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全てを失った私が、黒竜王の最愛になるまで  作者: 湊一桜
第一章

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黒い竜を助けました

いつもありがとうございます!


 森に置き去りにされた私は途方に暮れた。どこへ行けばいいかも分からないし、危険な生物がいるかもしれない。だいいち、食糧すら持っていないのだ。


 (とりあえず、何か食べ物と飲み物は確保しなきゃ)


 そう思い、鬱蒼と茂る森の中を探索してみることにする。だが、陽の光すら届かないような暗い森は不気味で、いつ何が飛び出してもおかしくない。


 (そういえば、樹海に入ったら出られないとか言うよね……)


 ここから出られる気さえしない。

 私は、見ず知らずのこの場所で、本当に死んでしまうのだろうか。そう絶望した時だった。




 すぐ近くで、獣の唸り声のような低い音がする。体に震えが走った。


 (もしかして私、狙われているの!? )


 逃げたい。だが、あまりの恐怖で体が動かない。


 (こういう時は、死んだふり? )


 地面に倒れてみるが、一向に攻撃は降ってこない。その間にも、獣の唸り声は響いているが……ふと思った。よく聞けば、その唸り声はどことなく苦しそうだ。息絶え絶えに喘いでいるようにすら思う。


 気になって仕方がない私は再び立ち上がり、草を掻き分けて音のするほうを見た。


 すると……大きな木々に囲まれて、広場みたいになっている場所が見えた。その広場の中央には、巨大な黒い竜がうずくまっている。その竜の体が上下するたび、苦しげな呻き声が聞こえるのだ。




 巨大な竜に襲われれば、それこそ私の命はないだろう。だが、苦しんでいる竜を見ると、助けてあげたい衝動に駆られた。……助けられるはずなんて、ないのだが。


「大丈夫? 」


 思わず竜に語りかけると、竜は苦しそうな瞳で私を見る。その瞳があまりにも綺麗で、私は竜に近付いていた。


 竜の腹部には、巨大な傷があった。そして、そこからはどくどくと血が流れている。


 (傷ついていたんだ……)


 何も出来ることはない。ましてや、竜の手当てなんてしたこともないはずなのに、私は傷ついた腹部に手を伸ばしていた。


 (どうか、竜を助けてあげてください)


 竜の腹部に触れた瞬間、温かい光が傷口を包んだ。そして、みるみるうちにすーっと傷口が閉じていく。


 (えっ!? )


 驚いて自分の手を見るが、私の手は見慣れた私の手に他ならない。もはや不思議な光もなくなっており、竜の傷口は完全に塞がっていた。


 (私のせい? )


 信じられない気持ちでいっぱいだ。だが、私が触れたから竜の傷口が塞がったのも事実だった。呆然と手を見つめている私に、竜は嬉しそうに頬ずりをする。硬い鱗がゴツゴツするが、触れると不思議な温かさを感じる。


 竜に話しかけても通じないと思ったが、私は一縷の望みをかけ、目の前の美しい黒竜に話しかけていた。


「あの……どこか、私が暮らせるところに連れて行ってもくれませんか? 」


 そして、慌てて付け加えた。


「急にこの世界に来てしまって……

 私、住むところもないし、元の世界に帰りたいよ……」


 すると、竜はまるで乗れとでも言うように頭を低く垂れる。その綺麗な瞳で私を見つめながら。


「いいの? 」


 そっと竜によじ登る。そして、その硬い首元にぎゅっとしがみついた。この竜は危険な竜なのかもしれないのに、こうやって触れていると自然と心が安らぐ。竜はそっと体を起こし、力強く地面を蹴って空へ羽ばたいた。





 鬱蒼と茂る森が、どんどん眼下に小さくなっていく。少し離れたところには、大きな街が見える。里果と勇輝はあの街にいるのだろうか。二人のことを考えると、胸が痛んだ。

 こうして少し考える余裕が出来ると、じわじわとダメージを受けていることに気付いた。勇輝と里果に裏切られ、見知らぬ世界で一人で森に放り出された。勇輝と里果は私を助けようともしなかったし、所詮それまでの関係なのだろう。


 竜は街に背を向け、高い山を越える。山には雪が積もっており、それがきらきらと輝いている。山の向こうには、桃色に輝く花畑が続いている。絵になるような美しい光景だが、この美しさすら心に響かない。逆にこの景色が腹立たしく思えるほど、私の心はやられていた。


 花畑の次は、広大な平原。ぽつぽつと家が並んでいる。その家が次第に密になり、石造りの家々が立ち並ぶ街となる。街には人が行き交い、その多くがこっちを見て手を振ったり頭を下げたりしている。


 (きっと、この竜に振っているんだ)





 黒竜が降り立ったのは、大きな街の中央にある、黒い大きな城だった。その城があまりに黒いため、魔王の城のように恐ろしくも感じる。


 竜は砂埃を巻き上げて城の上部にある広場に降りる。そして、私を降ろすかのように首を低く垂れた。


「ありがとうございます」


 私は竜に礼を言い、竜の頭をそっと撫でた。

 竜がどうして私をここに連れてきたのかは分からないが、あの暗い森よりはずっとマシな場所だ。少なくとも、ここにいれば死ぬことはなさそうだ。


 



 竜から離れ、城へ向かおうとした。だが、竜から離れるのが酷く名残惜しく感じる。


 (なんだろう、この不思議な気持ち)


 そう思った瞬間……


「黒竜様が、人を連れてきた!? 」


「あなたは何者です!? 」


 黒い騎士服を着た人々に取り囲まれる。人々は皆驚いた顔をしているが、私も彼らを見て驚いた。彼らの多くは私と同じような人間だ。だが、なかには見たこともない、人間とは言えないような者もいるのだ。獣のように長い耳が生えていたり、なかには完全に狼みたいな顔をしている者もいる。それでも皆、私が分かる言葉を話しているのだ。


「あの……森で竜を助けまして……」


 口ごもりながらそう告げる。すると、皆が感激したように目を丸くし、ありがとうございますと口々に告げるのだ。


 あの竜が、黒竜様と呼ばれる凄いものだなんて知らなかった。そして、助けられたのは私のほうだと思い知る。絶望に打ちひしがれる私を、黒竜様はこうして私が望む場所へと連れてきてくださったのだ。




 状況を少しずつ理解する私の耳に、新たな声が聞こえた。


「助けてくれて、ありがとうな」


 その声を聞き、周りの者は口を閉じ、声のするほうを直立不動で見る。先ほどまで黒竜様がいた場所に、彼が立っていた。黒色の騎士服に、黒いマントを翻している。黒色の髪がきらりと光り、その深碧の瞳は優しげに私を見ていた。




いつも読んでくださって、ありがとうございます!

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