【幕間 走馬灯の夢⑤】皆実のカレーライス
「あら、カレーの匂いがするわ」
手を繋いだ先をみると、気品をまとった落ち着いた雰囲気の皆実がいた。
あれだけやんちゃだった皆実も、ちゃんと年齢相応に落ち着くものだな。
場面は発展著しい王都の市場に変わっていた。
「また新しい店が出来たのかな」
「うふふ。わたし達のレシピがこんなに広がるとはね」
皆実は少し誇らしげだ。
私達が王国を中心に元の世界の食文化やテクノロジー、ファッションなど影響を与えたものは数知れないが、なぜか皆実はカレーの普及が一番うれしいらしい。
ちなみに皆実は王国に初めて届いた南方の香辛料をみて、カレーの配合を一発で当ててしまった。
皆実の嗅覚の凄まじさに驚いたものである。
そこから、足りないものを手配したり、少しずつ調味料を足して、まさに日本で食べていたカレーを再現してしまったのだ。
そのレシピを元に王国のパーティーでお披露目。
最初はその見た目にみんなドン引きしていたな。
だが、皆実様直々の手作り料理である。
食べないわけにはいかない。
食べれば、大変なことになるかもしれず、でも食べなかったら命が危うい。
王国の重鎮達は、謎の何かに似た食べ物を目の前にして脂汗を流していた。
均衡を破るべく、王が勇気を振り絞り、カレーを口に運ぼうとしたら、
宰相の地位に就くバリー公爵が
「私が先に」
と言って忠誠心からなのかカレーを食べた。
周りは息を呑んで見守っていたな。
バリー公爵は一口食べると目を見開く。
そして無言のまま、食べ続ける。
「ど、どうなのだ? バリー」
と王が問うても、バリー公爵は
「少々お待ちください」
と食べ続ける。
そしてあっという間に食べ終わると
「お代わりはあるか?」
と給仕に声を掛けた。
「な? どうなんだ?」
王の問いに
「いえ。余りに美味ゆえ、先にお代わりの確保をしたかったのです」
と、宰相らしい謀略を披露したものである。
その後、みんなが食べ始めると、その美味さに競ってお代わりを要求したのだが、皆実はそんなに沢山作っておらず、辛うじて王がお代わりできただけだった。
その他の重鎮達の恨み節が王宮にこだましたものである。
その評判はあっという間に王国中を駆け巡り、数年でカレーは定番料理となっていった。
ただ、こちらでは米食は一般的ではなく、辛さにもあまり慣れていないので、どちらかというと甘みのあるシチューのようなカレーが流行していた。
米食が主体の私達はやっぱり辛いカレーが好みではある。
「私は本家本元の皆実のカレーが食べたいな」
「うふふ。ほんとうあなたってカレーが好きよね」
「皆実のカレー、というのが大事なポイントだぞ」
「あら嬉しいわね。じゃあ今日はカレーを作りましょうか」
沢山の子供を産み、自然と母性を纏った皆実は、子供をみるような優しい目で、
私に微笑むことが増えた。
いつの間にやら立場が逆転するのは、どの夫婦も同じなのかな。
団長とミーニャの夫婦もそんな感じだし。
あ、あそこは最初からか。
「よっしゃ!楽しみ!」
私はわざと子供っぽく喜んで皆実の肩を抱く。
「我が家は食べ盛りの子供が沢山いるから準備が大変だわ」
我が妻は恥ずかしいのか、身をよじりながら私から逃れて、
誤魔化すように手近なじゃがいもを手にとった。




