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ラレ#レシドミ#ソシファラソミ#ソソシ#ファラレミレシド

私は皆実をソファーに横たわらせると、客室の外に出ていく。

二人もついてくる。


夕日が美しい。


何もない海からみる夕日は、異世界の岩山からみた夕日に似ている。


季節は四月だが、肌寒さはない。


南風が潮の匂いを運んでくる。


デッキにある段差に腰掛ける。

並木と花咲も座る。


「もう操舵しなくても良いのですか?」


花咲は

「ええ。この船は意外とハイテクなんです。この時間帯なら自動運転でも問題ありません」

と微笑む。


「花咲さんは、あのビルで何があったか把握されているんですか?」


花咲は頷く。


「見事な手腕でした。実はあのビルもカメラが網羅されていて、全て筒抜けなのですよ。アンヘルの事務所もね」


その言葉に並木は驚いた表情を見せる。


並木たちも知らなかったらしい。


「私のいる組織は国家をも動かす力があります。それくらいの細工は簡単なことです」


「そのボスが茂木という男なのでしょうか」


その言葉に花咲は首を振る。


「茂木は、日本のフィクサーに過ぎません。本当の黒幕は中国共産党です」



ラスボスかと思ったら、さらに上がいるとは。


しかも、あの強大な国家が後ろ盾にいるとは。


ある程度、推測できたこととはいえ厄介なことこの上ない。


これ、皆実に教えたら大変なことになるな。

あいつなら、大陸に乗り込みかねない。


皆実が動くと戦争になる。


これ、あながち誇張じゃないんだよな。


「私達を危険だと思わないのですか」


私の問いには答えず、花咲は微笑む。


「一つ、賭けをしませんか」


花咲は静かに語り始めた。



船首付近の広いデッキに私と花咲は対峙する。


「すっかり衰えた中年のオヤジではございますが、一つ手合わせをお願いします」


花咲はリラックスした姿勢で構える。


何がすっかり衰えただ。


バリバリに鍛えているのが分かるよ。


「約束を守ってくれるんなら、いいですよ」


「ええ。木原様が勝てば、私と私の配下は木原様に忠誠を誓います。木原様が負ければ大人しく拘束されてください」


「分かった」


あの後、花咲が語った内容は衝撃的だった。


だが、花咲の配下の人材は魅力的だった。


今後、中国と戦争するなら、絶対に必要な人材である。


中国と戦争になるかは分からないが……。


ただ、繰り返すが、皆実が動けば戦争になる。


それは、異世界においてはりんごが落ちるくらいに常識として語られたことだった。


私は基本の構えをする。


「ほう。アンヘルの事務所の映像は暗かったのでよくわからなかったのですが、確かに隙が無い。並木君ほどのボクサーが負けるとは思いませんでしたが、これはこれは。だが、体幹などは鍛え方が足りませんな」


花咲は冷静に私を論評する。


的確過ぎてぐうの音も出ない。


並木より明らかに強い。


これで荒波でも来て船が揺れれば勝機はあるのだけど。


台風でも来ないかなあ。


美しい夕日が恨めしい。


明日も晴れるだろう。


ちくしょうめ。


私は構えたまま、動かない。


とにかく攻撃することは隙なのだ。


余談だが、領主時代にはごく偶にではあるが、決闘に立ち会うことがあった。


領地内でトラブルが起きた時、双方ともに実力のある寄り子の貴族同士だったりすると、どのように裁定しても恨みを買う場合がある。


そんな時には、双方の剣の実力者同士による真剣勝負で決着を付けさせた。


そこで負ければ、そこは王国貴族らしく諦めよ、ということだ。


私の記憶の片隅にあった適当な知識が元であったが、

遺恨を残さないという意味では悪い制度ではなかった。


その知識とは、確か江戸時代を描いた剣豪の小説だったような気がする。


領主たる私は、剣士の誉として決闘で剣士が死んでも、

その家族を大事に扱うことを誓っていた。


コスト的には高いものだが、寄り子に反逆されたり、寄り子同士が長年いがみ合って揉めるよりはマシだった。


この決闘は、勝敗が決まるまで二日くらいかかった。


どちらも動かない。


大声を出して威嚇しあうものの、全く動かないのである。


それほどに、攻撃をかけるというのは危険だと、

強い剣士なら分かっているのだ。


そして、先に動いた方が大抵負ける。


これが戦場なら、そんなことは言ってられないが、

一対一ならば忍耐力の勝負である。


私は凪いだ気持ちで立ち続ける。


「参りましたね。熟練の武闘家のようだ」


花咲の言葉に


150年修行してましたから


と心の中で答えておいた。


花咲が軽くジャブを打つ。


私は数センチ、前に出した手を動かしてパリィする。


本気で当てようとしていないパンチだから、最小限の動きで十分である。


私の動きを探るようにしつようにジャブを出してくる。


それを全てパリィする。


だが、パンチの戻りが早く、すぐに防御に戻るので、

こちらからも隙が見えない。


せっかくの戦闘シーンなんだから派手にやりたいところだが、

私は私の命と皆実の命を賭け台に乗っけている。


花咲は花咲の家族の命をベットしている。


自分と大事な人間の生死のかかった戦闘なんぞ、こんなもんである。


平気で相手に飛び掛かる皆実が異常なだけだ。


皆実はどうにも自分の命を軽んずるところがあったな。




戦闘開始から30分以上が経過したと思う。


気づくと夕日が沈み、海は暗闇に包まれている。


私の耳は船のライトに向かって羽虫のようなものが群がる音を拾う。


私は一手も出していない。



キャビンの方で物音がする。


多分、皆実が起きたのだろう。


皆実なら、私の緊張した体臭を感じているはず。


キャビンから操舵室の方へ移動する足音も聞こえる。


花咲は気づいているだろうか?


多分、常人には聞こえない音だとは思うが。


皆実が何をしようしているか、考える。



私は少しずつ位置を変えていく。


船のデッキを照らすライトを背中にしていく。


私の推測が正しければ、これで私に絶好の機会が来るはずだ。


「私を逆光に置こうとしているのですか」


花咲はいぶかし気な顔をする。


確かにライトを背景にすると、見えにくくなる。


それを狙っていると思ったのだろう。


でも、違う。


私は極力、目を細める。


目に入る光を少なくする。


星をみる。


あの星はなんというのだろう。


強い輝きを放つ一等星。


私にとっての皆実のような星だな。


キザか。


何分くらい経った頃か。


花咲の背後にうっすらとオリオン座が浮かび上がる。


冬の星座のイメージがあるが、まだ見えるのか。


少しずつ、見える星が増えていく。


その時。

耳に皆実の歌声が届く。


小さな歌声だ。ハミングである。


私にしか聞こえないかもしれない。


聞こえても意味がわからないだろう。


だが、その音階を私は読み取る。


ラレ#レシドミ#ソシファラソミ#ソソシ#ファラレミレシド


私は暗号を解く。


10秒後に突撃せよ


確かにそう聞こえた。


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