第11話:横顔
私は部活がない日の放課後、6限の体育の時に忘れていってしまったタオルを取りに、体育館へと向かっていた。体育館に近づくと、バスケットボールの弾む音が微かにもれていることに気づいた。
(・・・誰か居るのか?)
そっと隙間から覗くと、そこに樋口羽稀は居た。
目を伏せて遠くを見つめるその横顔は、切なく、儚く、美しかった。さらさらの髪の間から見える長いまつげは光を帯びてキラキラしている。空間が他とは全く違っていて、誰も近づけないような感じだった。
私はすっかり彼に目を奪われていた。
(綺麗な男の子・・・)
目の前の彼は、ふっと目を細めて微笑むと、緩やかにボールをリングに向かって投げた。
(あ・・・)
ボールはそうなる事が自然であるような最もらしいカーブを描いて、リングに吸い込まれていった。
私が慌てて視線を戻した時にはもう、そこに彼は居なかった。
(え・・・)
勢いよく体育館のドアを開けて中を見渡したけど、幻だったかのようにまるで人の気配がしなかった。
ボールの弾む音だけが響く体育館で、私はしばらく動けないでいた。
時折みせるあの遠くを見つめるような目。あれは、遠くにいる水無月を見ていたんだ。
そう思うととても苦しかった。
私は水無月の事を見つめてる樋口を好きになったんだ・・・。
最初から・・・
「樋口」
紗織は何かを決心したようにキッと顔を上げると、正面から羽稀を見た。
「ん?なんだ?」
「私・・・私ね」
「藤峰・・・?」
羽稀は少し戸惑った。
紗織がいつになく女らしかったからだ。濡れた瞳、ほんのり染まった頬、もどかしく舌をもつれさせ、喋ろうかどうか迷っているらしい弱々しい様子。
俯き、眉をひっそりと寄せる彼女はなんとも愛らしい。
いつもは男のように振舞っていてもやはり女だったのだと、認識させられる。
「私、樋口のこと・・・」
時が止まる。