殺しに物語を創るな
廊下では怒号や悲鳴が鳴り響く。
私は死体を三体ほど、廊下に投げる。
この死体の血も廊下を濡らすはずである。
さらに、部屋にあるものを手あたり次第、廊下に放り投げる。
場が荒れれば荒れるほど、私達に有利である。
さらに、今回はこちらも武器がある。
だから飛び道具さえなければ、もう私達の勝ちは揺るがない。
これだけ障害物と滑る床面では誰もまともに動けない。
そこを異次元のステップで飛ぶように移動する皆実。
襲い掛かってくる男どもを片っ端から一閃で切り裂く。
彼女が狙うのは急所のみ。
一撃で致命傷だ。
それを彼女は何十年も修行して体得している。
外すことはない。
死体が一つまた一つ増える。
彼らは障害物となり、床をも濡らす。
“場”は皆実に有利になっていくばかりである。
もうこうなれば飛び道具だけを警戒すればよい。
「上野さん、聞こえます?」
「は、はい」
「並木さんを呼んでくださーい」
「分かった」
ここまで騒ぎが大きくなると、大人数が下から上ってくる可能性がある。
並木一人では対応しきれまい。
「うわっ、エグ!」
並木の声が聞こえる。
「な、並木! コノヤ……」
並木に気づいた男が並木に襲い掛かろうとしたが、最後まで言葉を発せなかった。
皆実が華麗にステップして、敵をすり抜けていく。
ついでに急所を一刺ししながらである。
皆実は並木の前に出て振り向く。
とても可愛らしい顔で微笑む。
「楽しいー」
頭オカシイだろう。
その微笑みに呑まれた男達が呆然と立ち尽くしているところを、大変申し訳ないと思いつつもソロリと近づき私は次々と殺していく。
私、皆実ほどじゃないけど、そこそこ強いんだよ。
影薄いって言われていたけど。
私に気づいて振り向いた連中は、今度は皆実の餌食である。
こうして廊下には20体を超える死体と大量の血を流して瀕死の敵が転がっていた。
「はい。上野さん」
私はナイフを渡す。
「お、お?」
「さっさとトドメ刺してくださいな。それが目的でしょ?」
「お、お?」
ナイフを手にした上野は腹を押さえて蹲っている男に近づく。
「お、お前だ! 松宮の妹を犯したお前だ!」
「ひっ、や、た、たすけ、ブベッ!」
上野は力いっぱいその男の顔を蹴り上げる。
「ひっ!」
その男が瀕死ながらも上野の足に絡みつく。
「ぐああ!」
上野は倒れながらも、その男の背中を刺す。
何度も何度も刺す。
それでその男は力尽きる。
「ほら。殺す時はさっさとしないと反撃受けるんですよ」
私は上野に注意する。
上野は嬲り殺したかったのだろうが、それは隙である。
それをやるヤツは異世界では、その場面では生き残っても、その後100%死んでいた。
殺しに物語を創るな。
と団長は何度も口にした。
屠殺場に物語はないだろう。
戦場にも英雄譚はいらない。
ただ、ひたすら作業のように殺し続ける。
それが唯一、俺たちが生き残れる道だ。
彼は祈るように呪いの言葉を吐いた。
「はっ! はっ! わ、分かった!」
なんとか逃げようとする生存者を今度はまるで野良仕事のように上野は刺していく。
ふむ。これでこっちは終わりだろう。
上野に一声指示をする。
上野は頷く。
ただ先ほどから13人の足音が奥の部屋に入っていくのを私の耳は検知していた。
元々何人いたか分からないが、奥の部屋にはまだ相当数敵はいそうである。
「あれが会長室だ」
と並木が奥の部屋を指す。
「中ボス戦か」
「なんだそりゃ」
「ダンジョンですよ」
「お前にはゲームなんだな」
並木は嫌そうな顔をする。
並木の言葉に私は図星を突かれ、戸惑う。
確かに私にとっては、こっちの世界はどこか現実味がない。
私にとっての世界とは、あの異世界である。
あそこで皆実と出会い、団長やミーニャ、親友のジョナ達と互いに信頼を深めながら戦場を駆け回っていたのが、私にとっての現実である。
こちらの世界はどこか馴染めない感覚がある。
それで無意識のうちに、ゲームのような虚構世界と捉えていたのかもしれない。
ただまあ、どちらの世界でも私は皆実の笑顔の為に生きる。
それは永遠に変わらない。




