なあんで戻っちゃったかなあ
私の最後の記憶では、皆実に看取られながらだったはずだ。
その後も皆実は異世界にいたんだろうか。
「ん? ああ、うーん、30年くらい生きていたなあ」
なるほど。
私が最後に皆実と話したのは昨日というか、今朝である。
ところが、皆実はあの後も30年も異世界にいたという。
つまり、私とは30年ぶりの邂逅となる。
それは興奮もするわなー。
懐かしくも思うだろう。
「200歳か。凄いな」
「うーん。ただ最後の方はボケちゃってよく覚えてないの」
「あはは」
「でも、マチスやミナルネがよく話しかけてくれたな。優しい子達だったね」
「アレスタの子供達か。私が最後に覚えているのはまだ赤ん坊だったな」
「そうかあ。二人とも才能あるんだよー。私より強くなりそう。楽しみだねえ」
皆実は私の前の椅子に座る。
本来の、というか異世界の晩年の彼女は、歳相応に落ち着いた振る舞いを見せていた。
多分に、こちらに戻ってきて若い体になってしまいハッチャけたのだろう。
「寂しいなあ……」
皆実がぽつりと呟く。
「あっちは賑やかだったものな」
「うん。もう会えないのかなあ。寂しい」
皆実の目から涙がこぼれる。
「なあんで戻っちゃったかなあ。もう生きる執着もなくなって、みんなに見守られながら穏やかに死んだのになあ。あの人生で終わりで良かったんだよ。戻ってきたら地獄なんだからさあ」
皆実の言葉に、私はただ涙を拭ってやることしかできない。
彼女は華々しい芸能界にいながら、その闇の中で、もがいていたのだ。
私も彼女も決して幸せな子供ではなかった。
むしろ散々な目に遭っていたと言っても良いだろう。
ロリペドという言葉は一般的なんだろうか。
私は皆実から教えてもらわなかったら知らなかった。
幼女、少女に性的興奮を覚える異常者ども。
ロリコンという言葉の方が私には分かりやすいが、それよりももっとエグい連中である。
それも、世間的には大企業のお偉いさんであり、家族の善き父親なのだろう。
そんなおっさんどもが10歳の皆実を犯していた。
しかも、それが実の母親の指示だっという。
反吐が出る話だった。
私は私で、母親からネグレストされ、家政婦に育てられたようなものだ。
私の母親は、六本木のキャバ嬢である。
年齢は30歳半ばだが、見た目と化粧で20歳代前半に見える美人だった。
キャバクラではトップクラスらしく、お金は相当にあったと思う。
だが、母親になることを拒絶したような人だった。
家政婦とも揉めるので、何人もの家政婦が代わるがわる私の面倒をみていた。
小学生までは友達もいなければ、外で遊んだこともない。
そんなコミュ障な私を松田一派は執拗に虐めていた。
相談する人間もおらず、毎日死にたくなるような気持ちで学校に通っていた。
そんな私達がなぜか異世界に飛ばされた。
なぜ私達だったのだろう。
後に皆実は
「救われる為だったのかもしれないわね」
と言った。
私達は異世界で仲間と出会い、皆実と家族になり、共に傷を癒し、そして安寧の地を得て幸せを手にした。
英雄になったとか、そんなものはオマケみたいなものである。
それなのに……。
それをまたやり直す……。
正直、うんざりだ。
でも、生きなきゃいけないんだよな。
私は空元気気味に
「まあ、あれだ。こっちでも沢山子供つくろう」
と笑いながら言った。
「うん!頑張るよ!」
皆実は涙をぬぐうと満面の笑みでうなずいた。




