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第六章 死天使、進軍す

皇都アルディアの西方、二十里。

魔王軍の駐屯地は、枯れた森の中に広がっていた。

天幕が無数に立ち並び、霊体の歩哨が音もなく宙を漂い、魔導士たちが低い詠唱を繰り返している。


天幕の中心に、アズリエルは立っていた。


天幕の前に、眠りの魔法を準備していた魔導士が数人、杖を構えて待機していた。


「死天使様、準備が整いました。魔王様のご命令通り、まず眠りの術式を——」


アズリエルのフードの奥の赤い目が、魔導士たちを一瞥した。


「必要ない」


「し、しかし魔王様は——」


「魔王様は臆病になっておられる」


アズリエルの骨の指が、錫杖の宝珠に触れた。

駐屯地の影が、動いた。

地面から這い出るように、大量の屍体が起き上がった。

かつての魔王軍の兵士だったものたちが、虚ろな目で立ち上がり、魔導士たちを取り囲んだ。


「死天使様……?」


「お前たちの術式は、必要ない」


駐屯地に哀れな悲鳴が轟いた


部下の将が、青ざめた顔で近づいた。


「……な、何故、魔導士たちを」


「魔王様は皇都を眠りで包めとおっしゃった」


アズリエルは歩き出しながら言った。


「そんな姑息な作戦が、魔王軍最強の我が屍霊騎士団に必要か?」


将は何も言えなかった。

アズリエルは空を見上げた。

王都の方角に、まだ夜の闇が広がっていた。


「正面から叩き潰す」


錫杖が地面を叩いた。


「三つ鐘までに王都全域を制圧する」


部下の将が膝をついた。


「守護者はいかがいたしますか」


アズリエルのフードの奥の赤い目が、王都の方角を見つめていた。


「魔王様は私が守護者に勝てないとおっしゃった」


「……はい」


「私は、そうは思わない」


将が顔を上げた。アズリエルはすでに踵を返していた。


「あれは私が直接相手をする。お前たちは城門を抜け、玄鉄盾(くろがねのたて)騎士団を正面から踏み潰せ」

「守護者の四肢を捥ぎ、わが錫杖の飾りとしてやろう。そして皇女フィレーネが生きたまま屍兵に喰われる様を見せてつけてやる」


錫杖が地面を叩く音が、静寂の中に響いた。

屍兵の群れが、おぞましい音と共に大地に広がっていく。

概念魔導士の隊列が整然と続く。


そして最後尾に、黒いローブの長身が、ゆっくりと歩き出し、複数の馬の死体を繋ぎ合わせて作った六本足の軍馬に跨った。


急ぐ様子は微塵もなかった。


「屍霊騎士団、出陣!」


王都まで、約二十里。


進軍の角笛が高らかに鳴り、軍馬と屍兵の足音があたりに響き渡る。

アズリエルの軍は皇都アルディアへの侵攻を開始した。

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