい道を並んで歩いていた。
「で、茗の家はどこにあんの?」
「家?家はねー…。葵町一丁目にあるよ」
「葵町一丁目?俺ン家と近いじゃん」
「んーまぁ、近いっていうかぁ…。すぐ側っていうかぁ…」
「……お隣さんだったりする?」
「……お向かいさんだったりするんだよねぇ」
そう言われて羽稀は、ほんの二日前ぐらいに向かいの家に、引越しセンターの車が止まっていた事を思い出した。
(あれ茗の引越しセンターかよっ!)
「…それも『ドッキリ大作戦』の一部?」
「『羽稀ドッキリ大作戦』だよっ」
「そこに食いつくなよっ」
「や、これは本当に事故でね、故意にやったわけじゃないんだよーっ」
「俺はてっきり、また茗にストーカーまがいなことされたかと…」
「『また』って何よー!私そんな事してないー!」
「電話番号といい、住所といい…」
「だからーっ、あれは違うってばぁ!…ちょっとはした、かもしんないけど…」
「ほらな」
「…ちっ違うよー!ちょこっと羽稀の後を付いていって、家を確認しただけだよっ」
「それ典型的なストーカーじゃんっ!」
(…何かこんなに人と話すの久しぶりかもな…)
二人はそんな事を話しながら歩いて、もうすぐ家に着くところまで来たが、ふと、茗の家の前に少年とも少女ともとれる、子供が居る事に気が付いた。
「なぁ、茗。あれ知り合い?」
「どれ?」
「茗の家の前に居るやつ」
「あれは…」
突然、その子供は茗と羽稀の方を見た。
「茗!!!!」
そのまま子供は茗の方に向かって走り、茗に思いきり抱きついた。
(…っ?!何だコイツ!!誰だ?!)
「茗!!会いたかった!」
「なつ?!」
その場には蝉の声だけが耳障りなほど鳴り響いていた。
それでも羽稀の思考回路は全く機能していなかった。
どーもすももでっす♪
更新まで時間がかかりましたがやっと出来ました(笑
もう、全然話がまとまってなくて、先が見えない状態なんで、もうちょっと話を組み立てられれば、UPも早くなるんだろうなぁ…。無理ですけど(笑




