第13話:恋愛注意報
「お腹空いたねぇ」
勉強中(正しくは勉強してるのは藤峰だけだったが)そう言い出したのは茗だった。
時計を見ると時間はちょうど12時ころだった。
「そういえばそうだな」
そういわれてみると急にお腹がすいてきた。
「どこか食べに行きますか?いまから作るのも面倒でしょうし・・・」
「じゃあ、近くのファミレス行くか」
沙織はやっと訪れた勉強からの解放のチャンスを逃すまいと、素早く立ち上がって玄関へと走った。
「じゃあ財布とりに行かないと行けないから家によっていいか?」
羽稀は朝は寝ぼけていたので財布を持ってこなかったことに改めて気づいた。
みんなでゾロゾロと外に出ると、羽稀の家の前に人が立っているのが見えた。
「樋口、家の前に誰かいるみたいだけど」
「あ、ほんとだ」
目を凝らし、少し近づいだだけで誰かすぐわかった。
短い髪、背は高くガッチリとした筋肉質の男。
夏を最も夏らしく感じさせる男。
太陽の如く暑苦しい熱血野郎。
羽稀はみんなを無言で促し、気づかれないようその場を立ち去ろうとした。
が、時すでに遅し。
「ひーぐーちぃー!!!!」
羽稀に気づいたその男は、大声を出しながらもうスピードで駆け寄ってくる。
すぐ目の前にくると羽稀の肩をガッチリと掴む。
「わーっ!部長、すみませ・・・っ」
「俺を助けてくれ!!」
何をやったか見当はつかなかったが怒られるとばかり思っていた羽稀は呆然とした。
「は?」
男の中の男を目指す|(目指しているらしい)部長が助けを求めてくるなんてありえないと思っていたからだ。理由はそれだけではないが。
羽稀はこの状況を一瞬にして分析した。
「部長。何があったかわかりませんが、僕たち今から近くのファミレスに行くところだったので、部長も一緒に行きませんか?そこで話を聞きますよ」
羽稀は今まで見せたこともないような笑顔で部長の肩をポンッとたたいた。
「樋口・・・!お前はなんていいやつなんだ!!」
感無量とばかりに羽稀を力いっぱい抱きしめると、行くぞ!!と先頭を切ってファミレスに走っていった。
「樋口って意外といいやつなんだな」
沙織は感心といったような口調でからかうように言う。
「失礼だな。俺たちも行くか」
「樋口くん、財布は取りに行かなくていいんですか?」
「あぁ、いいのいいのもう必要なくなったから」
羽稀は上機嫌そうに晴れ晴れとした笑顔でそういった。
「樋口・・・、あんた意外と悪いやつだな」
沙織は羽稀の意図が読み取れると、がっかりしながらもやっぱりとでも言うように呟いた。
「失礼だな、別に部長のことを歩く財布だなんて思ってないぞ」
「なーんだ。私も財布置いてくれば良かった」
「そういう問題じゃないだろ」
「茗さん・・・」
生徒会長は苦笑交じりに肩を落とした。
お昼時にも関わらずファミレスは空いていたし、クーラーがよく効いていてとても気持ちが良かった。
「で、どうしたんですか?」
羽稀はメニューを広げながら、さも興味が無いとでもいうように|(実際興味はちょっともなかった)そう言った。
部長は水をごくごくと飲み干して、一息ついてから喋り始めた。
「実は・・・」
「明後日のテスト勉強が上手くいかなくて困っている!」
ポンと手を打ってそう言ったのは茗。
「そうなんだ・・・赤点と俺は友達・・・って違う!」
「このままではジャイアンかゴリって言うあだ名がつくのも時間の問題だと心配している」
と沙織。
「そうそう、バスケットやっててゴリラみたいだからあだ名はゴリ。って違う!」
「かっぱえびせんが美味しすぎる」
と羽稀。
「やめられない、止まらない。って違う!」
「わかりました!どうしたら腋臭が治るのか悩んでるんですね!」
と楓。
「そう!もう、ほんと違う!」
この人面白い・・・。
「す・・・す・・・好きな人が出来たんだ!」
そう小声で叫ぶとガラにもなく赤面する部長。
そして羽稀の水をとってまた一気に飲み干した。
「え?バスケットが恋人ってくらいバスケット命の部長がですか?あ、すみませーん。注文いいですかー?」
羽稀は近くにいるウェイトレスを呼びつけた。
「でもまぁ、誰だって恋はしますから珍しくないのでは?僕、日替わりランチセットでお願いします」
と楓。
「えー!それってもしかして初恋って感じですか?私カルボナーラスパゲティと苺のパフェ」
と茗。
「この年で初恋なんてあらゆる意味で天然記念物ですね。あたし、オムライス」
「相手は誰なんですか?俺ステーキセット。ご飯大盛りで。あーあとフライドポテトも」
「い・・・い・・・唯原まなみさんだっ。み、水のおかわり下さい」
「唯原部長ですか?僕、同じ部活ですよ」
「そ、そうなのか?」
パァッと明るい表情になる部長
「私も同じ部活ですよー。きっかけはなんですか?」
楓と茗は知り合いの名前が出てきたせいか、興味を示したが、羽稀と沙織は面倒なことになりそうだとばかりに死んだ魚の目をして遠くを見つめている。
「昨日俺は部活の終わりに脚をくじいた後輩を保健室に連れて行ったんだが生憎先生が居なかったのだ。後輩を椅子に座らせ、キョロキョロしているとついたての向こうのベッドから誰かが起き上がって俺に声をかけた…それが彼女だった」