いつもの甘い生活
よろしくお願いします!
ここは黒竜国の王都、ヴェール。
異世界から召喚された私は、ここで毎日楽しい日々を送っている。
「最近、黒竜様が仲間を連れて飛んでいかれるようになったわね」
ランチのピークを過ぎ、ひと息ついた食堂内で女将さんが言う。黒竜様と聞いて飛び上がりつつも、その言葉に頷いていた。
一人で身を犠牲にするのはやめて欲しい。私がそう言ってから、彼は数頭の竜を伴って飛ぶようになった。もちろん怪我を負うことはあるが、その頻度は減り、程度も随分軽くなった。そして私は決まって彼の治療をし、他の騎士たちの治療も行っていた。もちろん、抱きついての治療ではなく、軽く触れる程度で、だ。
そんなことを知らない女将さんは、少し不安そうな顔で言う。
「白竜国がシャーマニアと手を組んだなんて聞くし、戦いも激しくなってきているのかしら」
「そうかもしれませんね……」
そう答えながらも、ふと思った。里果と勇輝は今何をしているのだろうか。里果と勇輝を説得すれば、戦況も何か変わるのではないだろうか。だが、里果と勇輝と会いたくはない。
「私たちの黒竜様が負けるはずがないから、安心しているんだけどね」
「そうですね。私も黒竜様を応援しています」
笑顔で女将さんに告げていた。
すると、女将さんは思い出したように真顔になる。
「そういえば二ヶ月くらい前、一度だけ黒竜様が女性を乗せて飛んでいたらしいのよ」
「えっ!? 」
思わずビクッと飛び上がる。
(もしかして浮気!? )
一瞬そう思ったが、よくよく考えるとそんなはずはない。二ヶ月ほど前に黒竜様に乗ったのは、きっと私だ。
「その女性って竜王陛下みたいな綺麗な黒髪をしていて……黒竜様とも波長が合うんだろうね」
どうやら、一般市民は黒竜様と竜王陛下が同一人物だとは思っていないらしい。竜人族が竜に変化する事実も知らず、竜をペットか何かだと思っているようなのだ。事実、黒竜様は竜王陛下のしもべのような扱いになっている。
「そ……そうですね」
引き攣った笑顔で同調しつつも、その女性が私だということは言えるはずもなかったのだ。
私は竜王陛下という、一般人にとっては雲の上の人と知り合いになってしまったようだ。しかも、とても気に入られているようだ。
夕方。家に帰るとすぐに、クリフさんが大量の食事とともにやってくる。
「こんばんは、エマ。今日は月が綺麗だな」
クリフさんの後ろには、真っ青な満月が登っている。もとの世界の黄色の月もいいが、この世界の神秘的な青色の月は驚くほど美しい。
「そうですね」
思わず見惚れてしまうと、
「エマのほうが綺麗だ」
とんでもないことを言われ、思わず扉を閉めそうになった。クリフさんは笑顔のまま、その扉をぐっと手で押さえる。
この、いつものチャラい調子にホッとする。こうやってチャラチャラされると、いつものように軽くあしらうことが出来るからだ。黒竜様の件について悩んでいた話なんてされた時には、あしらうことなんて出来なかった。そうすると、私はこの甘くて美しい竜王の餌食となり、おかしな気分になってしまうのだ。
(ほだされてはいけない)
必死に心の中で呪文のように唱えていた。
食卓にいつものように料理が並べられ、
「いただきます!」
ナイフとフォークを手に、薄い生ハムを切る。魔獣の肉だと言われるが、豚肉よりも濃厚で甘い肉汁が溢れる。
「わあ、美味しい!」
思わず頬を押さえると、クリフさんは愛しそうに目を細めて私を見つめる。その表情、反則だ。慌てて視線を逸らした。
こうやって、クリフさんは食事をする私を愛しそうに見つめている。国王なのだから、城で豪華な食事を食べるのが普通だろう。それなのに、こうやってこの家を訪れ、毎日私と夕食を食べる。
「クリフさんは、城で食事を摂らないのですか?
国王なのに、私なんかと……」
思わずそう聞くと、彼は満足そうに頬を緩めて甘い声で告げるのだ。
「エマと一緒にいただく食事ほど美味しいものはない」
(あ、これ、スルーすればいいやつだ)
咄嗟にそう思い、
「わぁー!! 美味しそうなデザートまで!! 」
綺麗なクリスタルの皿に盛り付けてあるフルーツを慌てて見た。
こうして、クリフさんの扱いも上手くなったと思っていたのだが……
「そうやって、エマは俺を邪険に扱うから」
クリフさんはぞっとするような甘い声で囁く。そして、すっと立ち上がって私の隣へ歩いてくる。
(逃げなくちゃ)
そう思った時には、私はすでに彼の腕の中に収まっている。胸がじーんと痺れ幸せを感じる私は、何とかこの甘い罠から抜け出そうともがくが……
「お仕置きだ」
耳元でそっと囁かれて、ふにゃーっと体の力だって抜けてしまう。
クリフさんは罪な男だ。波長の合う私に触れると私がどうなるか分かっていて、やっているのだ。こうやって徐々に私を蝕み、クリフさんから離れられなくしているのだ。
男なんて当分勘弁だったのに、こうして私の頭の中はクリフさんで埋められていく。
「エマ、明日は仕事、休みだったな」
そっと抱きしめられたまま、クリフさんは思い出したように告げる。
「明日の朝、いつもの広場で待っている」
これ以上のめり込んではいけないと分かっているのに、きっと私は行ってしまうのだろう。波長が合うせいで、クリフさんに会いたいと思ってしまうのだから。
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