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全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで  作者: 湊一桜
第二章

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空気が読めない聖女様集団

よろしくお願いします!


「あの……こんな豪華な部屋、落ち着きませんが……」


「問題ない。俺がいいって言ってるんだから」


 こんなやり取りを数十回繰り返し、とうとう諦めた豪華な部屋を出る。そして、赤いカーペットの敷かれた長い廊下を歩き、広大なホールへ出る。ホールには騎士たちやメイドたちが行き交い、


「おはようございます、エマ様」


私の姿を見つけては頭を下げる。彼らに挨拶を返しながらも思った。


 (調子狂うな、私はただの庶民なのに)


 こうして私は城を出て、働き慣れた食堂へと向かう。




「おはようございます!」


 その茶色い扉を開けると、見慣れた食堂のテーブルが目に飛び込んでくる。そのテーブルを拭いていた女将さんが、いつものように挨拶をする。


「おはよう、エマ」


 (うん。私には、やっぱりこっちのほうがいいや)


 豪華で煌びやかな城よりも、庶民的で質素な食堂のほうが落ち着くのであった。




 女将さんはテーブルを拭きながら、いつものように話をする。


「そういえば、シャーマニアの聖女様が来られるらしいわね」


 内心ビクッと飛び上がりつつも、


「そうですね」


と反応するにとどめておく。


 食堂で楽しい時間を過ごすために、聖女と知り合いだなんて思われたくもなかった。しかも、その聖女が一癖も二癖もある性格であるからだ。里果がこの国に来て、問題を起こさず帰るだなんて、到底想像がつかない。きっと街の人々を卑下し、クリフさんに付きまとうのだろう。



 そんな私の不安は、現実となるのだった。






 昼頃、にわかに外が騒がしくなる。なんだろうと女将さんと外へ出ると、白いローブを着た集団が、遠くからこちらへやってくるところだった。その白いローブを見た瞬間、シャーマニアでの出来事を思い出した。


 シャーマニアでは、あのローブを着た男性たちが、街を取り仕切っていた。聖女様が通るからと人々を跪かせ、顔を上げてしまった私を鞭打ちしようとした。

 あの時クリフさんがいたから良かったものの……もしクリフさんがいなければ、私はどうなっていたのだろう。



 黒竜国の人々は、シャーマニアの人々と違う。街もそれなりに豊かで、権力に縛られることもない。そんな人々は、聖女様を一目見ようと通りに飛び出した。そして、この自由な人々に向かって、シャーマニアの白ローブ集団は、自国でのしきたりを強要したのだ。


「聖女様のお通りだ!」


 大声で叫ぶ白ローブ集団を、街の人々は声を上げ手を振って迎えた。人々はもちろん、聖女様を歓迎していたのだが……


「聖女様に失礼だ。地に膝をつき、頭を下げよ!! 」


 白ローブ集団は大声で叫び、手に持っていた鞭を地面に打ち付けて威嚇する。それで多くの人は怯えて屋内に戻るか、言われたように座り込んで頭を下げるのであった。


 聖女は傷ついた者を癒しに来ると信じていたのに、自分はただ怒鳴られ跪かされた。人々は当然そう感じ、聖女に対して嫌悪感を持つこととなる。




 白ローブ集団と馬車が通り過ぎた後、通りは騒然としていた。多くの市民が聖女に対して疑問を持ち、聖女に対する考え方を変えていた。


 それは、女将さんも然りであった。


「ねぇー、あの聖女様の集団、おかしくない? 」


 女将さんは怪訝な顔で私に言う。


「私たち、竜王陛下にも跪いたことなんてないのに……」


「そう思います」


 ここでふと、クリフさんの言動を思い出した。クリフさんは私たちが他国のものだから、跪く必要はないと彼らに言い放った。それはもっともである。


「竜王陛下もこの様子を見て、楽しくないでしょうね」


 思わず口走ってしまったが、女将さんも首を縦に振った。


「そりゃあ、そうよ。

 自分の国民が、他国の聖女に跪かされてるんだもん。

 私は黒竜国民で本当に良かったと思うわ」


 その言葉を聞いて安心した。竜王陛下は、国民からの信頼も厚い。国民から好かれている。きっとクリフさんはこの状況に苦言を呈するだろうが……もし無反応だったら、私がちくりと言ってやろうと思った。


 

 その日の食堂は、聖女様の噂でもちきりだった。もちろん、悪い噂で、だ。


「聞いてよ!私なんて、頭が上がっていたからって、鞭で殴られたのよ? 」


 鳥の獣人は、羽が抜けて傷ついた腕を見せる。それで私は慌ててその腕に触れ、傷を治療した。


「優しい心を持つ聖女様なら、それを止めるはずだよね? 」


「うんうん。聖女様って外を見たりもしないし、私たちを見ても無反応だよな!」


「エマが聖女様になればいいのに!! 」


 最後の言葉には、


「それは遠慮しときます」


苦笑いをして答えた。


「私はただ治療の能力を持つだけで、聖女なんて大それたものでもないし……

 それよりも、この食堂で楽しくやっているほうがよっぽど自分らしいです」


 私の言葉に、女将さんやお客様が大笑いする。そして、こうして素敵な人々に囲まれて過ごせる幸せを感じた。


 里果が近くにいると、こういう幸せをぶち壊していってしまうから。だが、今も里果は私の近くにいる。その事実に、不安を感じている。



 

いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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