第14話:黒髪の天使
「部長すみません…」
足を引きずり部長に担がれた後輩は申し訳なさそうに呟いた。
「なんだこれぐらい、気にするな。早く治して次の試合に備えろよ」
俺は後輩を元気づけてやろうと大袈裟なくらい歯を剥き出しにしてニカッと笑った
「はい…!」
保健室の扉を開けると先生の姿はなく、誰もいない様子だった
「む…、ここに座っていたまえ」
後輩を椅子に座らせ、保健の先生を探しに行こうとした時、
「今先生居ないわよ…」ついたての向こうのベッドから急に声がしたので驚いて見てみると、ちょうどベッドから体を起こす女子生徒がいた。
その瞬間俺の頭はフリーズした。
腰の辺りまでぐっと真っ直ぐ伸びた黒髪。
生気を感じさせないほど白く滑らかな肌。
切り揃えた前髪から覗かせる切れ長の瞳。
濃紺の制服から伸びるスラリとした手足。
右目の下に控えめにあるほくろ。
…俺は彼女の何もかもすべてに目を奪われた
「どこか…具合が悪いのかしら…?」
彼女の声は何の混じり気もなく透き通っている
控えめだが凛としてよく通る声だ
「え…あぁ、湿布薬をとりに…いやっ俺ではないのだがっ後輩が足を…」
「あら…あなたではないの…」
彼女はそう言うとまるで自分の部屋であるかのように、迷うことなく棚の引き出しから湿布薬を取り出してきた。
「これを…貼ってあげるといいわ…」
そう言って彼女は上品に笑って俺にそれを渡した
「す、すまん」
「いいのよ…じゃあ私はもう行くわね…」
彼女は足音を殆どたてずに保健室をでていった。
彼女が去ったあとも俺は呆然と立ち尽くしたがハッとなって使用履歴を見た。
「3年…帷原まなみ。まなみさん…」
彼女の事が頭から離れなくなって俺は彼女にもらった湿布を後輩の足とほてった自分の額に貼った。
…
……
「…というわけだ」
部長はそのときの事を思い出すようにうっとりとしている
「へぇ・・・あ、ステーキセット俺のです」
「彼女こそ大和撫子にふさわしい女性はいない!すまんが、水をください」
部長はもう何杯目だろうと思われる水を飲み干した。
「彼女の笑顔はまるで天使か女神のようだっ」
「いやいや!部長が笑ったとこみたことないよ、私。・・・やっぱりミートスパゲティにすればよかった!」
茗は入部したときのまなみを思い出してみたがどう頑張っても無表情の顔しか思い出せなかった。
「帷原部長はどんなときでも無表情ですよ。あ、樋口くん紙ナプキンとってください」
と口を拭きながら楓も苦笑気味だ。
「彼女はきっと体が弱く病気がちなのだ!よく保健室にいるらしい」
注がれたばかりの水を一気に飲み干しながら熱く語る部長。
「俺がサボりにいくと大体帷原先輩いるけど、具合悪いんですか?って聞くと涼しい顔して「さぼりよ・・・」って言うんだよな。フライドポテトまだですかー!」
「お前ら・・・話聞く気ないだろ・・・っ」
さっきから水しか飲んでない部長は、色気より食い気とばかりに食べいそしんでいた4人を恨めしそうに見た。
もりもりと食べていた4人は手を止めて笑顔をつくり「そんなことないでふ」と言った。
「まぁ、いい!とにかく樋口!協力してくれ!バスケバスケで今まで恋なんてしたことないんでどうしたらいいのか全くわからん!」
一通り食事を終えた一行は(ここにきて)ようやく本腰を入れて話を聞くことにした。
「羽稀ー。協力してあげなよー。なんか可哀想なんだけど」
茗は部長の暑苦しすぎる顔を同情の眼差しで見ている。
(俺はそっちの方が可哀想だと思ったけど)
「まぁ・・・いいですけど」
しぶしぶ俺がそういうと今まで以上に目を輝かせて、部長は俺の手をがっと握った。
「頼んだぞ!樋口!デートの約束を取り付けてほしい!」
「はぁ?」
「お前らも一緒にグループデートってことで約束を取り付けてくれ!」
・・・ここにいるメンバーって・・・
波乱と疲労の予感がした。