第17話:絶叫ランド
゛静くん゛は名前とは正反対のうるささで、「ぬを!バレていたなんて!」と、扉の陰から(実際は扉は少しも静を隠していなかった)顔を赤らめながらまなみの前に出た。
「先日保健室でお会いしたわね…」
他人に興味がなさそうなのに、まなみが違うクラスの静の名前をちゃんと知っていたことや、保健室で遭遇したことを覚えていたことに、楓と茗は少なからず驚いた。
「何か用事が…?」
まなみはどうやら静が言いたいことが全てわかっているようなのに、わざとらしくそうきいた。
「ま、まなみさん!お、俺と!で…で…で」
頑張れ部長!
みんなが初めて部長を応援した瞬間だった。
「俺とデートしてくれ!」「いいわよ…」
あっさりしてるー!
誰もがそうツッコミたかった瞬間だった。
「日時と場所はまた決まったら教えてちょうだい…。休日ならいつでも空いてるわ…」
部長は完全にピヨピヨとハートがとんでいるよな顔で首がとれそうなくらい勢いよく縦に振っている。
気づくと演劇部の部員らしき人達に囲まれていて、静に対してしきりに拍手をしていた。
「さぁ…楓くん、水無月さん…部活を始めましょう…」
部長はピヨったまま、羽稀と沙織に引きずられて体育館をあとにした。
その週の日曜日ー
「なんで遊園地なの?」
俺はどう考えてもまなみの行きたいところ=遊園地に結び付かないことに疑問を感じていた。
早く着きすぎてしまったので、みんなを待つために入り口付近においてあるベンチに座りながら俺は茗にそう尋ねた。
「ずばり、吊橋効果だよ」
満足そうにそう答える茗は膝が見え隠れするくらいのチエックのスカートに程よくフリルで飾られたトップスで身を包み、普段よりも僅かにオシャレをしている。
吊橋効果という言葉で、昨日覗いた茗のパソコンに残っていた検索履歴のワードを思い出した。
可愛すぎる。
10分も待たないうちに遠くから人影が見えてきた。
100m以上先にいても誰なのかわかる。
バスケ部部長…もとい河合静だった。
俺がアドバイスをしたおかげか、いつものジャージ姿からは想像もつかないくらい、センスのよい格好をしていた。
…髪型以外は。
短すぎてワックスでいじる余裕もない部長の髪は、自然乾燥されて重力の影響を全く受けずに天に向かって手を振っていた。
当の本人は全く気にしてしない様子だったが、俺が気になるので自分がかぶっていた帽子をかぶせることにした。
それからしばらくして藤峰と楓が来て、まなみは時間ピッタリにやってきた。
黒のワンピースはまなみの白い肌によく映えていた。
「…おはよう。静くん」
「お…おはようっ、その服、とても似合ってるな」
「…ありがとう、あなたも似合っているわ…」
初々しすぎるそのやり取りをみているとこちらが恥ずかしくなってくるので、俺は早く入場するように部長を急かした。
「何に乗るの?」
あたしがパンフレットをみんなに渡すと、バスケ部の部長が明らかに青ざめたのがわかった。多分それに気づいたのはあたしだけじゃない。
この遊園地は、絶叫マシーンの宝庫と言われるくらいいろんな種類の絶叫マシーンがあるところとして有名な遊園地だ。
この計画が決まった翌日から水無月が真剣な顔して吊橋効果って何?って聞いてきたところから察するに、だからこそこの遊園地を選んだのだろうけど、私はどう考えても演劇部の部長の澄ました顔が歪むところなんて想像できなかった。
逆にこの大男が恐怖に叫ぶところが容易に想像できる。
…とはいえあたしにもこの場において一つだけ克服できないものがあるんだけど。
それについてはとりあえず考えないことにしようと思う。
想定外だ…
これほどまでとは…
話には聞いていたがパンフレットを見て俺は愕然とした。
端から端まで絶叫マシーンだらけだ。横をチラリとみやるが相変わらずその表情からは感情が読み取れない。
目の前を見ると、異常に目を輝かせるそいつがいて俺はギョッとした。