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2 ピーピング トム

「祐介様。もうすぐ着きますよ。起きてください。」

 目を開けると、目の前に黒いレースに包まれた、丸い物体があった。到着するまで、メイドのミユカの膝枕で一眠りしたのだった。目の前の丸い物体は言うまでもなくミユカの乳房である。Gカップ以上はあるだろう。ミユカの乳房越しに彼女の顔が見える。ミユカは確か30代半ばだが、黒いゴスロリのメイド服が良く似合う。目鼻立ちのクッキリした綺麗系の顔立ちが長身のスタイルをより際立たせている。

「ほら、ゲートが見えて来ましたよ。」

乳房越しのミユカのがこちらを見つめた。

これが恋人同士であったなら、寝起きのキスに発展しそうな場面だが、残念ながら彼女は父の数いる愛人の一人。そうはならない。ましてや俺相手にそういう行為してくれる女性は風俗嬢以外にはいないだろう。そもそも風俗にすら行ったことがないので実際のところはわからないが。

 そのようなことを考えつつ、ミユカに支えられながら身体を起こし、車の進行方向を見た。

きちんと舗装されていない田舎道を走っているのだが、皇自動車の最高級車「Taikou(太閤)」の性能かドライバーの腕が良いのかほとんど車内は揺れなかった。

 ちなみにドライバーの沙織も父の愛人である。長身で肉付きの良い躰に似合わず童顔で甘ったるい話し方をする。自分のことを話す際に「沙織はね」と話すことからも彼女の性格が伺える。A級ライセンスを持つ異色のレースクイーンとしてグラビアの依頼がくるほど、業界では有名だったが、太りやすい体質で体型が維持出来なかったことと、複数のレーサーとの交際が公になり、業界にいられなくなった。生活も派手で借金もあったため、失業後はセクシー女優になるか風俗嬢になるか悩んでいたところ、レースクイーン時代に父の会社のイメージガールをやっていたことで、縁あって多額の「お手当」を条件に愛人兼ドライバーとして、雇われたのであった。

 後部座席からバックミラー越しに沙織の顔を見つめていると、こちらの視線に気づいたのか沙織と目があった。咄嗟に目を逸らそうとしたが、沙織はこの上ない魅力的な笑顔を返してきた。天性の才能だろう。彼女の瞳に吸い込まれそうになりつつ、少しゾッとした。


 間もなくすると、金網製のゲートとフェンスが見えてきた。高さは3mはありそうだ。フェンスは広範囲に設置され、ゲートとフェンスの最頂部には有刺鉄線が設置されていた。

「あのフェンスで囲まれた山が全て祐介様のものですわ。お父様に感謝しないといけませんね。」ミユカが耳元で囁いた。

 「お父様に感謝?」

 「厄介払いのため生前贈与にもらった山に?」

 「40過ぎのクソニートを追い出せて、さぞ嬉しいだろう。」言葉には出さなかったが、顔が引きつった。追い出されて当然の理由があったのだが、父には感謝出来なかった。


 父に対して、このような反感を持つようになったのはいつからだろうか?

 母は物心ついた時には既にいなかった。僕を産んですぐに亡くなったそうだ。母はいなかったが、幼少期、母を恋しいと思ったことはなかった。僕の周りには常に綺麗な女性がたくさんいて、僕を溺愛してくれていたからだ。

 女性達が全員父の愛人だったこと、溺愛がまやかしだったことを知ったのは思春期の頃だった。


 当時、僕にはほのかに思いを寄せていた「ひな」というメイドがいた。歳は20代後半だったと思う。写真で見た母に何処となく似ていた。いや、実際は似ていないが、理想の母を彼女に投影したのだろう。彼女は僕の担当だったため、僕の身の回り世話を全て行ってくれていた。それは職務というより、「父子家庭の姉弟の姉が幼い弟の面倒をみる」状態に近かった。僕も彼女のことを「ひな姉」と呼んでいた。眠れない夜は僕のベッドの側に座り、頭を撫でながら、寝付くまでたわいもない話に付き合ってくれた。

 こっそりお互いの部屋を行き来したこともあったし、小学校高学年になると、夜は僕の方から頻繁に彼女の部屋に通うようになった。彼女はそれを窘めはしたが、結局は部屋に招き入れてくれ、朝まで他愛もない話をして過ごした。

 

 ある日のこと、いつもどおりひな姉の部屋に訪れると、ドアに鍵がかかっていた。部屋からは話し声がする。部屋にいることがわかったため、ドアをノックしようとしたが、何故か躊躇ってしまった。部屋からはひな姉の声の他、男性の声がした。声の主は父だった。時折ひな姉の笑い声が聞こえる。ひな姉は僕には決して使わない甘えた口調で何か話している。間もなくすると、話し声が聞こえなくなった。鍵穴から覗くと父の背中が見えた。父はドアに背を向け仁王立ちの状態だった。父の前にはひな姉が膝をつき、頭が父の腰の辺りで規則正しく動いている。しばらくすると父の腰からひな姉の頭が離れた。父は着ていた服を脱ぎ始めたが、ひな姉は既に全裸だった。父が全裸になったところで、二人は手を繋いで奥のベッドに消えていった。鍵穴からはもう二人の姿は見えなくなったが、その場から離れることが出来なかった。

 間もなくすると、ひな姉の部屋の灯りが消え、鍵穴からは部屋の中が一切見えなくなったが、途切れ途切れひな姉の声が聞こえた。最初泣いているのかと思ったが、そうではなかった。何か切ない感じの声で、その声を聞いていると、股間に違和感を感じた。僕は無意識に自分の股間を弄った。

 声の間隔は短くなり、時折、「あ…すごい…気持ちいい…もっと…」などの声が辛うじて聞こえた。ひな姉の声の間隔に合わせ、僕の股間を弄るスピードも速くなった。「あ…いい…あぁ……いきそう」ひな姉の声も次第に大きくなっていく。「いい…いくっ…いくぅ〜」ひな姉の絶叫とともに、僕の股間がはじけた。当然はじけてはいないが、股間から噴き出した液体でひな姉の部屋のドアはドロドロになり、床とパンツも汚してしまった。初めての射精、精通だった。

 僕はとてつもない罪悪感に見舞われ、ドアや床を拭くこともせず、自分の部屋に逃げ帰った。部屋に戻ってもひな姉の声を思い出し、自分の股間を弄り、何度も射精した。気がつくとそのまま眠りに着いていた。

 目が覚めると、ひな姉が無言で部屋を掃除していた。床には精液を拭き取ったティッシュや精液そのものが散乱していたはずだか、綺麗になっていた。そういえばひな姉の部屋のドアや部屋の前の床はどうなったのだろう。あれから父とひな姉はどうしたのだろう?気になることはたくさんあるが、ひな姉とは以前のように接することは出来なかったし、僕から話しかけることすら出来なかった。ひな姉も必要以上の会話しなくなった。

 数週間後、ひな姉は屋敷から出ていった。他のメイドの噂では学生時代から付き合っていた彼氏と結婚するとのことだった。


 ひな姉はいなくなったが、僕はあの夜の興奮を抑えることが出来なくなっていた。もちろん性に目覚め、女性には普通に興味があるのだが、盗聴や盗撮したもの比べると物足りなさ過ぎた。ひな姉はもういないので、あの夜のようなことは起こり得ないと思っていたのだが、夜な夜な他のメイドの部屋を徘徊し、盗み聞きや覗きを行った。しばらくは情事の現場に出くわすことはなかったが、数日後、父がメイドの部屋に入って行くのが、見えた。後をつけ、鍵穴から覗き込むと父とメイドが抱き合っていた。

 当然僕は鍵穴を覗いたり、聴き耳を立てたりし、自慰に耽った。


 父が屋敷に出入りする女性ほとんどと愛人関係にあると知ったのはそれから間もなくだった。僕は夜な夜な屋敷を彷徨い、覗きや盗み聞きに文字どおり精を出した。自分が成長するにつれ、その行為はエスカレートして行き、集音マイクで録音することから始まり、今では屋敷中に盗聴器と隠しカメラを設置し、父と愛人の情事のデータを保存した。時折偶然ではあるが、愛人のレズ行為や自慰行為など棚ぼたのデータも撮れることがあた。


 そうして、自分の趣味に没頭するあまり、学校にもロクに行かず、成績もどんどん下がって行った。しかしながら、お金の力でなんとか大学まで卒業し、父の会社にコネで入社。コミュ力もなく、働かなくても生活出来るため1年足らずでメンタルを理由(仮病)で退社。父の会社は誰か有能な社員が継ぐか、愛人達の誰かと子を作り継がせればいい。僕は遺産を遺留分だけでもいただければ一生遊んで暮らせるため、このまま屋敷に居座り死ぬまでニートで充分と思っていた。趣味でコスプレ衣装やフィギュアを制作し、コミケで販売したり、屋敷内を盗聴、盗撮し、毎日のんびり過ごしていた。


 そんな中、父の会社で機密データの盗難事件未遂があった。何者かがメインサーバールームに侵入し、データを取り出そうとしていたところ、警備員に見つかったという事件だった。犯人は警備員と格闘の末逃走。未だ捕まってはいない。

 事態を重くみた父は、自身が取締役会長を務める会社だけでなく、グループ会社、そして社屋だけでなく役員全ての自宅をお抱えの私設調査機関に一斉捜索させ、侵入の形跡や不審なものを洗い出させた。それは自身の屋敷も例外では無かった。


 幸い社屋や役員の自宅からは侵入の形跡や不審な物は一切出て来なかったが、事もあろうか、自身の屋敷から大量に不審な物が発見された。

 そう俺が仕掛けた隠しカメラや盗聴器である。さすがに自分のせいで、屋敷で働く人達が疑われるのは申し訳なかったし、父も自分の痴態を調査機関には晒したくないだろうと思い、父だけに自白しデータを見せた。

 父はしばらく絶句したが、データを消去するよう命じて部屋から出て行った。


 数日後、父から家を出て働くよう言われた。「皇家の財産である不老山を生前贈与するので、そこにある閉鎖された研究所を管理せよ。」とのことだった。一応の肩書は「皇グループ 資産管理部門 不老山研究所 所長」だったが、研究所は皇家の所有物ではないため、土地の使用料として、多額の金額が俺の口座に振り込まれる。研究所のデータが狙われる可能性もあるため、警備と不老山内の不法投棄問題の対処を命じられはしたが、俺一人なのでやらなくてもバレないだろう。つまり引きこもり先が変わっただけで、働かなくても土地使用料が振り込まれるわけだ。今までどおりコスプレ衣装やフィギュアを作成したり趣味に没頭しよう。まあ、盗聴盗撮が出来ないのは残念だが…


「到着いたします。」

運転席からスピーカー越しに沙織の声が聞こえた。


 山奥の閉鎖した研究所と聞いていたので、心霊スポットのような廃墟をイメージしていたが、スタイリッシュな三階建てのビルでかなり広い。研究員達が寝泊まりする部屋も完備され、さながら高級ホテルのようだった。もちろん研究室も当時のままでサンプルやひと通りの薬品等も完備されていた。所長室は最上階にあり、所長室の奥に僕の自室、プライベート空間がある。家を出る時に駄々をこねて、今まで生活していた自室を完全に再現するよう頼んた。その結果は完璧だった。コレクションしていたフィギュアの陳列状態はもとより使用していた。PCやコスプレ衣装の作成用デスクや学生時代に自由研究で制作した特殊警棒まで持ち込まれていた。特殊警棒について言えば、教師とクラスメイトからはドン引きされたが、後に皇グループの警備員の標準装備になったが…。

 自室の再現度に感動しながら、「ここで一人は広過ぎる。」「ウーバーを下まで取りに行くのは面倒だな。」など考えていると、メイドのミユカとドライバーの沙織がまだ残って研究員の宿泊施設にスーツケース等を搬入していた。

 蚊の鳴くような声で、

「今日は宿泊するんですか?」

と聞くと、ミユカが答えた。

「今日はと申しますか、会長より所長補佐まあ秘書を命じられましたので、解任されるまでここで生活します。なんなりとご命令ください。」

「あと沙織も専属運転手として、ここに住み込みますのでよろしくお願いします。」

続けて沙織が答えた。

 まさかの答えに動揺しているとミユカが続けて言った。

「あと警備員も2名配属されますが、明日から不法投棄調査及び対策で忙しくなります。まず不法投棄の場所や範囲、投棄物などを確認し、本社に報告することから始めます。今のところ祐介様や私達を含め5人での作業になります。頑張りましょう。」

 ガチで仕事をしなければならない事実を突きつけられ呆然としていると、ミユカが僕を気遣う言葉をかけた。

「お屋敷から出ていきなりの激務お察しいたします。私達も荷物の片付けが済んだら休ませていただきますので、祐介様も今日はゆっくりされてください。あっ、もちろん夕食や入浴の際はお声をおかけください。ご準備いたします。」

 すると沙織が小悪魔のような笑顔で付け加えた。

「そういえばこの建物の裏に天然の露天風呂があるんですよ。あとでミユカと行くんですけど、祐介様も一緒に入りませんか?」

 社交辞令かつ僕が混浴する勇気がないことを知ったうえでの発言だろう。ここは誘いに乗ってみるか…

「僕は…その…」

 気持ちのうえでは「YES」の一択だったが、やはり言葉を発せなかった。そんな気持ちを見透かしたかの如く沙織が驚くほど顔を近づけてきた。首筋から官能的な香水の香りがする。誰も見てなければ押し倒すところだ。もっとも2人きりの密室でもそんな勇気はないが…。

 目の前でフリーズしている僕の反応を愉しむかのように耳元で囁いた。

「水着じゃなくて、全裸で入るんですが、覗いちゃダメですよ。」

 一瞬、僕の全身が凍りつく。慌てて沙織から距離をとった。屋敷を盗撮していたことを父から聞いていたのか?

「小宮さん、祐介様に失礼ですよ。そんなことするわけないでしょ?祐介さま申し訳ございません。」ミユカが真剣な表情で深々と頭を下げた。

「ほら小宮さんもお詫びして。」

 沙織は再び近づき肩に手を置き、耳元で囁いた。

「祐介さま、ごめんなさい。」

 おもむろに僕から離れ、舌をちょっとだけ出し微笑みかけた。しばらく目が合ったが、潤んだ瞳が官能的過ぎて、思わず目を反らした。


 1時間後、自室で屋敷から持ち込んだ盗撮カメラを調整していると、ミユカから内線があった。

「露天風呂に行ってきますね。」

「あ…うん。」

 いつもどおり気のない返事をし、早々に通話を終えた。

 急いで後を追わねば。屋敷を追い出され、覗きの性癖は封印かと絶望していたが、千載一遇のチャンスだ。これからの新生活に光が見えた。

 実のところ露天風呂の話を聞いたあと、すぐにカメラをセットした。先ほどの調整は遠隔で角度等の調整だった。

 カメラをセットしたとはいえ、裸体を肉眼でみたい。カメラセット時に潜める場所は確認している。

 

 脱衣場の裏に到着すると、既にミユカと沙織が到着していた。外から覗けるように壁には穴を開けている。覗き込むと2人とも浴衣姿でじゃれ合っていた。沙織がミユカを後ろから抱き、耳元で何か囁いている。

「もうこんなところで…」

 ミユカが笑いながら、沙織の方を振り向き見つめあった。おもむろに軽くキスをお互いの浴衣を脱がしあった。浴衣の下は2人とも全裸だった。ミユカは想像したとおりスタイルがよく肌はロイヤルミルクティーのような綺麗な色をしていた。さながらダークエルフのような肢体だった。僕同様、沙織もミユカの肢体に見惚れていたが、そっとミユカの豊かな乳房に触れ、首元にキスをした。

「あっ、もうこんなとこで…」

 ミユカもそうは言うものの、笑みを浮かべ沙織の白い乳房を愛撫した。ミユカと比べ沙織は肉付きがいいが、むしろ健康的なスタイルだった。

「あっ、これ以上は…ヤバい…」

 先にギブアップしたのは沙織の方だった。

「ふふ…じゃあ続きは後で…」

 形勢は逆転し、ミユカが主導権を握っていた。2人は手を繋ぎ、脱衣場を出て、露天風呂に行った。

 僕は脱衣場に潜み、そこから彼女達の入浴を覗くことにした。脱衣場から露天風呂はよく見渡せた。約10畳ほどの岩風呂で囲う塀等はなく木々に囲まれている。既に2人は入浴し、湯船で唇を重ねていた。僕も我慢出来なくなり自分の股間を弄り始めた。

 と、その時、岩風呂の奥の木々が揺れ、かなり大きな音がした。何かが岩風呂に落ちたのだ。

 ミユカも沙織も咄嗟に身体を離し、音の方角を警戒した。

 岩風呂に落ちた物体は起き上がり、ミユカ達に向かいながら叫んだ。

「助けてください!」

 声の主は20代くらいの小柄な女性だった。女性はそのまま倒れ気を失った。顔は汚れ、衣服も破れている。森を抜ける時に破れたのだろうか?

 ミユカは女性に駆け寄りながら沙織にタオルを取ってくるように指示した。

 奥の木々からは獣の吠える声が近づいている。野犬だろうか?かなり数が多い気がする。

 とりあえず沙織が脱衣場に戻って来るため、慌ててクローゼットに身を潜めた。

 獣が吠える声が近づいている。

 沙織は棚からタオルを握り、全裸のまま岩風呂に戻って行こうとした時、岩風呂に複数の物体が落ちる音が聞こえた。

 沙織が脱衣場から出た時、ミユカが女性に肩を貸し脱衣場のすぐそばまで来ていた。後ろからは何かが追って来ている。犬のような獣の群れだった。犬種はバラバラだったが、10匹はいる。「犬のよう」とは見た目に違和感があったからだ。

 しかし、考えている暇はない。沙織はミユカに手を貸し脱衣場に引き込んだ。幸い獣の群れは岩風呂の中を通るため移動速度は落ちていた。

 すぐさま脱衣場の扉を閉めたが、獣の群れは扉にぶつかってきた。一撃で木製の扉は割れたが、まだ侵入出来るほどの隙間はなかった。

「このままではすぐに扉が破られるは。急いでここを出ましょう。」

 ミユカと沙織で女性の両脇を抱え、研究所側のドアから出て行った。

 その瞬間岩風呂側の扉が完全に割れ、数匹脱衣場に侵入した。

 僕は何か何だかんだわからなかったが、クローゼットの中で息を潜めるしかなかった。

 獣達はミユカ達の姿が見えないにもかかわらず、すぐに研究所側のドアに体当たりした。臭いで追跡しているのだろうか?

 クローゼットの隙間から獣達を観察すると、ポメラニアンやチワワのような犬種に見えるが秋田犬のように大きい。目や鼻が欠損している獣もいる。傷の具合から見て死んでいてもおかしくないが、普通に動いている。欠損している部分からは何か糸のようなものが蠢いてみえる。

 1分もかからない内に獣達は研究所側のドアを破り、ミユカ達を追跡した。


 一方ミユカ達は女性を抱えながら必死に逃げていた。研究所のドアまであと少しというところで、ミユカはドアを開けるためのIDカードが無いことに気づいた。普段は首から下げているが、浴衣と一緒に脱衣場に脱ぎ捨てたままだったのだ。

「一応確認ですが、沙織さんIDカード持ってます?」

2人とも全裸なので持っているわけないが、念のため確認した。沙織も事態を察知し、無言で首を振った。

 ドアのIDカードリーダーの前には着いたが、沙織は座り込み泣きじゃくった。

「こんなの聞いてない。こんなとこで死にたくない。ミユカちゃん、この子を犬に投げ出して、逃げようよ。」

 ミユカは沙織に言葉を返さず、インターホンのボタンを連打した。

「祐介様、開けてください!」

 祐介はまだ脱衣場にいることを2人は知らない。沙織は泣きながらドアを叩いた。

 無情にもインターホンもドアも何の反応もしなかった。振り向くと獣の群れはすぐそばまで来ていた。沙織は諦め、その場に座り込み悲鳴を上げた。

「嫌ぁぁー!」

 それが合図かのように先頭の一頭が沙織に飛びかかった。

 その瞬間、けたたましいクラクションとともに1台のSUV車が獣を跳ね飛ばした。

 後部ドアが空き中からショートカットの女性の声がした。

「とりあえず乗ってください。」

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