わたしは一馬の赤ちゃんばぶー
今から150年前。
私が異世界に飛ばされた時、なぜかその傍には皆実がいた。
当時まだガキだった私は、自分よりも小さい皆実を妹のように思い、守ることに全力だった。
なんというか、男の子ってのは守る存在がいると強くなれるんだよね。
皆実を守る為に必死に生きているうちに、私はずいぶんと強くなったものだ。
妹のように思っていた皆実を女性として意識しだしたのは、いつ頃だったか。
まあ、結婚するのは必然だったのだろう。
その後、11人の子供を作り、孫どころかひ孫、玄孫まで生まれ165歳で私は死んだ……
と思ったら元の世界に戻っていたわけだ。
そして皆実も同じように戻ってきたらしい。
結局、松田一派は救急車で病院送りになった。
私と皆実は教師達に事情聴取されたが
「なんか絡まれて揉み合っているうちに~」
とか曖昧に答えていたら
「保護者を呼ぶ」
と先生方は仰り、今は保健室に隔離状態である。
まあ、私も皆実も一見マジメそうだし、それに対して学校でも問題児だった松田一派とのトラブルに、教師達も判断に迷ったんだろう。
保健室の養護教員は、松田一派とともに病院に付き添っているので、私と皆実は保健室で二人きりになった。
まあ30分程度に一度は保健室に先生が見に来るが、抜け出そうと思えば抜け出せる。
ただ、皆実は私にべったり寄り添って動けない。
「皆実」
「なあに」
皆実は私の目をのぞき込むといきなりキスしようとしてきた。
キスというより、チューという感じではある。
私は皆実の顔をグイと遠ざける。
「むぅーー」
皆実が頬を膨らませる。
「落ち着け」
「無理。一馬が可愛すぎる。萌え死ぬ」
「死なないから。それに私は可愛くないから。それ、おばあちゃんが孫見るヤツだから」
「だって、一馬がチェザレの子供の頃にそっくりなんだもん!」
「違う。チェザレが私にそっくりだったんだ」
ちなみにチェザレとは、私と皆実の七番目の孫である。
「もうダメ、可愛い。ヤバい。チューしたい」
「おまえなあ……」
呆れる私を無視して私の胸に顔をうずめる。
「懐かしい匂いがする~。一馬くさーい」
「臭いとかいうな」
「へへ」
皆実はペロッと舌を出す。
皆実はチラッと保健室のドアの方ををみてから、私の膝に乗ってくる。
体を倒して御姫様だっこをせがむ。
「赤ちゃんみたいだなあ」
「ん。わたしは一馬の赤ちゃんばぶー」
「ふふ。新婚の頃のお前は甘えん坊だったな」
そういって皆実の頭を撫でると、皆実はするりと私から抜け出して
「や、やめてぇ~」
と、背中を向けてしゃがむ。
耳まで真っ赤である。
「はずい! めっちゃはずい!」
皆実にとっては、結婚した頃の甘えん坊っぷりは黒歴史らしい。
少女の頃の甘えた"ふり"は平気なくせに、本気で甘えていた時期は忘れたいようだ。
新婚の頃の皆実は、赤ちゃん返りとでも言うべきか、やたら甘えたり、わがままを言っては私を困らせたりしていた。
多分に、幼い頃に得られなかった愛情のようなものを確かめていたんだろう。
「皆実は私が死んだあとはどうしていたの?」




