あ?なめんてんのか
昨日までの私だったら、ドンと肩を突かれれば、バランスを崩して後ずさるんだろうなあ、と思う。
だが、異世界で武術を学んだ今の私は、すいっと受け流すくらいの術はある。
松田が前につんのめる。
松田の両肩を支えてあげる。
「大丈夫?」
「あ?舐めてんのか?」
「とんでもない」
私は首を振る。
「な、なんだ? まあいい。集金だ」
松田は戸惑いながら、手を出す。
「はい?」
なんだっけか?
「ほら、早く金出せ」
「え。嫌なんだけど」
私は素で返す。
「あ?舐めてんのか?」
松田が私の胸倉を掴もうとするので、その腕を捻って転がした。
「いてててて!離せ!離せ!」
松田はアスファルトの上で転がる。
離せと言われたので手を離す。
「ああ?! 舐めてんのか!?」
松田は立ち上がり、私に殴りかかる。
おお。
これは異世界の武術がどこまで通用するのか試す良いチャンス。
こちらの身体でも動くかな?
松田の殴打を異世界武術の”型”を用いてパリィする。
さらに松田はパンチを繰り出すが、それも余裕でパリィする。
というか、パンチの動作が大きすぎて簡単過ぎる。
これでは試したことならない。
「よ、よけんな!」
松田は怒鳴るが、いや、パンチしてくりゃ避けるでしょと思う。
「もう少し、コンパクトに振りなよ」
思わずアドバイスしてしまった。
「あ?舐めてんのか?」
松田の顔は真っ赤に染まる。
それにしてもお前は、あ?なめてんのかマシーンか。
語彙力w
だが、松田はアドバイスを採用したのかボクサーのようにジャブを出してきた。
これこれ。
これでどうかな?
私は”型”を用いて対応する。
「クソ! クソ!」
松田のパンチはことごとくパリィされていく。
渾身のフックも私に叩き落とされる。
私と皆実が師事した異世界武術の基本は”型”であった。
空手の型を思い浮かべるかもしれないが、もっと実践をイメージしたものだった。
どちらかというと、昭和の香港カンフー映画の拳法に近いかもしれない。
これを60年かけて完成させるという気の長い武術だった。
当時”最強”とは言われていたが、まともにやる人間はあまりいなかった。
こんな武術が生まれたのも、向こうの世界の人間の寿命が長いからだろう。
私と皆実がこの武術を学べたのは、偶々達人の師匠に見いだされたからだが、この武術は私には大変合っていた。
私は運動神経が鈍いので、筋力や反射神経に頼るような格闘技は向いていない。
だが、こう攻撃されたらこの型で対応する、というパターン化された異世界武術は、その状況に応じた
”型”
を繰り出せば自然と相手の急所を突けるというものだった。
60年どころか120年以上叩きこんだ”型”は、こちらの鍛えられていない身体でも、
雑魚相手なら十分通用しそうだった。
記憶とともに感覚のようなものも引き継がれているのは良かった。
もう十分わかったので、また大振りになった松田の右ストレートを掴まえて、関節を極める。
「いたたたた!離せ!離せ!」
先ほどと同じ光景である。
これは延々と繰り返すのもなあ。
めんどくさ。
私は少し力を入れる。
ゴキッと関節が鳴る。
「ギ、ギャー!」
松田がのたうち回る。
関節外しただけなのに騒がしい。
私の部下にそんな情けないヤツはおらんかったのだが。
大体関節なんてものは外してなんぼである。
外れてもはめればいいし、縄や拘束具から逃れるにも必須の技術だ。
「この野郎!」
雑魚なはずの私が、松田を倒すとは思っていなかったのか、遅ればせながらスキンヘッドが竹刀で襲い掛かる。
あ。榊原か。
声で記憶が蘇る。
武器を相手にどう対応できるかな。




