諸悪の根源
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茶色い岩が転がる大平原に、大好きな彼が横たわっている。その首元は深く抉られ、血が流れ続けている。私は彼の元へと駆け寄り……その傷口に抱きついた。私の体よりも大きく開いた、その傷口に。
『エマ……ありがとう』
深い青い瞳がうっすら開かれ、私を見つめる。こんな時なのに、その瞳に見つめられると安心する。大好きだと思う。
「クリフさん……死なないでください」
愛しい黒竜にしがみつき、必死で祈った。
(どうか、彼を殺さないでください。
私から、彼を奪わないでください。
何もかもを失った私に寄り添ってくれたのは、優しい彼だけだったんです……)
私の治癒能力をしても、その大きな傷口を癒すのは難しい。だが……白竜が、身を挺して私たちを操られた竜から守ってくれるから……私は彼を癒すことが出来る。
『君は竜王の妻に相応しい』
襲いかかる竜を薙ぎ払いながら、白竜が言う。
『君みたいな妻を持てて、クリフォード王も幸せだ』
「ありがとうございます!」
絶対に好きにはなれないと思った白竜王に、私は笑顔で告げていた。
『クリフォード王の最愛よ』
白竜王は私に背を向けたまま話しかける。
『残念ながら、白竜国の聖女はこの戦場を見て逃げ出してしまった』
(あぁ、やっぱりね)
里果を思い出して苦笑いをする。
『今腕輪を無効化出来るのは、君しかいない。
だが、腕輪を嵌めている竜は、相当数存在する。
だから頼みがある。……シャーマンを止めて欲しい』
「……え!? 」
『僕がクリフォード王と停戦会議をしている時、クリフォード王から話を聞いた。
あのシャーマンは、君が昔好きだった人だろう? 』
話が飛躍しすぎて意味が分からない。それに……停戦会議!?
『コーネリウス。俺はまだ、エマにそれについて話していない。
話そうと思ったら、お前らが操られて宣戦布告してきたから……』
彼はそう話し、そして痛みに顔を歪めて呻く。だから私は、さらに傷口にぎゅっと抱きつく。
「クリフさんはじっとしてください!……もう少しですから!! 」
こうして白竜王に守られ、私は黒竜の傷を癒すことが出来た。ついでに、隣に横たわる黄竜も治療した。ショックで気を失っていただけのニコラはすぐに目を覚まし、プンプンと怒っている。
『もう!許さないんだから!! 』
そう言い放ち、果敢にも白竜に突進しようとした彼女を、
『ニコラ』
クリフさんは止める。
『白竜国と黒竜国は、同盟を結ぶことに決まっているんだ。
だから今することは、この無駄な争いを止めることだ』
『えっ!? 』
ニコラは文字通り、目を丸くする。そんなニコラに、クリフさんは告げた。
『俺とコーネリウス、エマはシャーマンに会いに行く。
その間、頑張って耐えてくれ』
『わっ、分かりました!! 』
ニコラは返事をし、空へ飛び立つ。そして、激しく戦っている仲間の元へと駆け寄っていった。
『さあ、エマ。この戦いに、決着をつけよう』
差し出された背中に、抱きついていた。
小さなニコラもいいけど、この大きくて落ち着いた背中が大好きだ。
私はその体に手を回し、背中に顔を埋め、幸せに浸っていた。
彼が大好きだ。
彼を心から、愛している。
シャーマンの元へ向かいながら、クリフさんから話を聞いた。
シャーマニアは白竜国へ呪いの腕輪を密輸し、まず白竜国を支配下に治めた。里果からの贈り物だと、白竜王がなんの疑いもせずに腕輪を嵌めてしまったからだ。
そして次に狙うのは黒竜国だった。
だが、シャーマニアのユウキ司祭は、黒竜国を支配下に治めるだけでは気が済まなかったのだ。何としても黒竜王を痛めつけてやりたい。そう思って、白竜王を操って宣戦布告をさせた。
『もとはと言えば、僕が怪しい腕輪を嵌めてしまったのが間違いだった』
項垂れる白竜王に、クリフさんは言う。
『その気持ちは分からなくもない。
俺も、エマからスカーフをもらって浮かれていたから。
それよりも、コーネリウスが不特定多数の妻を取ろうとするから、変なものが紛れ込むのではないか? 』
『それはその通りだ。
僕もクリフを見習って、信頼できる一人を妻に迎えようかな』
その会話を聞き、思わず笑ってしまった。
里果を妻に迎え入れた白竜王は可哀想でしかないが、そのおかげで二国はこうして同盟を結ぶことも出来たのだ。
『クリフと最愛を見ていると、僕もそんな恋がしたいなあって思うよ』
私は、この白竜王を誤解していたのだろう。獣人の慣わしに従って、多夫多妻制を取っていただけだ。だが、彼なりに真剣に妻たちに向かい合っていたのだろう。
(それでも、私に多夫多妻制は無理だ)
やはり、そう思ってしまうのであった。
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