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魂灯《カンテラ》職人セルリックが照らす想起《もの》  作者: しょぼん(´・ω・`)
第一章:魂灯《カンテラ》職人としての初仕事

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第二十話:いつものリセッタ

「リ、リオーネさん。今お兄ちゃんに、な、何してたんですか?」


 何をしていたかと言えば、顔を拭かれていたとしか言えない。

 流石に気恥ずかしさはあったものの、やましい事なんて何もしていないからこそ、その質問を聞いても特に戸惑いは特にないんだけど。

 リセッタの方は、何故か随分取り乱してるように見える。一体どうしたんだ?


「あ、はい。セルリックさんの顔が(すす)で汚れていたので、拭いていただけですけど」


 震えた声のリセッタに対し、事実を口にしたリオーネは、証拠とばかりに手にしていたタオルを広げて見せている。

 こっちから表情は見えないけど、声色から平然としているような気がする。


「え、ほ、ほんとに? 本当に、それだけ?」

「ああ。ほら」


 俺が(すす)の付いたクロークの袖を見せた瞬間。


「あーっ!」


 リセッタの表情が一変、両手を腰に当て急に不機嫌そうな顔をした。


「お兄ちゃん! 昨日あれだけ言ったのに、またそのクローク着たの!?」

「え? ……あ」


 そういえば、昨日あいつが昼に差し入れを持ってきてくれた時、こう言ってたな。


  ──「お兄ちゃん。そのクロークも随分汚れてるから、後でちゃんと洗い物に出して、明日は新しいのを着たほうがいいよ」


 ただ、店仕舞の時にリオーネが尋ねてきたもんだから、すっかり忘れてた。


「悪い悪い」

「悪いじゃないでしょ! さっさと着替えて新しいのを出す!」

「はいはい。リオーネさん。ちょっとどいてもらっていいですか?」

「あ、はい」


 リセッタのきつい口調での命令に、俺は諦めて椅子から立ち上がると、着ていた作業用クロークを脱ぎくるくると丸める。

 すると、ズカズカと歩いてきたリセッタはそれを奪い取った。


「これ以外に洗う物はないの?」

「ああ。朝に洗濯して干したから」

「わかった。リオーネさんは?」


 流れるように彼女に問いかけるリセッタ。

 あまりに自然過ぎる問いかけに、リオーネがきょとんとする。


「え? それって、私の洗濯物のお話ですか?」

「そう。洗う物はないの?」

「あ、えっと。なくはないですけど、まだ着替えに余裕はありますから」

「駄目駄目。数日いるんだったら、今のうちにちゃんと洗濯しないと。今ならまだ干せば乾くから、一緒に洗濯しちゃお」

「え? でも……」

「いいから一緒に行こ? お兄ちゃん。リオーネさんを少し借りるね」

「え? あ、あの。ちょっと!?」


 俺が返事する暇も与えず、リセッタはリオーネの背中を押し、そのまま工房を出ていった。


 ……はぁ。また始まったよ。

 取り残された俺は、大きなため息を漏らし片手で顔を抑えた。


 あいつは突然、今みたいに有無を言わさず行動に出る時がある。

 善意からくるお節介なのはわかってるし、気遣いに感謝する部分もある。だけど、正直あの強引さはあまり好きじゃないんだよなぁ。

 捕まったリオーネには、運が悪かったと言うしかないか……って。結局リセッタがこの時間に来た理由を聞けずじまいじゃないか。

 ま、いいか。後でどうせ聞けるんだ。今は仕事のことを考えよう。


 さっきまでの気恥ずかしさと作業着を一瞬にして失った俺は、タオルを仕舞ってある棚に向かい新しい作業用クロークを取り出して身に纏うと、再び原石を切り出す作業に戻っていった。

 

   § § § § §

 

 あれから一時間ほど。

 集中力を切らさないようにしながら、コツコツとハンマーと彫刻刀で光吸石(インヘールライト)から光吸珠(アブソープション)を切り出す作業を続け、漆黒の原石はやや平べったい多角柱に近づけていく。


 この形にするまで、ひたすら外側を薄く時間を掛けて削ってきたんだけど、内側を一気に叩かないのは、力を入れ過ぎて下手な割れ方をして、使い物にならなくなるのを防ぐため。

 切り出すのに力が必要となるからこそ、変な角度で刃を入れたり、圧をかけたりすると亀裂を生じることも多いし、不慮の事故だって起きやすい。


 硬さと繊細さを併せ持つ光吸石(インヘールライト)。だからこいつはまるで果物の皮を剥くかのように、外側を薄く、少しずつ削っていく必要があるんだ。 

 ほんと。この作業がなければ、半日くらい時間が短縮できるんだけど。これも師匠からの言いつけ。ちゃんと守らないと後で色々言われそうだしな。


「この装飾模様も繊細に刻まれていて、本当に凄いですね」

「でしょでしょ? メルゼーネさん、ほんとセンスも技術も凄いんだよ。あの口うるさいお父さんが『宝珠灯(ランタン)職人として食いっぱぐれそうなら、うちで雇ってやるよ』なんて言ってたくらいだし」


 少し離れた場所から聞こえた声にちらりと視線を向けると、そこでは飾られていた宝珠灯(ランタン)を手にし、まじまじと眺めているリオーネと、その脇でダルバさんの物真似を交えながら、楽しげに話すリセッタの姿があった。


 三十分くらい前。二人は洗濯を干し終え戻ってきたんだけど、それまでどこかリオーネに対してきついというか、ちょっと冷たい反応が多かったリセッタは態度を一転、随分親しげに接するようになっていた。

 洗濯に行っている間に何かあったんだとは思うけど、まだその理由は聞けずじまい。まあ、ずっと棘があるような態度ばっかりされてたらリオーネだって辛いだろうし、リセッタのこういう変化は悪いことじゃない。


 二人が戻ってきてすぐは、俺が原石を切り出す作業を見守っていた二人。

 だけど、実際この作業は時間も掛かるし地味。そこで、飾ってある宝珠灯(ランタン)の装飾を見てみるようリオーネに話してみた所。


  ──「それいいじゃん! リオーネさん、一緒に見てみよ! あの宝珠灯(ランタン)の星空とか、ほんと凄いんだから!」


 なんて言いながら、リセッタが率先して案内を始めた。

 最初は遠慮気味だったリオーネも、師匠が宝珠灯(ランタン)に施した手彫りの装飾を見て目を丸くし、食い入るようにいろんな宝珠灯(ランタン)に魅入り今に至っている。


 ちなみに、リオーネを案内しようとしたリセッタが一瞬こっちに笑顔でウィンクしてきたのを見て、きっとあいつなりに俺に集中できる環境を用意しようとしてくれたんだろうってことは容易に想像がついた。

 別に見られながら仕事をするのに抵抗はないし、その程度で作業に支障をきたすこともない。

 とはいえ、こういうあいつの気遣いには素直に感謝しとかないと。


「セルリックさん。これって全て手彫りですか?」


 と、リオーネが宝珠灯(ランタン)を手にしたまま、ふとこっちに向き直る。

 彼女と目が合った俺は、一旦「ええ」と短く返し、再び光吸石(インヘールライト)を切り出す作業を始める。


「そうなんですか。ちなみに宝珠灯(ランタン)って、みんなこうやって手彫りで模様を刻むんですか?」

「いえ。元々、宝珠灯(ランタン)の部品の大半は鋳造して作るんですけど、普通はその段階で模様なんかも想定し、型を用意するのが一般的だって聞きました」

「物を作るなら量産できるほうが楽だし、手間が掛からなければ安くできるもんね」


 リセッタが納得した声をあげるけど、こいつも宝飾店の店主の娘。どれだけ手彫りが大変であり、その分値が張るっていうのを理解してるからこその言葉だろう。


「そういう事。だから、市販品として並ぶ宝珠灯(ランタン)って、同じ工房のものは形がほとんど似通ってるはずです。帰りにオルロードを通るなら、そこで宝珠灯(ランタン)を売っているお店に入って見てみるといいですよ」

「そうしてみます。ちなみに、メルゼーネ様は何故そうしないんですか?」

「職人としてのこだわりですね」

「こだわり……」


 パキンッ


 俺の言葉を復唱したリオーネに、返事代わりに光吸石(インヘールライト)が音を立てる。


「『あたしは魂灯(カンテラ)職人。だからこそ、素となる宝珠灯(ランタン)にも、しっかり魂を刻んでおきたいのさ』なんて言ってました。まあ、手彫りのほうが鋳造より模様が際立つとか、そういう話もしてましたけど」


 言葉にしたこだわりと、それを実現できるだけの技術。

 ふたつを持ち合わせた師匠だからこそ、宝珠灯(ランタン)職人として名を馳せるまでになった。俺はずっとそう思ってる。


「ちなみに、お兄ちゃんもそこはこだわってるよね?」


 再び原石を切り出し始めると、リセッタがそんな事を言ってくる。

 それを聞いた俺は、原石から目を逸らさず仕事を続けながら、ちょっと苦笑いした。


「こだわってないわけじゃないけど、師匠の教えに従ってるって所もあるかな」

「でも、お兄ちゃんが今までに作った宝珠灯(ランタン)って、全部手彫りだったよね?」

「そりゃあ、手彫りをしなきゃ鍛錬にもならないし」


 そう。師匠の言っていることは最もだと思っているからこそ、俺もできる限り模様は手彫りしたいって思っている。

 ただ、技術が追いついているかは別で、まだまだ腕は未熟。

 それもあって、場合によっては鋳造段階で模様をつける事も選択肢として考えてはいる。


 またもパキンと小気味よい音を立てた光吸石(インヘールライト)

 よし。あともう少しだな。

 俺は会話に混じりながらも、手を休める事なく作業を続けていたんだけど、次のリオーネの言葉を聞いた瞬間。思わずその手を止めたんだ。

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