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「もしも〜し!」

「聞いてる?」

 先ほどまでMarcyを犯していた「黒木」と呼ばれている男が、萌の目前で手を振っている。

 その声がMarcyとの思い出に現実逃避していた萌を我に返した。

 Marcyはまだ車の中で薄ら笑いを浮かべながら痙攣している。

 車から降ろされた萌の前には、傷だらけで全裸の男女が、自身が掘った穴の前に正座させられている。

「今からこいつらは殺すんだけどさぁ…萌ちゃんだっけ?お前はこれからはこいつらの為じゃなく、俺のためにクスリを作り続けるんだよ。」

 萌の頭を鷲掴みにし、自分の顔のギリギリまで引き寄せ黒木は言った。

「あっ、そうそう。こいつらは殺すけど、あのホストは生かしといてやるよ。優しいだろ?たまに殴ったり、犯したり、蹴ったり、犯したり、焼いたり、犯したり、煮たりするけどな。」

 黒木は満面の笑みを浮かべた。萌は恐怖と絶望で反応出来なかった。

「ウチの売人殺して、シマ荒らした落とし前としては安いもんだろ!」

 反応しなかった萌に対し、黒木は近くのドラム缶を思い切り蹴り、威嚇した。ドラム缶は倒れ中から白骨化した死体が転げ出た。

 萌は恐怖で硬直したが、無意識に失禁した。

「おー、潮吹いた。」

 黒木は爆笑し、10人ほどいる部下も合わせて笑った。

「黒木君、そろそろ片づけないと取引に遅れますよ。」

 部下の一人が耳打ちした。

「あーそーだったな。」

 言いながら黒木は黒のスリムパンツの背中に隠していた自動拳銃を抜き、全裸の男女の一人の頭部を撃ち抜いた。撃たれた者は男性だったが、そのまま自分が掘った穴に倒れ込んだ。

 残り4人の男女は各々悲鳴を上げ逃げようとしたが、黒木は素早く銃口を向け、3人の頭部を正確に撃ち抜いた。

 4人目を撃とうとした時、銃がジャムを起こしたが黒木は部下が腰に挿していた日本刀を素早く抜き4人目に向かって投げた。

 日本刀は回転して飛んでいき、4人目の首を見事に刎ねた。

 銃で撃ち抜かれた3人はそのまま穴に倒れ込んだが、4人目の死体は穴から逸れて倒れた。

「黒木君、惜しいぃ!」

 部下の一人が黒木に声をかけた。

「ロシア製は駄目だな。まあいい。よく見ろ。」

 ジャムった銃を部下にトスし黒木が言った。すると刎ねた首が無造作に積み上げられたドラム缶に当たり、見事穴の中に落ちた。

「黒木君スゲェ」

 部下達から歓声が上がった。

「フッ。穴に入らなかった死体は片づけておけ。」

 黒木は冷静に指示を行った。



 

 最初はMarcyのためだけにファイヤークリスタルを作った。萌も他言無用であることをMarcyに念を押した。違法薬物の作成だけでも重罪だが、その前にモヒカン女を殺している。逮捕されることは怖くなかった。ただファイヤークリスタルを作りさえすれば、Marcyは自分を見てくれる。一緒にいられる。この生活が壊れるのだけは嫌だった。そのためにはバレるわけには行かなかった。

 Marcyには今までどおり普通の生活を送ってもらった。ホストクラブで働き、給料をもらう。帰る場所はMarcyの部屋ではなく、萌の部屋である。給料を萌に預け、生活費とファイヤークリスタルの材料費に充てる。余ったお金はMarcyの名義で貯金した。2人に肉体関係は無かったが、さながら新婚生活のようだった。違うのは夜の営みがMarcyのドラッグタイムだというところのみだった。

 萌にとって幸せな日が数カ月は続いた。モヒカン女の件もニュースで報道されなかったし、Marcyのために家事をし、ドラッグを作る毎日が幸せでたまらなかった。

 そんな折、Marcyがホスト仲間にファイヤークリスタルのことを話してしまいファイヤークリスタルの存在が他人に知られてしまった。それでも最初は内輪で楽しむだけの者だった。時折、Marcyが

仲間を部屋に招きドラッグパーティーを行うようになったが、Marcyが仲間に萌のことを自慢(実際は萌ではなくファイヤークリスタルのことだが…)しながら笑う姿が愛おしくてたまらなかった。萌は現状を黙認した。

 しかし一度決壊したダムが修復出来ないように、人の口に戸は立てられなかった。

 噂は瞬く間に拡がり、需要は増していった。ついにはホストクラブで秘密裏に販売するようになったが、勢いは止まることを知らずブラックオニキスの販売域を席巻した。

 もちろん、今までブラックオニキスを収入源としていた半グレ集団「ブラックオーガ」にとっては死活問題である。また「ブラックオーガ」の上部組織である指定暴力団「黒鬼会」にとっても同様であった。

 ブラックオーガからの上納金の減少という理由もさることながら、ブラックオーガのボスである「黒木 修斗」は黒鬼会の女組長「黒木 由紀子」が溺愛している実子である。

 「ヤクザは面子を重んじる」

 ファイヤークリスタルの件は単にシマを荒らされただけでなく、黒木親子が舐められたことになる。

 そのためファイヤークリスタルの販売元についてはブラックオーガだけでなく、黒鬼会の傘下すべての組が加わり一万人規模で捜索された。

 面子を潰された報復のため血眼になって捜索するヤクザにとって、萌のマンションを突き止めることなど、造作もないことだった。

 最早毎週恒例となった萌の部屋でのドラッグパーティーにブラックオーガの一人が囮となって潜り込み、ボスである黒木修斗自ら率いる武当派10人を押し入らせた。

 パーティーの参加者である半分はその場で見せしめとして、あっさり殺害された。(その後のことを考えるとここで殺されることがどんなに幸せだったかを思い知ることになるが)

 残りの半分は拉致され、現在萌達がいる山奥の廃棄場に連れて来られた。

 萌達は各々紙袋やガムテープ等で目隠しをされていたが、到着する直前に古いゲートを開ける音を聞き、そこから30分ほど長いトンネルを通った感覚があった。

 廃棄場に到着すると全員の目隠しが取られた。

廃棄場は野球のグランドが2面出来るほどの広さであらゆる物が投棄されていた。廃車、医療廃棄物、動物と思しき物の白骨、放射能のマークの付いたドラム缶も多数あった。

「相変わらず酷い臭いですね。ここは。」

「多頭飼育で首が回らなくなったブリーダーの犬とかも捨てに来たし、結構いろんな動物捨てに来たぞ。ほら黒鬼会の若頭の女が知識もないのに趣味で始めた爬虫類ショップあったじゃん。案の定潰れてあそこの蜘蛛だのヘビだのトカゲだの全部捨てに来たぞ。」

 部下同士の会話が萌の耳に入った。

「自分、爬虫類駄目なんすよ。まだその辺いますかね?」

「バカ!不老山だぞ、冬は寒くて死んでるわ!そうじゃなくてもクマとか野犬とかに食われてるんじゃねえの!」

「何場所言ってんだ!バカ!」

 会話を続けてる部下の後頭部を落ちてあった鉄パイプで黒木が殴った。

「黒木君!すみません!」

 部下は慌てて黒木の方を向き、深々と頭を下げた。下げだ後頭部割れ、血が噴き出している。

「まあ、どうせ殺すからいいけどな。」

 黒木の答えに部下も笑った。頭を割られた部下も割れた傷を押さえながら笑っている。

「さあ、夜には街に戻って取引だ。ブラックオーガがファイヤークリスタルを仕切るぞ。景気づけに楽しい楽しい合コンタイムの始まりだ。」

 黒木のその言葉が合図となり、萌以外全員が全裸にされ、まず穴を掘らされた。それから数時間、それぞれが悪夢のような拷問が行われた。男女問わず凌辱された。凌辱されながら殴られ続ける者、廃棄場に放置された鉄屑を穴という穴に詰められる者様々であった。途中、販売網や首謀者であるMarcyのことについて、尋問していたが、既に調べはついているのだろう。拷問を続けるための形式的な物だった。

 萌に対しては、一切拷問されなかった。その代わり拷問の一部始終を見させられた。目をつぶろうとすると、無理矢理目を開けさせられた。最終的にはMarcyが犯されるところを見させられた。





「黒木君、こないだ死体埋めたとこ、掘り起こされてますよ。」

 部下の一人が首無し死体を穴に運びながら報告した。

「もうすぐ冬なんで、熊とか猪が掘り起こして食べたんじゃねえの。まあ、生き返って這い出さないかぎりそうじゃねえの?」

「でも、5〜6体埋めたと思うんですが…全部掘り起こされてますよ。」

「まあ、腹減ってたんだろうな。いいからとっとと埋めろ。」

 黒木がふと部下の方を見ると、突然部下が消えた。

「おい!」

 部下は消えたのではなく、何かに襲われていた。

「犬?」

 認識しようとした最中、廃車の山の影からさらなる気配がした。

 犬のような獣の群れだった。犬種はバラバラだったが、10匹はいる。「犬のよう」とは見た目に違和感があったからだ。

 獣の群れは一斉に黒木達に飛びかかった。黒木達も銃やナイフなど各々の武器で応戦した。ブラックオーガは武闘派で知られる集団のため一方的にやられることはなかったが、獣達のスピードが速すぎたこと、また銃で撃っても獣達が死ないこともあり、次々と倒れていった。パニックになりサブマシンガンを乱射する者もおり、流れ弾で倒れる者いた。倒された者達は獣達から食べられていた。獣の口元からは咀嚼中の部下の腑が見えた。

 黒木は丸腰たったため素早くワゴンに戻り、日本刀を取り出した。襲ってくる獣を一刀両断にしたが、獣は死なない。どう見ても傷口から無数の糸が出て再生している。

 ふと部下を見ると、先ほどまで獣に食べられた部下が別の部下を襲っている。腹部からは内臓がはみ出しているのに、一心不乱に噛みつこうとしている。腹部を何度もナイフで刺されたが、一切怯むことはなかった。

「ゾンビ…」

 黒木の脳裏にゾンビ映画の光景がよぎった。

 次の瞬間、ふくらはぎに激痛が走った。

 見ると先ほど自分が頭部を撃ち抜いたはずの死体が左足にしがみつき、ふくらはぎに噛みついている。黒木は怒りにまかせ、自分のふくらはぎに噛みついている死体のを日本刀で貫いた。日本刀は頭蓋骨を貫通し、地面に突き刺さった。しかし死体はまだ動いている。

 映画やゲームに出てくるゾンビのほとんどは頭部にダメージを与えれば死ぬ。(もともと死んでいるので、死ぬという表現が適切かどうかは別だが)

「あの映画嘘じゃん!」

 黒木はあわてて噛まれてる足を引き抜いた。バランスを崩し、尻もちをついたが、日本刀に頭部を串刺しにされたゾンビは地面に固定され、動けなかった。黒木はそのままの体勢でゾンビの顔面をひと蹴りした。ゾンビの顔面は頭部を貫通し地面に突き刺さった日本刀により真っ二つとなり、その反動で日本刀は黒木の方向に倒れた。黒木はそれを難なくキャッチし、起き上がった。後方から黒木めがけて獣が飛びかかった。黒木は気配を感じ首を刎ねた。首は真下に落ちたが、胴体はまだ黒木の周りを走っている。切り口からは無数の糸が出て何やら再生しているようだ。

「ちっ、めんどくせぇなぁ」

 辺りを見渡すと部下達は全滅していた。獣や死体に食べられている者もいれば、ゾンビとして復活している者いた。

「とりあえず逃げるか。」

 乗って来たワゴンを見ると、ワゴンに向かって走る萌が見えた。

ドアは開いたままだが、キーは運転して来た部下が持っている。キーを持った部下は獣とゾンビと化した死体に食べられているところだった。

 黒木は向かっているゾンビを斬りながら、部下のもとに走った。距離は10m程度だが、数が多いことと斬っても死なないためなかなか前に進めなかった。そのうえゾンビの脂肪が刃に付着し斬れなくなった。仕方なくゾンビを刺すことで凌いたが、それが功を奏した。

 ゾンビを一体突き刺した後、もう一体右から襲ってきた。すぐさまゾンビから刀を抜き、襲ってきたもう一体を刺そうとしたが、身体を貫通していたこともあり、抜くことが出来なかった。反射的に右を向き、襲ってきたゾンビを貫通してはみ出ていた刃で刺した。すると刀によりゾンビが連結され、双方の動作がお互いの動作を邪魔し動きが鈍くなった。

「なるほど…」

 黒木は偶然ではあるが、自分のとった行動に関心した。

 当然いつまでも感傷に浸っている暇もなく、すぐさまキーを持った部下のもとに走り、群がっているゾンビを某ゲームの主人公のように一発の回し蹴りで蹴散らした。

 部下のジャケットを素早くまさぐり、キーを取り出したその刹那、死体だった部下が転化し、黒木を押し倒した。

 黒木の首筋に噛みつこうとする部下の顔面を下から右手で制しつつ、左手で地面をまさぐった。左手に冷たい鉄の感触があった。

 サブマシンガンだった。先ほど乱射していた者が力尽き落とした物だろう。黒木は素早くサブマシンガンを部下の口に突っ込み、連射した。

 部下は下顎のみ残した状態で上顎から上の頭部は黒木の顔の横に落ちた。

 部下を跳ねのけ、立ち上がろうとした瞬間、黒い物体が腹部に当たった。反動で黒木は再び仰向けに倒れた。

 最初に襲ってきた。犬のような獣のだった。獣のは黒木の腹部を喰い破り、腑を引きずり出した。

「ぐぉぉお!痛え!どきやがれ!」

 黒木は反撃しようとしたが、さらに先ほど回し蹴りで蹴散らした部下達に覆いかぶされ身動きが出来ない。

「クソがぁ!」

 精一杯の悪態であったが、半ば死を覚悟した。

 しかし犬のような獣も含めゾンビと化した部下達も一噛みしただけで、黒木から離れ別の獲物を探すかのように散開した。

 黒木は状況を理解出来なかったが、とりあえず立ち上がった。立ち上がった拍子に腹部から腑が落ちたが痛みはない。無理矢理腹部に腑をねじ込み辺りを見渡すと、生きている人間は自分だけなっていた。部下だけでなく、自分が殺した男女もゾンビと化している。さらには前に埋めたと思われる腐乱した死体もゾンビ化している。

 そんな中、ゾンビが群がっている箇所があった。

 萌が向かっていたワゴンだ。萌のことはどうでもいいが、あの中にはファイヤークリスタルがある!

 黒木はワゴンに走った。襲われることを警戒したが、ゾンビ達は黒木には一切興味を示さずワゴンを襲っている。ゾンビ達にドアを開ける知能はないようだ。窓を叩いたり、ドアに体当たりしたりしている。

 黒木はゾンビ達を押し退け、ワゴンに近づいた。助手席の窓から覗くと運転席で萌がスタートボタンを連打しているのが見えた。

 黒木は助手席のドアを開け乗り込もうとしたが、群がるゾンビ達が邪魔で半分しか開かないドアから上半身だけねじ込んだ形となった。

 突然の侵入に萌は悲鳴も漏らさずフリーズした。

 黒木はいやらしい笑みを浮かべ、車のキーを取り出し萌に見せた。

「これ、探してる?」

 萌の目の前でキーを揺らした。

 黒木は油断していた。こいつは反撃出来ない奴だと。

 萌はハンドル下から両足を抜くと、黒木の顔面を蹴りキーを奪いエンジンをかけた。

 黒木は車から落ちそうになったが群がるゾンビがストッパーとなり右手でシートベルトを掴み、助手席にしがみついた。それでも体の半分以上は車外に出ている。

「このアマぁ!」

 黒木は持っていたサブマシンガンで萌を撃とうとしたが、ワゴンが急発進した。

 黒木は助手席にしがみつくのが精一杯で銃を構えられない。

「止めろ!バカ!」

 萌を見ると顔が強張り、声が聞こえていない様子だった。

 ワゴンは猛スピードで蛇行を繰り返し、途中ドラム缶や廃車にぶつかった。

 やがて黒木も反動で車外に投げ出された。

「待て!こら!」

 黒木は叫んだが、ワゴンはゾンビ達を引き連れ森の中に消えて行った。

 

 



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