か弱い女が人の顔蹴って顔面陥没させるか!
「俺はアンヘルの並木だ。お前が松田達を病院送りにしたらしいな」
「あ、一人はわたしー」
皆実が手を挙げる。
「女、黙っとれ」
「やだー」
その瞬間、ノーモーションで並木の手が飛ぶ。
私はそれに反応し、皆実の前に出て止める。
皆実は腰に手を当て仁王立ちしたまま。
皆実のヤツ、完全に対応を私に丸投げしていたな。
平手打ちを防がれた並木は、少し驚いた顔をしてからニヤリとする。
標的を私に代えて、高速ジャブを打ち込んでくる。
私は"型"でパリィする。
「……。ほう。何か格闘技の心得があるらしいな」
並木は構えを解く。
速かったな。
本当は腕を掴んで関節を極めようとしたのだが、引く速度が速すぎて無理だった。
ボクシングなのか総合なのか分からないが、相当に強いのだろう。
「まあいい。木原と言ったか。面かせ」
「はーい」
となぜか皆実が答える。
並木は嫌そうな顔をする。
「お前はいらん」
「やだー」
「お前、子役のなんとかだろ? お前みたいなの拉致るのはヤバいんだよ」
「なら、わたしを倒していけ」
皆実はふんすと胸を張る。
うん。つるぺただな。
「女を殴る趣味はねえ」
「え?さっき殴ろうとしたじゃん」
「バカ言え。平手打ちなんざ撫でるっていうんだよ」
「サイテー」
「うるせえ」
「女の子はか弱いんだよ!」
「か弱い女が人の顔蹴って顔面陥没させるか!」
なぜか皆実と並木の口論になっている。
私を拉致りに来たんじゃないのかなあ。
てか、この2人気が合いそうだ。
ジェラっちゃうぞ?
「あのー。皆実と絡むと終わらないんで、面貸しますから皆実も一緒で良いですか?」
私が声をかけると並木はびっくりした顔をする。
「お前……。怖くねえのか?」
「怖いです」
「……嘘つけや」
並木は呆れた顔をする。
「まあいい、ついてこい」
「はーい」
皆実が元気よく返事をする。
私は尻もちをついている末次先生に
「そんなわけで早退しますね」
と声をかける。
末次先生は口をパクパクさせて何かを言いたそうだった。
ただその口から言葉が漏れることはなかった。
もう先生の出番はありません。
ここからは多分、暴力の世界なんですよ。
優しい世界よ、さようなら。




