竜人族のアクセサリー
よろしくお願いします!
里果が消えると、クリフさんは大きくため息をつく。そしてボヤいた。
「マジで面倒な女だな」
「そう思います」
頷きながらも、クリフさんが味方をしてくれたことを思い出してニヤついてしまう。
「エマも大変だったな。あんなのにまとわりつかれて」
「……そう思います」
大きく頷いていた。
里果と言い合いになると、周りは決まって里果の味方をした。里果こそが正義で、私はいつも悪者だった。だから、こうしてクリフさんが私のことを分かってくれると、本当に嬉しい。
「ありがとうございます」
クリフさんを見上げると、いつもの優しい瞳で私を見下ろす。
「なんだかクリフさん、本当に王様みたいでかっこよかったです」
ふふっと笑うと、その大きな体にぎゅっと抱き寄せられる。どぎまぎして、体が熱くって、やはり幸せを感じてしまって。真っ赤な顔で上を向くと、微かに頬を染めたクリフさんと視線がぶつかる。その視線があまりにも熱くて、これ以上のめり込みたく無い私は必死に出まかせを言う。
「こっ、これで里果をぎゃふんと言わせられて……
わっ、私もすっきりしたし……
くっ、クリフさんも……」
クリフさんも……何だろう。里果を邪険に扱ったところで、クリフさんに何のメリットもない。むしろ、シャーマニアとの亀裂となるのではないか。
「す……すみません……」
思わず謝る私を、クリフさんは穏やかな瞳で見つめる。そして、静かに告げた。
「俺も、すっきりした」
「え……」
「エマを苦しめた奴に恨みを晴らすことができて、ホッとした」
そんな優しい瞳で見つめると、そんなに大切にされると、ホッとして泣きそうになる。クリフさんを信じてもいいのだ。クリフさんは里果がどう迫ろうと、私の味方でいてくれるのだ。
クリフさんは私に回す手を離し、騎士服の中に無造作に突っ込んだ。そして、再び引っ張り出されたその手には、黒い硬そうなものが握られている。
「エマ。左手を出して? 」
「はい……」
言われた通りに左手を差し出すと、クリフさんはそこに黒い硬いものが繋がれ、輪になったものを縛りつける。黒い尖ったものと、黒くて薄いものが、光を反射してキラキラと輝いた。
「前に、素敵なスカーフをもらった時のお返しだ」
「わー、綺麗!ありがとうございます!! 」
クリフさんからもらったブレスレットを見つめて、満面の笑みを浮かべる私。こんな私を、クリフさんは目を細めて幸せそうに見つめる。
そんな風に見つめられると、誤解してしまう。その瞳が私のことを大切だって……大好きだって……そう言っているみたいで……
◆◆◆◆◆
次の日。
私は、クリフさんからもらった黒いブレスレットをつけて、いつものように出勤した。
「おはようございます!! 」
そう言ってふきんを手に取った時……
「ちょっと……」
女将さんの顔が強張っている。そして、その瞳は昨夜クリフさんからもらったブレスレットに釘付けになっている。
「あー……このブレスレット、昨夜もらったんです。
綺麗でしょ? 」
女将さんに見せるように持ち上げると、黒い尖ったものと黒い薄いものが、キラキラと輝いた。
「これ……偽物だよね? 」
「……え? 」
思わずきょとんとする私。
「似たようなもの、アクセサリーショップに売っていて人気だもんね。
しかも、黒色っていったら黒竜様だから……」
黒竜様と聞き、ビクッと飛び上がる。
(私、もしかして、とんでもないものをもらってしまったの!? )
「あ……あの……
これ、なんですか? 」
「えっ!? エマってまさか、これが何か知らないのの!? 」
女将さんは苦笑いして、教えてくれた。まさかこれが本物だとは思っているはずもない様子だった。
「竜人族は、心から大切に思う人に贈り物をするんだって。自分の背中の棘と鱗を、自分の髭で結んだアクセサリーにして。
竜の棘を抜くには、相当な痛みを伴う。その痛みを我慢して、愛する人にプレゼントをするんだって」
「えぇぇぇええ!!? 」
私は素っ頓狂な声で叫んでいた。
てっきり、どこかの露店で買ってきたのかと思っていたこのアクセサリーは、そんなに大切なものだったのだ。
「なかには、棘が上手に抜けなくて、死んでしまった竜人族もいるらしいよ」
ちょっと待って。頭がくらくらするんだけど。
クリフさんは相当な痛みを我慢して、命の危険を犯してまで、これを私にプレゼントしたということだ。
青ざめる私を前に、女将さんは考えるように言う。
「でも私たち、竜人族なんて見たことないから。竜人族は獣人のなかでも最強で、高貴で、庶民は絶対に仲良くなれないって言うわ。
見た目もきっと、おぞましくて美しいんでしょうね」
普段の見た目が人間と変わらない、だなんてこと、言えるはずもない。そして、その竜人族たちがこの食堂に来たこともある、だなんてこと、言えるはずもなかった。
「だから、それが本物の竜人族からの贈り物だった場合、大変よ? 」
「ど……どうしてです!? 」
ゾゾーッと背中を寒気が走った。
「竜人族は強いから……絶対に負けるから……誰もエマに手出し出来ないわ。
まあ、竜人族にとってのマーキングみたいなものよ」
「は……ははは……」
もう、笑うしかない。私はこうして易々と、クリフさんにマーキングされてしまったのだ。きっと、私が勇輝とかジョンさんに言い寄られているから……クリフさんの嫉妬を買ってしまったのだ。
「も……もちろんレプリカですから!!」
そう言いながらも、顔は引き攣っていた。
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