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魂灯《カンテラ》職人セルリックが照らす想起《もの》  作者: しょぼん(´・ω・`)
第一章:魂灯《カンテラ》職人としての初仕事
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第十八話:詩的

「今の私と同じ、ですか?」


 リオーネの不思議そうな声に、俺は雨星(あまぼし)を見つめたまま静かに頷く。


「ええ。俺は未熟ではあっても、偉大な魂灯(カンテラ)職人、メルゼーネの弟子。だからこそ、あの人の名に傷をつけちゃいけないと強く思ってましたし、師匠に倣い一人で何でもこなさなければとも思っていました。でも、そんな師匠という輝きに目を奪われてしまっていたせいで、肝心なものが見えてなかったんです」


 ほんと。魂灯(カンテラ)職人は一人で仕事をしろなんて、師匠に一度も言われていないのに。思い込みってのは本当に怖いな。

 俺は手に持った袋を抱え直すと、改めてリオーネに向き直り彼女を見た。


「最善を尽くすなら、最も腕のある人に頼ればいい。こんな当たり前の事すら見えていなかった。それを思い出させてくれたリオーネさんに、俺は感謝してます。だから、さっきの事を悔やんだりしなくっていいですからね」


 にこりと笑った俺を見ながら、呆然としているリオーネ。

 俺としては本気でそう思っているからこそ、この想いがちゃんと伝わってほしいと思っているけど、その表情からどうなのかは読み取れない。

 想いはうまく届いているんだろうか?

 沈黙に少し焦れったさを覚えていると、彼女はくすっと笑う。


「セルリックさんって、詩人みたいですね」


 ……へ? 詩人?


「えっと、どういう意味ですか?」


 まったく予想すらしていなかった言葉にこっちが呆然とすると、リオーネは何故か目を輝かせながら言葉を続けた。


「いえ。灯りによって見えなくなる物がある。そのお話のために雨星(あまぼし)に気づかせてくれただけでなく、メルゼーネ様をまるで魂灯(カンテラ)の輝きのように例えて語っていたので、凄く詩的で素敵だなって」


 ……うわぁ。言われてみれば。

 彼女の具体的な説明を聞いて、俺は一気に顔が熱くなるのがわかった。


 い、いや。

 師匠を例えに出したのは、純粋に例え話としていいなと思っただけで、気取ったつもりなんて全然ない。

 だけど、実際こうやって話をして雨星(あまぼし)まで見せたんだ。詩人みたいだと言われても否定できない。


「べ、別にそういうわけじゃないんです! ただ、俺は、その、ちゃ、ちゃんと感謝を伝えたかっただけで!」

「ふふっ。大丈夫ですよ。セルリックさんが優しい方なのは、私もちゃんとわかってますから」


 言葉には誠意があるけど、リオーネの顔は意味深な微笑みのまま。

 それがどこか心の内を見透かされているようにも感じてしまい、俺は気恥ずかしさに思わず体ごとそっぽを向いた。


「な、なら、いいですけど。じゃ、戻りますよ」

「はい。ありがとうございます。セルリックさん」


 背中から聞こえる柔らかな声。きっとリオーネなりに俺を安心させるよう、誠意を込めて言ってくれたに違いない。

 でも、それを聞いてより恥ずかしさが増した俺は、彼女にどんな顔をしていいかわからなくって、振り返る事なく再び丘を登り歩き始めた。

 

「あの、家に戻るまでの間、宝珠灯(ランタン)は消したままでもいいですか?」

「ええ。構いませんよ」

「ありがとうございます」


 でも、ほんと極夜地域で良かった。

 明るかったらこの真っ赤な顔を見られてたんだ。きっと今以上に笑われてたに違いない。

 また雨星(あまぼし)に目を奪われているであろうリオーネに振り返ることなく、俺は穏やかな風で何とか火照りを冷まし、気持ちをごまかすように星空を見上げたまま、静かにその場を後にした。


   § § § § §


 家に帰った後。

 ここから作業を始めても中途半端になるしと、一旦仕事には戻らずそのまま昼食の準備をしようとリオーネに伝えた矢先。


「お昼は私ががんばりますから。テーブルで待っていてください」


 なんて笑顔で申し出てきたので、今回はお言葉に甘えることにした。


 とはいえ、師匠がいようがいまいが俺がほとんど食事を作っていたから、こうやってじっと待っているってのはどうにも落ち着かない。

 お陰で、席を立たずにじっとしているのには本当に苦労した。


 作ってくれたのは、サラムの村の伝統料理、白身魚の塩洞(えんどう)焼き。

 本当は川魚を使うらしいんだけど、流石に港町レトでは取引がほとんどなく、かなり高価。そこで彼女は比較的安価で取引されている、この島の近海で穫れるパラメドという白身魚を塩抜きして作ってくれたんだ。


 一度胡椒を振った魚の表面をグリルで焼いた後、全体を塩で包み竈門で火を通す。

 それだけに時間はそこそこ掛かってたけど、それだけの手間暇を掛けただけある、ふっくらとした身と程よい塩気の焼き魚。

 リセッタも料理は美味いんだけど、一段階上をいく味は、それこそトルネおばさんの料理に引けを取らない。


「お口に合いますか?」


 無言で食べ進める俺の姿に、リオーネに不安げな顔をさせてしまったのは申し訳なかったと思う。その代わり。


「こんなに美味しい料理は久々ですよ」


 そう素直な褒め言葉を口にしてあげると、彼女は嬉しそうな顔を見せてくれる。

 それが以前、師匠の手料理を褒めた時に見せた笑顔と重なって、俺は懐かしさを感じながら自然と笑顔を返していた。


   § § § § §


「後片付けは私がしますから。セルリックさんは先にお仕事を始めていてください」

「わかりました。ご馳走様でした」


 昼食を終え一息ついた直後。

 リオーネからの申し出を素直に受け入れた俺は、彼女に頭を下げるとそのまま席を立ち、魂灯(カンテラ)制作を再開するため工房に足を運んだ。


「んーっ。さて、やりますか」


 扉を開け中に入った後、大きく伸びをしながら独りごちた俺は、工房の奥に歩き出した。

 さて。ここからは神経を使う作業。ちゃんと頭を切り替えていかないと。

 普段通りに壁に掛けていた作業用クロークを羽織ると、作業机に戻り席に腰を下ろす。


 机の上に置いてあるのは、買った原石の入った革袋。

 それを手にした俺は、中から原石が包まれた布を取り出し、机の左脇に並べていった。


 これから始めるのは、買ってきた原石から調光珠(ディミング)光吸珠(アブソープション)を切り出し、形を整える作業。

 さて。ここからは神経を使う作業。ちゃんと頭を切り替えていかないと。


 買った原石はよっつ。

 数もあるし、夕方にはリセッタも家に来る。それまでにできるとすれば、今日は原石の切り出しくらいか。

 残りは明日の朝から研磨をして、それが終わったら魂砂(ソウルサンド)の錬成だな。


 ……錬成、か。

 頭を整理している最中、ふと忘れていたペンダントに刻まれた魂の事を思いだす。

 そのせいで気持ちが少し重くなったけれど、こんな事で心が揺らいでいたら、仕事もままならない。


 いいか。今は目の前の作業に集中しろ。

 ふっと鋭く息を吐き気合を入れた俺は、机の引き出しから平たい彫刻刀と小さめのハンマー、作業用の皮手袋を取り出すと、まずは両手に手袋をする。

 その後、机の脇の壺の蓋を開け、粘土の塊を取り出して自分の目の前に置き、その場で平たく伸ばす。

 これは原石を切り出す時に、下手に動いてしまうのを防止するための土台にするんだ。

 

 ……さて。こんなもんかな。

 作業の準備を整えた俺は、大きく深呼吸すると、改めて作業机を見た。

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