第19話:悪魔のほほえみ
身の毛もよだつ恐怖のお化け屋敷の中で、私は目の前の不気味な男に恐怖していた。
「…あんた、なんなの?」
「何がなんだかまるでわからないって顔だね」
生徒会長である楓は、可笑しそうにくくっと笑っている。いつもの穏やかな楓からは想像もできない姿だ。しかし時間もたって、少しだけ状況がわかってきた。
「あんた猫かぶってたんだね。いつもの聖人ぶった姿は成績のためってわけ?」
「うーん、まぁそんなところかな。教師っていうのは、素直で真面目で誠実そうな生徒が好きなんだよ。女子生徒にもウケはいいし。目立ちすぎないので男子生徒から嫉妬の目で見られることもない」
「水無月茗が欲しいって…どういう意味?」
「彼女はね、俺の前世の恋人だったんだ」
何を言い出すかと思えば、この男は何を言っているんだ?妄想にでも取りつかれているのか、性質が悪い。
楓はそのまま話を続けた。暗いこの場所でのその話はお伽話のようで、嘘なのか本当なのかあたしはよくわからなくなってしまった。
こいつの話によると。水無月茗は前世では白凪という名前で楓は秀平という名で二人は恋人同士だったが、水無月の家は下町の貧しい家で、金持ちの貴族に見初められてしまって彼女は嫌々ながら、家族のためと嫁がされてしまったらしい。
「彼女を失った俺はあまりのつらさに川に身投げして死んでしまったんだ。初めて彼女を見た時は驚いたよ。あまりにも白凪にそっくりだったから。今度こそ俺は彼女を手に入れてやる、それが運命なんだよ」
「あんた、頭おかしいんじゃないの?」
「ははっ、まぁ、なんでもいいさ。俺が言いたいのはそんなことじゃない。なぁ、お前俺と手を組もうぜ」
「はぁ?」
あまりにも突拍子もないことを言うので、あたしは思わず素っ頓狂な声を出した。と同時にちょっとした苛立ちが沸いてきた。どうみても頭がおかしいこの男はあたしを同類とみなしたのだ。そんなのはまっぴらごめんだ。
「あんたと一緒にしないで、気持ち悪い」
「そんなんじゃあ、お前の欲しいものは手にはいらないよ」
その時一瞬、水無月の元に向かう樋口の背中を思い出した。
そうだ、あの背中は私のものじゃない。
あたしの迷いを察したのか、楓は不敵な笑みをこぼした。
「ふっ、まぁ返事は今じゃなくてもいいよ。でもお前はきっと俺と手を組むよ。何故ならそれも運命だから」
あたしは何も言わなかった。いや、何も言葉が出てこなかった。
それからあたし達はすぐ後に、遅いので様子を見に来てくれたスタッフと一緒に入口まで戻った。
運命だから。
その言葉が妙に頭から離れなかった。