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魂灯《カンテラ》職人セルリックが照らす想起《もの》  作者: しょぼん(´・ω・`)
第一章:魂灯《カンテラ》職人としての初仕事

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第二十二話:師匠の凄さ

 あの後も黙々と原石を切り出す作業を進め、無事作業を終えた頃には既に銀月(イブニングムーン)が西に傾き、工房の窓から姿を見せていた。

 一時間ほど前。リセッタとリオーネは夕食を作ってくると言って出ていき、今工房には俺一人。賑やかさはなくなったけど、お陰で普段通り集中して作業を進めることができた。


 切り出した魔光石(マナライト)光吸石インヘールライトを手に取り、見える範囲で傷なんかが入っていないことを確認……うん。大丈夫そうだ。

 後は実際に磨きながら確認して、調光珠(ディミング)光吸珠(アブソープション)として使えるようにするだけ。

 ここまでは予定通り。研磨が問題なく終われば、明日の夜には魂砂(ソウルサンド)の錬成に移れるはずだ。


 ……明日の夜には、か。

 避けられない本題が迫ってきたのを感じ、俺は今日何度目かのため息を()いた。

 さっきまではリセッタ達がいたお陰で不安を忘れ過ごせていたけど、こうやって一人になり現実を思い出すと、自分の心の弱さに気づき自嘲してしまう。

 弱気をごまかしたくなった俺は、両手を頭の後ろに回し、椅子に座ったまま天井を見上げ、物思いにふけった。


 別に、誰かの鬱々とした魂の記憶を見るのが嫌ってわけじゃない。

 そこは小さい頃から師匠に色々と()()()()()()、既に克服できている。

 実際、小さい頃は魂視(ソウルビジョン)の制御ができなくって、辛い思いもしてたしな。


   § § § § §


 魂術師(ソウルウィザード)が持つという先天性の力、魂視(ソウルビジョン)

 困りどころなのは、これを制御できないと色々な物に篭った魂の色が視えるだけじゃなく、それらに触れた時に物に刻まれた魂の記憶が鮮明に視えてしまう事。

 不用意に触れた物からすら入ってくる記憶が、良い記憶だったらまだいい。だけど、時に憎悪渦巻くような悪い記憶が入ってくる事だってある。


 実際、こんな経験をした事がある。

 あれはまだ俺が六歳くらいだっただろうか。


 とある国の暴君が所有していたという名剣これで魂灯(カンテラ)を創って欲しいと、王妃の部下がここに持ち込んだことがあった。

 王妃は自身が愛されているか確認したいって理由で依頼しようとしたらしいんだけど、師匠が仕事をしている最中、つまづいた拍子に誤ってそれに触れてしまい、そこに刻まれた魂の記憶を見た時、俺は本気で恐怖したんだ。


 剣を手にし、戦場で嬉々として人を殺していた暴君。時に王宮内でも多くの家臣や従者相手に、暴力や拷問を振るう姿が、一気に俺に流れ込んできた。

 そこに王妃への愛があったかどうか、幼い俺にそこまではわからなかった。

 だけど、血塗れた記憶の中にあった残忍極まりない行為と凄惨な光景を目の当たりにした俺は絶叫し、その場にうずくまりがたがたと震えることしかできなかった事だけは覚えている。


 当時、師匠も俺に魂視(ソウルビジョン)があることには気づいていた。

 だけど、まだ俺が幼かったからこそ制御までは教えず。


  ──「いいかい? 変な色の付いた物には絶対触るんじゃないよ?」


 そんな言いつけでどうにかしようとしていたし、俺もあの人に嫌われたくなかったから、ちゃんと言いつけは守ってきた。

 だからこそ、師匠もこんな事になるとは思ってもみなかったらしい。


 俺を落ち着かせようと優しい声を掛け、俺を優しく抱きしめ背中を優しく摩ってくれたあの人のお陰で、何とか気持ちを落ち着けることができた。

 そして、二度と同じようなことがないようにと、師匠はまだ幼い俺に魂視(ソウルビジョン)の制御を習得させたんだ。


 小さかったから理解が難しかったけど、ゆっくり時間を掛けて少しずつ学び、何とか魂視(ソウルビジョン)を制御できるようになったある日。

 師匠から教わった言葉は、今でも心に刻んである。


  ──「魂に刻まれているのは、結局は他人の過去。変える事もできなきゃ、あんたに直接関係もしないんだ。だから、他人事と思って割り切って視るようにしな」 


 いちいち刻まれた想いに感化されていたら、魂灯(カンテラ)職人なんてやっていられない。

 そんな経験をしたあの人の言葉だからこそ受け入れられたし、今でもそれが正しい魂との向き合い方だと思っている。


   § § § § §


 今では自在に制御できる魂視(ソウルビジョン)

 要所で力を解放し、時に篭っている魂の色を視たり、その状態で物に触れて実際の過去を覗き視る事もできるし、魂視(ソウルビジョン)を抑え込み、それらを視ない事もできる。

 師匠の仕事の度、鍛錬として多くの魂の記憶に触れてきたからこそ、不安や絶望を煽る魂を視て、苦しむようなこともほとんどなくなった。


 ただ、それはあくまで魂に対する向き合い方だけ。

 実際リオーネの件で悩んでいるのも、俺がその想いに触れることへの恐怖じゃない。あくまで彼女が苦しまないかの心配だけだ。


 ……師匠だったら間違いなく、魂灯(カンテラ)で魂に篭った全てを視せるだろう。

 それが間違いないって言い切れるのは、今までの仕事ぶりが物語っている。

 さっきの王妃の件だって、あの人は俺が視た魂の想いをそのままに魂灯(カンテラ)を創り上げたし、他の依頼でもぶれずに魂灯(カンテラ)を創ってきたのを見てるからな。


  ──「依頼人は、相手の過去を勝手に覗き視るんだ。だからこそ、全てを視る覚悟を持たせ、全てを受け入れさせるのさ」


 ある意味冷たくもあるけれど、願いを叶える代償っていうこの考え方には、俺も一理あると思ってる。


 ただ……。

 俺は天井を見上げたまま、ゆっくりと目を閉じた。

 

 それまでは魂灯(カンテラ)職人の弟子として魂に触れたり、師匠の仕事っぷりを見ていたとはいえ、どこか他人事だった。

 だけど、仕事として向き合う事になった今、師匠の弟子として同じ道を歩む事に迷いを持っている。


 リオーネには話していないけど、今回魔光石(マナライト)光吸石インヘールライトをふたつずつ用意したのだって、ただの予備ってわけじゃない。

 いざとなった時に魂に篭っている想いをどう伝えるか、これらで制御しようと思ったからだ。


 魂応(こんおう)した時の光が弱かったふたつは想いを伝えすぎないように。そうでない方は普通に想いが伝わるように。そんな使い分けをするべく選んだ物。

 きっと師匠だったらこんな事はしない。ただ真っ直ぐ覚悟を乗せ、しっかりと魂の想いが伝わるようにしただろう。


 あの人は、本当に偉大だし強い人だ。

 だからこそ、宝珠灯(ランタン)職人としても、魂灯(カンテラ)職人としても名を馳せているんだろう。

 俺もあの人の弟子。そうあるべき……なんだろうか。

 ……ったく。覚悟を決めると言いながら、未だこれだけ迷ってるとか。情けない。


  ガチャッ


 ふと耳に届いた音に、目を開け顔を横に向けると、そこには扉を開けたリセッタの姿があった。

 

「お兄ちゃん。夕飯ができたよ」

「ん。ああ、わかった。リオーネさんは?」

「食事をテーブルに準備してくれてる」

「そうか。じゃあ、あまり待たせてもいけないな」


 俺は身を起こし椅子から立ち上がると、いつものように作業用クロークを壁にかけ、ハタキを手に飾ってある宝珠灯(ランタン)の埃を落とし始めた。


「埃を落とした宝珠灯(ランタン)は、火を落としていい?」

「ああ」


 こっちの返事に反応し、手際よく宝珠灯(ランタン)のつまみを回し、火を落としていくリセッタ。よく手伝いに来ているからこそ、こういうのも手慣れていて助かる。


 そうだ。


「そういえば、ひとつ聞きたいんだけど」

「何?」

「お前、店にいた時よりリオーネさんへの当たりが弱くなったけど。何かあったのか?」


 さっき覚えた違和感を口にしあいつを見ると、リセッタは一度扉の方に目をやった後、俺の脇に立ち切なげな顔を向けてくる。


「あのね。リオーネさんって、ご両親を亡くしてるんだって。知ってた?」

「え? いや。父親が亡くなったとは聞いたけど。母親もか?」

「そうみたい。彼女が生まれてすぐに亡くなっちゃったんだって」

「そうだったのか……」


 だからか……。

 村を飛び出してきたって聞いた時、その辺りは気になってはいた。

 実際父親が亡くなったにしても、母親がいれば魂灯(カンテラ)職人を探すなんていう無謀な旅、流石に止めるんじゃって思ったしな。

 ただ、俺達はあくまで依頼主と仕事人の関係。だからこそ込み入った話には触れなかったんだ。


「それでね。折角ここまで旅してきたなら、楽しい思い出ができたほうがいいかなって思って、少しでも仲良く振る舞おうって思ったの」


 両手をぎゅっと握り、真剣な顔をするリセッタ。

 そんな彼女を見て、俺は自然に笑みを浮かべる。

 こいつは異様にわがままな時もあるけど、なんだかんだで思いやりがあるしき気立てもいい。


「ほんと。お前は優しいな」


 笑顔で頭を撫でて──って、しまった!

 リオーネがいないとはいえ、昼間に子供扱いするなって言われたばっかりじゃないか!


「わ、悪い!」


 思わず手を引っ込めた俺を見て、あいつは少し拗ねた顔をする。

 そりゃ、流石に嫌だった──。


「もっとして欲しかったのに……」

「……は?」


 どういう事だよ?

 俺が思わず首を傾げると、リセッタは顔を赤くし、口を尖らせる。


「ひ、昼間言ったでしょ。お兄ちゃんがしたいならいいよって」

「そういえば……」


 確かに言ってたな。

 とはいえ、別に俺がしたいってより、普段通り無意識に出ただけなんだけど。


「そ、そうか。まあ、今は店仕舞の方が先だ。ささっと済ますぞ」


 変に意識した状態でまた頭を撫でるってのが気恥ずかしくなり、あいつに背を向け再びはたきで宝珠灯(ランタン)の埃を落とし始める。


「もうっ。わかったわよ!」


 不満げな声を出すリセッタ。

 それを背中に浴びながら、俺は彼女に感謝していた。

 陰っていた気持ちに、光を射してくれたから。

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