裏切られた私の行く末
新たに連載を始めました。
愛情全開のヒーローと、惚れないように必死のヒロインをお楽しみください!
読んでいただければ幸いです。
恋人からも友人からも裏切られ、知らない世界で一人きりになった私に寄り添ってくれたのは……
美しくて強い、竜の王でした。
◆◆◆◆◆
数ヶ月前。
私は、キラキラと派手に光る建物から出てきた二人を呆然と見ていた。
茶色い髪をきちんと巻き、ピンク色のミニスカートを穿いた彼女は、背の高い男性の手をぎゅっと握りしめている。そして、甘えた瞳で彼を見上げる。
髪をアッシュグレーに染めた背の高い男性は、頬を染めて女性を見下ろしていた。
私は思わず彼に駆け寄り、顔を歪めて聞く。
「ちょっと、勇輝?
なんで里果とホテルから出てくるの!?
……何してたの? 」
何してたの? と聞いても、答えは一つしかないだろう。それなのに私は、何かの間違いだとか、勘違いだとか、都合のいい返事を期待している。
勇輝は焦りもせず、私を見下ろす。そして、いつもの余裕の笑顔で告げた。
「絵麻、悪い。
俺、やっぱり里果が好きだわ」
「えっ!? 」
「だって絵麻、ガード固いし面白くないし。
優しくしてやったのに、何もしてくれないし」
(優しくしてやったのに……)
その言葉が、胸を容赦なく引き裂く。
あの勇輝の甘い言葉も、大切そうに見つめる瞳も、頬を染める仕草も、全て嘘だったのだろうか。そして私は、その嘘を全て本気にしていた。
「ごめんね、絵麻。
勇輝が可哀想だったから」
里果はそう言って、勇輝にぴたっとくっつく。すると、勇輝はとても大切そうに里果の体に手を回した。まるで、里果を私から守っているかのように。
里果と私は幼馴染だ。
里果は物心ついた頃から、私の持っているものを全て欲しがった。お揃いのワンピース、お揃いのヘアゴム、お揃いの手帳。次第に里果の欲しがりはエスカレートし、私の友達を奪っていくようになった。決まって、私の悪口を吹き込んで。
(それで次は恋人っていうわけか……)
里果とは関わりたくないと思っていた。それでも、彼女が私に付き纏ってくるため、縁を切れずにいた。大学だって、遠く離れた東京まで、里果は私を追いかけてやってきた。
だが、これでとうとう決心がついた。
「友達、やめるから!」
里果に言う。
「もう、私に関わらないで!! 」
もっと早く言っておけば良かった。私は里果のせいで、たくさんのものを失った。恋人まで奪われて、私の心はもはや再起不能だった。今まで我慢してきたものが、プツッとキレた。
私の我慢がプツッとキレると同時に、視界が真っ白になる。頭が殴られるように酷く痛み、意識が遠のいていった……ーー
ーーーーーーー……
ーーーーー……
「……じょさま」
人の声が聞こえ、目を開ける。すると、視界には多くの人々の驚いた顔が飛び込んできた。
慌てて身を起こすと、私は人々に取り囲まれている。いや、取り囲まれているのは私だけでなく、私の隣に勇輝と里果もいる。里果は驚いたように勇輝の腕を掴み、勇輝もまた里果に腕を回している。
(なに!? 何が起こったの? )
理解出来ない私の耳に、男性の会話が聞こえる。
「三人も召喚してしまった」
「聖女様を召喚するはずだったのに」
(聖女様? )
この人たちは、頭がおかしいのだろうか。聖女様といえば、小説やゲームの中で出てくるアレだろうか。白魔法や癒しの力で、傷を治してしまうような……
そんなことを必死で考える私の横で、
「はーいっ!私が聖女ですぅー」
里果が手を上げる。
(ちょっと待って。里果、聖女の力なんて持っていないでしょう!? )
里果の嘘にぎょっとする私。まさか、この訳が分からない状況で、自分が聖女だと言い張れるなんて……なんてしたたかな女だろう。だが、いつでも生きるのが上手いのは里果だった。こうして嘘をついて上手く人に気に入られ、私が悪者にされてしまうのだ。
里果の計らい通り、里果は聖女として認定された。聖女の能力があるかどうかも定かではないのに、だ。そして、勇輝は『聖女の側近』として大切にされ……
「あー、絵麻?
知らないよ。勝手についてきただけじゃない? 」
里果はさほど興味なさそうにぼやく。むしろ、私に聖女の座を取られるのを危惧しているのだろうか。
「絵麻は私には関係ないから好きにしていいよ? 」
里果は男性たちにそう言い、私は邪魔者として追放されてしまったのだ。街から遠く離れた森林に、ぽつんとただ一人置き去りにされて。
ここがどこかも分からない。なぜここにいるのかも分からない。
私は、どうやって生きていけばいいのだろう。
いつも読んでくださって、ありがとうございます!