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よろぴく……?

「いやあ、ほんとなんですよぅ。俺も驚いてですね。はい。そうです。朝ドラでも人気だった子役の川瀬皆実ちゃんですよ。はい。可愛いですよ~。ええ。ほら、あそこの夫婦、シャブ漬けじゃないっすか。ウチらの上得意中の上得意。なんかもうアレですわ。旦那がイッちゃっている感じで、ええ。旦那も一時期売れた芸人じゃないですか。そうそう、川瀬成美の連れ子だから血が繋がっていないっていうありがちな。娘にもシャブ入れようとしたらしいんすよ。それでヤバいってんで家出しようとしたところをウチの松田っていう中坊が連れてきたんですわー。ほら同じ中学らしくて、はいー。そうなんすよ、もうラッキーですよー」


総長はまだ少し染み出す鼻血を拭きながら、電話でペコペコ頭を下げて陽気に話す。


皆実が上の組織に連絡を取らせている。


それまで総長の話す内容に真っ青な顔で耐えていた皆実だが、スマホを向けられた途端に演技に入る。


「はあい。川瀬皆実でーす。こんにちはー」


飛び切り可愛らしい笑顔でスマホに語り掛ける。


「はあい。もう嫌になったんでお金稼いで、どっか行こうかなって。はあい。うん。ママがお仕事貰えるからってハゲたおじさんとかー。うん。いやはいやだけどー。でもお金いっぱい貰えるからってー」


電話が切れると皆実は壁を思いっきり蹴る。


ドォーンという音が事務所に響き渡る。


「殺す。皆殺しだ」


真っ青な顔にギラギラとした瞳が異常なほど不釣り合いだ。


「落ち着け。私がきちんとおぜん立てしてやるから」

と言うと、皆実は私の胸に頭をコツンと当てる。


「頼りにしている。おまけに愛している」


「おまけかよ」


「へへ……」


皆実は力なく笑う。


「はい。では皆様、ご協力お願いしますね」

とアンヘルの連中に声をかける。


「これから上部組織のなんだっけ?豊川橋ポートワークプラザ? なんでもカタカナにすりゃいいってもんじゃないなあ。はいはい。そこをぶっ潰します。はい。皆実がやると言ったらもう確定した未来ですから、ご安心を。もう二度と彼らはあなた方の目の前に現れませんからね。だから大人しく協力してくださいね」

というと、アンヘルの人達は素直に頷いている。


「では並木さん、それから上野さん、一緒に行きますよ」


並木は嫌そうな顔したが、上野は元々、親友の件があり、これまでも虎視眈々と上の組織に復讐したいと考えていたとのことで、力強くうなずく。


外した関節はハメ直してあげたが、まだ痛むのか反対側の手で押さえている。


「5人は殺す」

と決死の表情で上野はつぶやく。


多分、特攻的な戦闘を考えているのだろう。


残念ながら、私はそういう戦闘は好まない。


やるなら圧倒する作戦を考える。


「え?上の組織って5人なの?」


皆実がそのつぶやきに反応する。


「え?いや事務所には50人はいると思うけど」


「じゃあ50人殺すんでしょ?」


「……」


上野は唖然とする。


皆実は上野の肩をポンと叩く。


「ちゃんと皆殺しにするからさ。その代わり後始末してね? わたしと一馬は、その上を狙うから時間稼ぎたいの。そこんとこ、よろぴく?」


「よろぴく……?」

上野は化け物をみるような顔をする。


酷いヤツだ。


私の妻に失礼だろう。


分かる気がするけども。




まあ楽観的に思えるかもしれないが、私は十二分に勝機ありと見ている。


こっちの世界、特に日本の暴力は基本的には殺しに対して抵抗感がある。


しかも相手は女の子だ。


力で押さえこもうとするだろうが、それが隙である。


もちろん、殺しに抵抗のないヤツもいることは知っている。


だが、そういう連中は殺しに物語を創る。


だから怖くない。


一番怖いのは、作物を刈るように殺すヤツだ。


だが、この日本には、そういう人間はいないとみて良いだろう。


私達以外はね。


“場”さえ整えれば圧倒できるとみている。


問題はさらにその上の組織にどう渡りを付けるかだろう。



事務所のドアが開くと、三人の男が手に荷物を持って入ってきた。


比較的怪我の少ないのを選んだつもりだが、それでも顔や腕には無数の切り傷がある。


「買うてきたで」


私は、その荷物を受け取ると、大型の間口が大きなリュックの中に詰める作業に入る。


ネットで近場のドンキで売っていそうな、戦闘に使えそうななものを選定し、買ってきてもらったのだ。


その間に、上の組織のビルの構造などは、全て総長からヒアリングしてある。


とりま、カードがあれば入口でボディチェックなどもなく、自由に動けるらしい。


この辺り、アメリカ映画などと比較すると平和ボケだな。


まあ警察や政治家も巻き込んでいるので、敵対組織もなくやりたい放題なのだろう。


港湾の組織が強いのは、逃げ道が海だかららしい。


あと”消す”のも得意だとか。


遠洋漁業に出る船の船長に金を渡せば、太平洋のど真ん中に何かを捨ててくれるんだと。


その中身は船長も知らぬ存ぜぬ。


とにかく受け取った何かを太平洋のど真ん中に捨てる。


それだけで数百万円になるのだから美味しい仕事である。



私はどのような戦闘になるか、複数のパターンを想定しながら、荷物を入れる順番を吟味する。


「皆実、武器は何使う?」


「ナイフ」


「両手?」


「うん。どうせ弱っちい連中だから防御はいらないでしょ」


皆実の言葉に総長が

「弱っちい……」

と唸るようにつぶやく。


「じゃあ、行きますよー。上野さんは突入したら、とにかく私達の後ろから付いてきてください。並木さんは階段で新手が上ってくるのを防いでくださいね。くれぐれも殺すのに躊躇しないように。死にたくなかったらね」


上野は力強く頷く。


並木は苦虫を嚙みつぶしたような顔である。


「いいか。あの運転手は上のさらに上の組織とも繋がっている。元々海自の隊員だとも言われている。タクシーの中の話は全て盗聴されていると思え」

と総長が注意をしてくれる。


なるほどね。


元軍人と言われて納得した。


ちょっと得体のしれない感はあったものな。


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