はい。 釣れました。
蹴り入れたのは、五階にいた中ボスの嫁らしき女。
最初、五階が住居で中ボスの家族がいると聞いた時は耳を疑ったものである。
この事務所はいわば砦のようなものなのに、家族を住まわす神経が分からんと思ったものだ。
ただ、大ボスの組織からすれば家族を把握できるのはメリットあるのだろう。
中ボスも家族を人質に取られているのかもしれない。
美奈子とやらは、ハチの巣になっていよう。
中ボスが美奈子とやらに駆け寄る。
はい。
釣れました。
私は上野から赤い筒状のものを受け取る。
先ほど、指示して確保させたものだ。
ドアの隙間から消火器を発射する。
どこのビルでも消防法で一フロアに必ず一つある消火器。
これは現地調達である。
「よし、皆実! 行け!」
「むーーーー。いつもの!」
皆実は私を睨む。
めんどくさいなあ。
「分かった。私の為に死んで来い」
「はい!」
皆実は拳銃を私に渡すと、ナイフを手にして踊るように部屋に飛び込む。
なぜか突撃の時は、このセリフが嬉しいみたいだ。
よくわからん。
「て、敵が来たぞ!」
「撃て! いや待て! 会長が!」
そう。
将棋の王将がど真ん中にいては、それが邪魔で他のコマが動けないのだ。
そして消火器で視界は奪われる。
私は、粉塵爆発を警戒してドアを全開にする。
視界が奪われ、同士討ちを警戒した敵はあらぬ方向に拳銃を撃つばかりである。
だが、皆実には鼻がある。
視界がゼロでも敵の位置は把握できる。
特に呼吸の匂いは一番把握しやすい。
つまり、呼吸の匂いがする、その15センチ下が喉である。
そこを一閃で突き刺していく。
ほんの3分の間に12人があの世に旅立った。
残るは中ボス一人である。
消火器の粉が晴れていく。
そこには、ただ一人、中ボスが妻の骸の前で呆然としている。
最愛の妻を失った気持ちも分かるが、こちらも時間がない。
並木が連れている小さい方をみて、中ボスはわめく。
「佳純は関係ないだろ!」
佳純と呼ばれた12歳くらいの女の子は、口にガムテープをされながら涙を流し続けている。
上野の親友の妹と同じ年頃なのだろうね。
まあ、映画などでは、ここで
「ふざけるなよ? お前らがさんざんやってきたことじゃないか」
などのセリフがあるのだろうが、そんなものはホンモノの戦闘では蛇足である。
私は銃を中ボスに向ける。
「上へ渡りをつけてください。アンヘルの総長さんの調子でお願いしゃす」
と声をかける。
「ひっ。まて、お前らなんかにどうにか……」
中ボスが話すのがまどろっこしくなり、私は銃を放つ。
「ふぐっ」
という声がガムテープの隙間から漏れる。
佳純という女の子の足首から血が噴き出す。
「佳純!」
中ボスは悲痛な叫びをあげる。
「お前なあ、俺に当たったらどうすんだ」
並木が怒る。
「そんなヘマしないですよ」
「……なんで中坊がそんなに銃に慣れてんだ……」
それは異世界では、私が銃を広めたからです。
銃の知識は豊富だったし、3Dプリンターで作ろうとしていたから、設計図を穴が空くまで読んでいた。
まあ拳銃や小銃は割と簡単に再現できたが、さすがに機関銃は無理であった。
火薬には苦労したな。
なんかのアニメで聞きかじっていた適当な知識を伝え、懸賞金を付けたら8年で生成できたものである。
その頃には王国の市民教育はかなり行き届いていたから、学者のような階級も生まれていた。
科学というものが生まれつつあった黎明期と言えよう。
市民の力が科学を動かし、歴史をも動かし始めた頃であった。
「すいませんね。急いでいるので早く上の組織に連絡入れてください」
私はもう一発、佳純と言う女の子に発砲する。
両足から血が噴き出す。
佳純ちゃんは立っていられず跪く。
「お、おひょうしゃん」
ガムテープから声が漏れる。
「わ、分かった! ちょっと待て! 今から電話する!」
と中ボスは叫ぶ。
違和感を感じた私は皆実を見やる。
死んだ組織の連中が持っていた銃を拾って弄んでいた皆実は、私をチラッとみて首を振る。
私は発砲する。
佳純ちゃんの左肩が真っ赤に染まる。
「な、なんで!」
「あのですね。嘘はダメですよ。分かるんです。早くしないと佳純ちゃん、死んじゃいますよ?」
「ひ、ひ、わ、わかった。俺から直接は連絡できねえんだ。花咲経由じゃないとダメなんだ!」
「花咲?」
知らない名前が出てきた。
「あの運転手だ」
と並木が教えてくれた。
「じゃあ、花咲さんに連絡おねしゃす」
そういうと中ボスは震える手でスマホを触る。
「は、花咲、茂木さんのところに連絡を! え? 連れて行く? 今、下にいる?」
その言葉を聞きながら私は背後の窓の外をみる。
確かにあの大型タクシーが停まっていて、礼儀正しい初老の男がこちらを見上げている。
なら、あの男を締め上げた方が手っ取り早いな。
皆実を見ると、飢えた目でこちをにらんでいる。
はいはい。
餌ですよー。
私は中ボスを皆実へ突き飛ばす。
中ボスは転がりながら床にはいつくばる。
皆実は無言で中ボスの後頭部に弾丸を何発も叩きこむ。
「クソキモ!」
皆実は吐き捨てた。
私は上野を手で呼び寄せる。
素直に上野はやってくる。
さくっと上野の腹を刺す。
「え? え?」
上野は目を見開いたまま、私をみる。




