怪異散歩
「嘘からでた真……いやこの場合、創作から出た真かね?」
私が怪異系ヒロインの作品を投稿して一週間……まさか夢の中で『本物』に襲撃されるとは思わなかった。
自意識過剰、妄想の行き過ぎとも思ったが、問題は現在進行形。何せ夢から覚めても、非実体の大蛇が見える。今も睨まれているが、正直怖くない。何故なら、夢の中で抵抗したら、素人の私でも倒せてしまったからだ。恐ろしい相手と思っていたが、随分と弱っていたらしい。
「あー……出会い方は最悪だが、どうかね? 親睦を兼ねて散歩でも」
おもむろに私が提案すれば、化け蛇は固まったまま警戒する。そりゃ『襲って来た相手を散歩に誘う』とかありえない。誰だって裏を疑うだろう。少し考え、相手が恐れていそうな事を否定した。
「心配するな。神社行ってお祓いなんかしない。悪させんなら、今後も傍にいて構わんよ」
怪物は答えないが、こっちの言葉は分かるらしい。私が靴を履き玄関を出ると『訳がわからぬ』と目で訴えながらついてくる。普通に考えれば……ドアに頭ぶつけるサイズの怪異を、認知して黙認は正気じゃない。私は散歩しながら、誰も見ずに話を続けた。
「私の作品を読んで付け込みに来たんじゃ……いや、オカルト話に引っ張られただけで、狙ったのは偶然かね? どっちにしてもご愁傷様。お前さん変なのに取り憑いちまったぞ」
ホラー物に触れていると、霊を引き付けるらしい……という話はよくある。作品を創作しでも同様なのだろう。困惑する大蛇に、私は心象をざっくり説明した。
「一週間前に『悪い怪異と共存しようとする人間』の作品を書いてね。そういうのを投稿した人間が、リアルで相対した途端、無下にするとかありえんだろ。お前さんとは関係ないかもしれんが……これは私の価値観・哲学の話だ。『面倒くさいこだわり』と言い換えてもよい」
睨まれているのは変わらないが……奇人変人を見る目つきに変わった気がする。少し傷つくが、敵認定から外れたのを喜ぼう。
「ま、物語みたいに共存できるとは言わんよ。隙見て寝首を搔くなり、どっか行くなり好きにしろい。ただ……こんな素人に説教されるくらい弱ってるんだ。今、お前さんに必要なのは休養だろう」
散歩を続け、ついた先は日当たりの良い公園。おもむろに芝生へ寝転がる私。鼻を鳴らした蛇の怪異が、距離を取って草むらに寝そべる。
数分と経たずに怪異は眠りにつき……釣られるように、私もうたた寝してしまった。