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魂灯《カンテラ》職人セルリックが照らす想起《もの》  作者: しょぼん(´・ω・`)
第一章:魂灯《カンテラ》職人としての初仕事

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第二十一話:宝珠灯《ランタン》の出来

「せっかくなんで、セルリックさんの宝珠灯(ランタン)を見せてもらってもいいですか?」

「え?」


 俺の宝珠灯(ランタン)を見たい?

 思わず手を止め顔を上げると、リオーネが期待のこもったようなキラキラした瞳でこっちを見ているけど………いや。流石に売り物でもない試作品。それを師匠の宝珠灯(ランタン)を見た後に見せるなんて、恥晒しもいいところじゃないか。


「師匠のと比べたら雲泥の差なんで。止めときましょう」


 俺はそう言いたかった。

 けど、神様は──いや。()()はそれを口にすることを許さなかった。


「あ、それならこっちにあるよ。一緒に見よ?」

「え? は、はい」


 間髪入れずにリセッタがそう言うと、リオーネの手を引き工房の奥、床に布が掛けられている場所に歩き始めた。

 こっちが返事をする前だったからだろう。リオーネは俺とリセッタを交互に見ながら戸惑いつつも、なすがままに連れて行かれる。

 っていうか、断りもなしに何やってるんだよ!?


「お、おい!」


 俺が呼び止めるのと、ささっと布を取り払うリセッタの動きはほぼ同時だった。

 そこに置かれていたのは、俺が試作品として作っていた宝珠灯(ランタン)の数々。


 まったく。リセッタの奴、勝手なことをしやがって……。

 リオーネさんは装飾学校を卒業してるんだぞ。俺の試作品なんか、目が肥えてる人に見せるもんじゃないだろ……。


 黒歴史とは言わないけど、決して誇れるだけの出来じゃない。だからこそ、自分の作品が見えた瞬間、自然に肩を落とす。

 こっちの反応に気づかない二人は、俺に背を向けたままその場にしゃがみこみ、宝珠灯(ランタン)を手に話し始めた。


「ね? どう?」

「そうですね。味があって良いと思います」


 はぁ。味がある、ね。


  ──「ま、味はあるけど、もう少し洗練させないとだね」


 師匠が俺の試作品の出来栄えを見た時に、その言葉を散々聞いた。

 良い意味で個性的。悪い意味で下手だって時に使ってたのはわかってる。

 同じ言葉をリオーネが口にしたってことは、そういう事なんだろう。

 ま、わかってはいたけどさ。


 少しむっとしながらも、同時に自分の心が狭いようにも感じて、俺は何とか心を落ち着かせるために深呼吸すると、再び作業に戻ろうとした。


「あれ? お兄ちゃん」


 だけど、それを止めたのはリセッタだった。

 一体何だ?


「どうしたんだよ」


 少しふてくされた声で返事をし再び顔を上げると、座ったままリオーネが振り返りこっちを見た。


「お兄ちゃんって、最近自分の宝珠灯(ランタン)を売ったりした?」

「え? そんな事はないけど」


 どういうことだ?

 リセッタの言葉に、俺は自然に首を傾げた。


 売ったりしたって聞いたってことは、俺の宝珠灯(ランタン)が減ってるってことだよな?

 だけど情けない話、俺の作品が売れることなんてありえない。

 基本的にこの工房に来て宝珠灯(ランタン)を買うなら、町の人だとしても師匠の作った物を買うに決まっている。


 勿論、誰かに盗みに入られてもいないはずだ。

 というのも、この工房や隣の家は、鍵を掛ければ扉や窓すべてに施錠(ロック)魔術(マナスペル)が掛かるようになっていて、術が掛かった家屋は破壊すら困難になるんだ。


 これも師匠自ら付与したって言ってたけど、特に魂灯(カンテラ)の知識や存在は秘蔵の物だし、これだけの事をしておく気持ちもわかる。

 実際俺も師匠の部屋に入らせてもらえたことはないし、旅行中の今だって鍵は師匠が持っていて、入ることは許されていない。

 つまり、そこにはそれだけ貴重な物があるはずなんだ。


 そんな状況の中で、俺の宝珠灯(ランタン)が減ってる?


「それって、数が減ってるって事か?」

「うん。多分、だけど」

「多分?」


 歯切れの悪いリセッタの言葉が気になり、俺は席を立つ二人の側まで歩いて行き、彼女の脇に腰を下ろした。


「ほら、ここ」


 リセッタが指差したのは、置いてあった俺の作った宝珠灯(ランタン)の数々。

 確かに最も壁際に並んでいる宝珠灯(ランタン)の一箇所が、不自然に空いていた。


 一番奥には昔作った古い宝珠灯(ランタン)が置いてあったはず。

 最初の頃に作った宝珠灯(ランタン)はとにかく出来が悪すぎたから、師匠に話をした上で試作品は処分してたんだけど。十六くらいの時かな。ある程度宝珠灯(ランタン)制作が様になってきた頃。


  ──「駄目だと思った物も残しておかないと、少しでも良くなった場所の比較ができないからね。そろそろきちんと残すようにしな」


 そんなあの人の助言に従い、俺も宝珠灯(ランタン)を残すようになったんだ。


 とはいえ、満足がいく物じゃない作品が並んでいるし、残し始めた頃の物の出来は決して良いものじゃない。

 だから一番部屋の奥に片付けてなるべく目に付かないようにしていた。


 ちなみに師匠が旅行に出てから、俺以外の人が工房に一人でいるなんて状況はなかったし、不出来な自分の作品なんて見られたくもない物。

 もし誰かが近づけば流石に俺も気づくから、リオーネや他のお客さんが犯人、みたいな事は考えにくい。


「お兄ちゃんは、ここにどんな宝珠灯(ランタン)があったか覚えてる?」

「いや。最近全然見てなかったから」

「心当たりは?」

「特には。もしかしたら、師匠が並べ替えた可能性はあると思うけど……」


 リセッタの質問に、釈然としないまま仮説を口にしてみたけど、結局これも推測の域を出ない。

 実際、師匠がわざわざこの辺りの宝珠灯(ランタン)を並べ替えるような理由も思いつかないし、そう考えると……。


「多分、最初からこうだったんだろ。別に気にしなくてもいいよ」


 うん。これが一番しっくりくるだろ。

 それに昔作った俺の宝珠灯(ランタン)がひとつなくなったくらいなら、処分したのとほとんど大差ない。原因を追求するだけ時間の無駄だ。


 さて。仕事に戻るか。


「セルリックさん」


 その場で立ち上がった俺を、リオーネが呼び止める。


「はい。どうしましたか?」

「セルリックさんの作品も、本当に素晴らしいですね」

「え?」


 しゃがんだままこっちを見る彼女の表情は、曇りも嫌味もなさそうな笑顔。

 本音でそう言ってくれたようにも見えるけど、流石にお世辞だろ。

 内心そう思っていると。


「だよね? 私もお兄ちゃんにそう言ってるんだけど、聞く耳を持ってくれないんだよ」


 なんて、リセッタまで相槌を打ってくる。

 いやいや。こいつも気遣いが上手いだけだし、なんたってダルバさんの娘。目が肥えてる相手からこんな言葉が出てくるはずないだろ。


「いや、全然だろ。宝珠灯(ランタン)の形状も少し歪みが出たりしてるし、装飾の精巧さだって、師匠の足元にも及ばない」

「でも、こちらの傘に彫られている草花とか、凄く可愛らしいですよ」


 リオーネはそう言うと、近くの宝珠灯(ランタン)を手に取り俺に見せる。

 確かにその宝珠灯(ランタン)の傘には草花が手彫りで彫ってあるし、自分なりにちゃんと完成させた物。

 だけど師匠のと比べたら、やっぱり粗さが目立つ。


「それだって全然緻密じゃないですか。まだまだです」


 自分の駄目な部分を無理やり褒められている。そんな気持ちになりながらそう答えると、笑顔だったリオーネさんが表情を引き締めた。


「必ずしも装飾が緻密じゃなきゃいけないなんて事、ないと思いますよ」

「いや、でも師匠もまだまだって言ってましたし」

「確かにメルゼーネ様にとって、セルリックさんはお弟子さん。だからこそ厳しい事を言ってるかもしれません。でも、私はどこか可愛らしくて味のあるこのデザイン、十分魅力的だと思います」

「そんな。お世辞なんか──」

「本当です。きっとこれだったら、私の同期のみんなだって褒めてくれますよ」


 熱の篭った瞳で見つめられ、俺のほうが少し気圧される。

 この目……間違いなく本音を語ってくれてると思う。だけど、俺の稚拙な装飾だぞ?


「そうだよ。お兄ちゃんの装飾って、細かくはないけど何を彫ったかちゃんとわかるし、ほんと可愛いもん。私が作ってもらった宝珠灯(ランタン)の模様だって、友達から可愛いって言ってもらえるよ。きっと、若い女の子が好むデザインなんだよ」


 若い女の子向け、か。納得できるような、できないような……。

 自分の中で渦巻く、何とも煮えきらない気持ち。

 ただ、今まで師匠の言葉が絶対だと思ってたけど、世間の人達に見てもらったら少しは違う感じ方をしてもらえるのか?

 二人が必死に伝えようとしてくれた言葉を聞いて、ふとそんな事を思う。


 彼女達からそんな有り難い言葉をもらったからって、すぐに自信が持てるわけじゃない。

 ただ、師匠やリセッタとは違う新たな第三者の言葉を耳にできたのは、何となく自分の心にあったわだかまりを少し和らげてくれた気がする。


 ただ、それでも。


「そうだといいけど」


 俺は素直に返事をせず、そのまま踵を返す。


「もうっ。お兄ちゃんったら素直じゃないんだから」


 背後から届いたリセッタのふてくされ声。

 だけど、その場にいれるはずなんてなかった。

 頬の緩みかけた変な表情なんて、見せられるはずがないからな。

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